第4話 勇者と王女の出会い
「わかった。そのティアなんとかって世界に転生する」
俺の力が誰かの役に立つなら、その期待に応えたい。
それこそが生前に成し遂げられなかった俺の夢。
生きる目的だったから。
「俺が勇者として活躍すればそこに住んでる連中が笑顔になるんだろ? ならやってやるさ」
お人好しだと笑われてもいい。
馬鹿げた選択だと呆れられてもかまわない。
それでも俺は選び取る。
無価値だと烙印を押された俺の人生に、ここから先の未来があるのなら。
「世界が平和になったら可愛い嫁さんと田舎でのんびり暮らしたいな。それくらいの褒美なら貰っても罰は当たらないだろ?」
「ありがとうございます。アナタの勇気ある選択に敬意を表します」
女神さまは深く目を閉じて一礼をした。
驚いた。神さまなのに人間相手に頭を下げるなんて。
相手は魂を管理してる神さまだ。強制的に転生させることだってできただろう。
だが、女神さまは自分の運命を俺に選ばせてくれた。
「こっちこそ礼を言うよ。アンタ、いい神さまだな」
「ふふっ。神を口説くなんて不遜ですよ」
俺は女神さま――スクルドの左手を取った。
指先が触れた瞬間、春の木漏れ日のような温かな陽光が俺の身を包んで――――
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光が晴れる。
「ここは…………」
気がつけば、俺は大理石が敷き詰められた大ホールの真ん中に立っていた。
ホールには白亜の石柱が等間隔に並べられており、窓には天使らしき赤子の絵が描かれたステンドグラスが貼られていた。
「手の感触は…………あるな」
ステンドグラスに向けて左手をかざしてみる。
向こう側が透けて見えない。熱い血潮も通ってる。
服もきちんと上下揃っていた。新聞を配達した時のジャージ姿そのままだ。
意識もしっかりしている。
俺は俺――
どうやら無事に――――
「やったわ。召喚成功よ!」
台詞を取られてしまった。
声がした方向へ視線を向けると、金髪碧眼の女の子が巨大な女神像を背にして立っていた。
見た目的には小学生高学年くらいだろうか。
モデルのような端正な顔立ちをしており、長い睫毛と意志の強そうなクリっとした碧い瞳が特徴的だ。誰が見ても美少女だと評するだろう。
ややスレンダーな体型をしているが、健康的に痩せている。
下はミニスカート。ピンク色のトップスの上に、金の刺繍が入った白いマントを羽織っている。
何より際立ってるが、女の子が手にしている白銀の
ひと目で魔法使いだとわかる。
「ふふん。やっぱりワタシは天才ね。五体満足のまま勇者さまを召喚できたわ!」
女の子は蜂蜜色の長い金髪を揺らして、手に持った
それから軽く咳払いをして、俺に右手を差し出してくる。
「お伺いします。アナタがワタシの勇者さまですか?」
言葉は通じる。ここにきて否定するわけもいかない。
俺はすでに太陽神スクルドと
この手で世界を護る、と――――。
「――――ああ。どうやらそうらしい。キミが俺を喚んだのか?」
「ええそうよ! ああ、よかった。言葉も通じるのね! 話が通じなかったら頭を殴って言うことを聞かせるところだったわ」
「お、おう……」
「なんて冗談よ! ごめんなさい。興奮して自分でも何を言ってるかわからない!」
目を輝かせてグイグイと迫ってくる女の子。
周りの様子を窺うと、大聖堂には神官風の衣装に身を包んだ老若男女の人間たちが俺を取り囲んでいた。
手には錫杖を持っている。俺を警戒して包囲しているわけではなく、どうやら召喚の儀式に参加していたようだ。
「こほん。ワタシとしたことが浮かれてしまいましたわ」
周りの視線に気がついたのだろう。
女の子は顔を真っ赤にして咳払いをした。
「自己紹介がまだでしたわね。ワタシの名前はディアナ・K・プラジネット。ダイアナとお呼びください」
「俺は……シズ。ただのシズだ」
不思議とその名前が口から出る。
【
新しく生まれ変わったんだ。名前も変えよう。
「よろしくね。勇者シズ!」
淑女的な振る舞いは5秒ともたないのか、女の子はにこやかな笑みを浮かべて俺の手を両手で握ってきた。
澄ました顔より笑顔の方が可愛い。
俺も笑顔を浮かべ、その手を握り返そうとして――
「うっ…………おろろろろろろ」
「きゃーーー!? 勇者さまが吐いた! 衛生兵、衛生兵~っ!!」
俺は大聖堂のど真ん中で盛大に吐いた。
それが俺――――【仮面の勇者アガート】と、プラジネット
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