第32話 楽しい文芸部活動

 パァン、とクラッカーがなった。


「おめでとう、雪花ちゃん!」


 天川部長だった。そうして、部内に拍手が巻き起こる。


「えっと、なんだ、これ?」

「『楽しい文芸部活動』、ッスよ」


 その単語は度々耳にしていたものだが、ようやくその意味を紅理子ちゃんが説明してくれた。


「要するに、『文芸部活動中の鐘太パイセンと雪花パイセンを温かく見守る活動』ッスよ。レギュレーションは『二人の関係を刺激するようなことは決して行わず、自然に任せる』。お二方の初々しい感じは恋愛モノ小説の参考にもなるッスし、何より、見ていて楽しいんスよ。雪花パイセンはかなり露骨に鐘太パイセンに好意を示しているのに、鐘太パイセンは創作一辺倒で。そのチグハグ具合が味だったッスね」

「本当にご飯を持ってきたのは動きがあると確信できた今日が初めてだが、そうだな、毎回ご飯三杯はいけるぐらいのいい味が出てたぜ」


 それはどういう基準なのか?


 見世物にされていたと思うと少々思うところがあるが、それでも実害はないどころかこうして祝福されていると、怒るに怒れない。


「ま、互いの気持ちを認めたところで、そうそう二人の在り方は変わらんだろうからな。これからも、『楽しい文芸部活動』は継続するぜ!」


 パチパチと賛同の拍手が上がる。

 雪花も拍手をしていた。


「もしかして、雪花は知ってたのか」

「それはそうよ。鐘太はいつもみんなを背にしてたけれど、向き合うわたしは部室全体が見通せるのだから。温かい視線をずっと感じていたわよ」


 そういうことらしい。そういえば『温かくて居心地のいい文芸部』と言っていたな。


「だから、これからもいちゃいちゃしましょう」


 彼女は嘘をつかない。本気でそう思っているのだろう。

 対応に困っていると。


「別に何も変わる必要はないッス。これまで通りにしてればいいんス」


 紅理子ちゃんに諭されてしまった。どうにも世話になりっぱなしだな。


 そうして、紅理子ちゃんは居住まいを正し。


「それで、鐘太パイセンとのことはハッピーエンドな感じッスけど、あたしとの用件、いいッスか?」

「そうね。今日という約束だったものね」


 ここからは、紅理子ちゃんのターンらしい。

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