第2章 窓際三流ハンター・シズの加齢なる日常
第16話 魔王を倒した後の物語
――――これまでのあらすじ。
8年前。大陸の北西に位置する島国【プラジネット
モンスターを操っていた【狂乱の賢者ダンダレフ】は自らを【魔王】と称し、たったひと月で
――――魔王出現から2年後。
大陸を襲った未曾有の危機に対して、
亡国の王女と勇者は、長い旅路の果てに見事魔王を討ち取った。
しかし、脅威は完全に去ったわけではない。
魔王は散り際に、こう言い残したのだ――――
「ふははは! 我が倒されてもいずれ第二、第三の魔王が現れるであろう。魔神クロウ・クルワッハさま万歳! どがーんっ! はい。ここで魔王が大爆発。お城が崩れ去った~。どどどど~、ばごーん!」
早朝。教会に併設された木造平屋建ての孤児院の中庭で、俺は子供たちに紙芝居を見せていた。
「今回の話はどうだった? よければ感想と『いいね!』を頼む!」
上演を終えた俺は、喰い気味に子供たちへ声をかけた。
1週間かけて作った新作だ。評価が気になる。
孤児院の管理人であるシスターに頼まれて、教育番組的な内容も盛り込んでみた。
俺としてはかなりの自信作なんだが……。
「固有名詞が多くて、じょうほーが頭に入ってこない」
中庭に集まった子供たちは、ため息をつきながら首を横に振った。
「展開が早すぎて感情移入できないよ」
「擬音が多すぎ。子供はだませても、大人なボクらはだませないぞ。キリッ」
「はい……善処します……」
辛辣なコメントを次々に浴びせられて、俺はうなだれる。子供は容赦がない。
俺が心の中で涙を流していると、おかっぱ頭の少年が目を輝かせながら声をかけてきた。
「ボクはいいと思ったよ。おっさん先生の次回作に期待してるね!」
「ありがとなボクちゃん。飴いるか?」
「いらないよ。見ず知らずのおっさんからモノを貰うなってシスターに言われるから」
「誰が見ず知らずのおっさんだ! 毎朝、孤児院に顔を出して紙芝居見せてやってるだろ。それと俺はまだ24歳だ! 十分に若い!」
「成人の儀式から9年も経ってるじゃん。じゅーぶん、おっさんだよ!」
「うるせー。ウチの田舎では二十歳で成人を迎えてたんだよ。20代前半なんてアソコの毛が生え揃ったくらいの年齢だろ。おっさんと呼ばれるにはまだ早い!」
「わーーー! よくわかんない理由でシズさんが怒った! 逃げろ~~~! オーガごっこだ~~~!」
「オーガごっこ……あ、鬼ごっこか」
紙芝居が終わって飽きたのだろう。
子供たちは俺をオーガに見立て追いかけっこを始めた。
ティアラ・ノーグの固有名詞が出てくると、言語の自動変換がたまに誤作動を起こすことがある。
この身体に入ってから6年以上経つから、さすがに慣れたけど。
体力は有り余っている。運動不足解消がてら、子供たちに付き合ってやるか。
「オレサマ、オーガ。オマエ、マルカジリ!」
「タスケテ~! おっさんに食べられちゃう~! 性的な意味で」
「誰か騎士さまを呼んでください。この人、痴漢です!」
「やめて! 騎士を呼ばれたら牢屋行きだからマジでカンベン!」
わーきゃー騒ぎながら逃げ回る子供たちを、俺も別の意味で悲鳴をあげつつ追いかけ回す。
子供たちは無尽蔵の体力にモノを言わせて、中庭を元気に走り回っていた。
「やれやれ、朝から元気だこと。だけど、子供はこれくらい活発的じゃないとな」
日本だろうが異世界だろうが、子供たちの笑顔は何も変わらない。
何の憂いもなく子供たちが遊び回っている。
これこそが平和の象徴だ。
勇者としてダイアナに召喚されたあの日から、6年が経過していた。
子供達に語り聞かせたように、魔王は俺の手によって討伐された。
もっとも、世間的には”勇者軍”が魔王を倒したことになっている。あくまで俺は影のヒーローだ。
俺は社会的な地位が欲しいわけでもなく、賞賛を浴びたいわけでもなかった。
俺が護りたかったのは子供たち、そしてダイアナの笑顔だった。
俺は遠くで手を振る子供たちに、生温かい視線を送り――
「もう疲れたの? シズさん、やっぱりおっさんじゃん」
「ププっ。ザーコザーコ。肉体年齢四十歳。人生の曲がり角」
「このクソガキどもめ! 人が手加減してやってるのに、いい気になりやがって。わからせてやろうか」
「あらあら。みんなして騒いでどうしたの?」
水鏡を見つめて自分の容姿について悩んでいると、教会の扉が開いた。
中から紺色の修道服を着た、金髪の若い女性が姿を現す。
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