第41話 家族の誓い


「断る」


 俺は首を横に振った。


「大人の都合で子供を振り回すのは可哀想だ。どうするかは本人の意志を聞いてからだ」


「クロは優しい子なの。悪戯に周りへ危害を加えるとは思えない。万が一の場合があったら、その時は――」


「俺とダイアナで、クロを護る」


 俺とダイアナは手を繋ぎ、正面からエイラを見つめる。

 俺たちの言葉を受けてエイラは――


「おまえたちなら、そう言うだろうと思っていたよ」


 苦笑を浮かべて緊張の糸を解いた。


「確かめるような真似をして悪かったな。だが、私にも立場がある。断られたからと言って、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない」


「規則に縛られるのが嫌いで森を出たエイラが、まさかお役所仕事とはね。人間……いや、エルフも変わるもんだな」


「仕方ないだろう。エルフの女王ロリッサさまは絶世のロリなんだぞ? 名前からして反則だろう? そんな女王に猫なで声で『お願い。世界の危機を救ってニャン』なんてお願いされてみろ。濡れるっ!」


「濡らすな!」


 クロを寝かしつけておいてよかった。エイラの話を聞かせたらクロの知性が下がってしまう。


「とりあえずは神殿の調査を進めるべきだろう。儀式の件も憶測に過ぎないからな」


 そんなエイラの提案にダイアナが困ったように唸る。


「うーん。だけどあの神殿、ギルドの調査が入ることになってるのよね。相手と鉢合わせないために先に向かおうとしたんだけど」


「クロが熱を出して倒れちまったからな。すでに探索者エクスプローラーがパーティーを引き連れて出発してる頃だろう」


「それなら心配はいらん。ギルド経由で調査依頼を出したのは私だ」


「えぇっ!? あの依頼主ってエイラだったの?」


「ああ。これでも特級クラスの探索者エクスプローラーだからな。シズよりランクが上だ。敬うがいい」


「へいへい。特級さまはお偉いですね。靴でもお舐めしましょうか?」


「おまえ、そういう趣味があったのか。付き合うダイアナも大変だな……」


「ただの皮肉だよ! 俺はノーマルプレイしかしない!」


「ワタシはちょっと強引なのが好きだけどね」


「ダイアナさんっ!?」


 まさかの告白にツッコミを入れてしまう。

 そうか。それなら今度、ちょっとハードなプレイに挑戦してみよう。


「案内役も兼ねて村にいる高ランクハンターを募るつもりだったが、ちょうどいい。おまえらを連れて行こう」


「ワタシは残るわ。エイラなら精霊力マナの感知もできるでしょ。クロの看病も必要だし」


「いいのか? あんなに調べたがっていたのに」


「正直、迷ったけど……」


 俺の問いかけに、ダイアナは苦笑を浮かべて天井を見上げた。


「今はクロのそばにいたいの。不安なときほど人肌が恋しくなるものだから」


「そっか……」


 ダイアナも母親らしいことを言うようになった。クロと接してるうちに母性が目覚めたのかもしれない。


「わかった。それなら私とシズで調査を行うことにしよう」


 エイラは頷くと、壁から背中を離して2階へ通じる階段へ向かった。


「今から遺跡に向かうと到着する頃には日が暮れる。明日の朝、改めてギルド前に集合だ」


「おいこら待て。どこへ行くつもりだ。その先は寝室だぞ。俺と一緒に寝るつもりか」


「なんだシズ。可愛い嫁さんがいるのに火遊びか? すまないがおまえは私の趣味ではない。10歳は若返ってから出直してこい!」


「出直すのはおまえだ! ドサクサにまぎれてクロに夜這いをかけようとしていただろ!」


「ドサクサになど、まぎれていない! ごくごく自然な流れだ! クロの身に何が宿っているかわからないんだぞ。身体の隅々まで調べる必要がある。せっかくなので朝までコースでお願いします。延長料金は前払いでどうだ!」


「どうもこうもない! いますぐ帰れ! この万年発情期のヘンタイエルフ!」


 俺はエイラの身体を抱きかかえると、遠慮なく外へ放り投げた。


 エイラは腕も確かだし、黙っていれば美人なのにな。

 天は二物を与えずとは、このことだろう……。






 -------------------------------------------------------------------

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 読者さまの☆や作品フォローが創作の後押しになります。少しでも面白い、先が気になると思われたら、応援の程よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る