第2話 三秒の苦痛
「赤のジャンル――魔女・ドロシー・ワーク……、炎を行使するッ」
相手を敵と認識し、三秒以内。
私が放った球体型の炎がフィールドバックに直撃し――そして、
爆発し、霧散した。
当然、ただの炎の魔法であり、直撃したからと言ってこうはならない。要素を細分化し、その内の一つだけを表面化させ、それ以外を切り捨てる【カスタマイズ】をしたところで、あんな威力を出すことはできないだろう。
カテゴリの爆破の性能を鋭利に伸ばしても、破片が散ってしまうはず……フィールドバックはその破片でも生存できるのだ。
ただし私の『これ』は、相手を確実に絶命させる。
どんな相手だろうと、どんなに弱く威力をカスタマイズした魔法だろうと。
私が敵と認識し、三秒以内に攻撃を当てさえすれば、相手は必ず、死ぬのだ――。
それが、私が抱えた呪い。
間接的に他の魔女から仕掛けられた、悪魔の呪いである。
そう――『先手必勝』……、先手さえ打てば、私は必ず勝利を掴むことができる。
呪いとは言ったが、好条件な武器を得たようなものだ、と言えるかもしれない……。知った仲には、使い勝手は悪そうだけど持ってて損をすることはない、と言った冒険者もいた――。
でも、考えてみると、大きなリスクを孕んでいたりするのだ。
先手を逃せば、私はその人物に今後一切、攻撃が当たらない。
当てても無意味だ――全ての威力がゼロにされるため。つまり、シンキングタイム三秒の間に、先手必勝を使うかどうかを迫られる。もしも不使用を選べば、その人物に今後一生、私は対抗する手段を持てなくなるということだ。
だったら襲い掛かってくる全員に先手必勝を使えばいい? バカを言わないでよ――、中には無理やり操られて襲ってきている人だっているかもしれない。
理由があって、勘違いして――そういう人に先手必勝を使うわけにはいかない。
先手必勝とは、つまり相手を確実に殺せるという意味だ。
生かすか殺すか、それを三秒で決めろ、と言われているわけだ。
私の三秒で、相手の人生が決まる。
世界が悪人で溢れていれば、どれだけ楽だったか。
善人なんていなければ――、全員が敵だったら。
人間はみな、どちらの一面も持っている……悪人であり、善人であり、そのどちらかであるかなんて、三秒で分かるわけもない。
だから私は、きっと多くの善人『だったかもしれない』人を、殺しているのだ……。
前世代の魔女がやらかしたことへの罪滅ぼし? 違うわ……、私は、私自身の安易な選択で殺してしまった人たちの罪滅ぼしのために、この世界にいる……。
たとえ、嫌悪されていても。
たとえ、都合良く利用されていようとも。
ここにしか居場所がない、としても――。
この呪いを解かず、罪を清算しないままでは、魔女の世界には帰れない。
フィールドバックはあの一体だけだった。
緩んだ封印の地からは、またフィールドバックが出てくるだろうが……、あの大きさの脅威となると、数十年後かな? 小粒なフィールドバックは数日後に出てくるかもしれないから……冒険者には頑張ってもらわないとね。
「さんきゅー魔女さん」
「助かったぜ、またよろしく」
「報酬はいらないよな? あんたらの不始末なんだし」
「……さっきまで腰が抜けていた冒険者とは思えない態度のでかさね」
いいけどね。私は心が広いから許してあげる。ただ気を付けて。特に赤のジャンルの魔女は血気盛んな女が多いから、そんな態度でいたらすぐに殺されるわよ?
町へ戻っていく冒険者たちを見送りながら、私は封印の地の闇へ――、
そこは硬い地面であるものの、水面があるように波紋ができている。
そこへ指をつけ、訊ねてみた。
「この呪いを持つ悪魔は、どこにいると思います?」
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