第30話 弾幕に隠されたもの その2

 第五の弾幕に、紅理子ちゃんが挑む。


「次はどういう風に……って、ああ、そういうことッスか」


 画面の上部に三つ。中央に三つ。最下部に三つ。


 等間隔に現れた魔方陣を見て、紅理子ちゃんはすべてわかったようなことを口にし。


「右上しかないッスよね。色違うし」


 と右上の魔方陣に移動する。


 他の魔方陣から無数の弾が発射されるが、その魔方陣の中が安全地帯となっている。


 無数に蒔かれた弾が消えない間に魔方陣が点滅。


「次は上の真ん中ッスね」


 そう言って、弾を避けながら魔方陣に重なる。再び、自機を重ねた魔方陣以外から無数に弾が発射された。


「要はモグラ叩きッスね、これ」


 そうだ。魔方陣から無数に発射される弾幕は、九個の魔方陣の内の一つが安全地帯となる。


 よって、弾を躱しながら魔方陣の攻撃が始まるまでに次の安全地帯の魔方陣を選んで自機を重ねていくという趣向の弾幕だった。『モグラ叩き』という比喩は適切だろう。


「次は左上……左真ん中……画面中央……右真ん中……画面中央……左真ん中……左下……下真ん中……右下……で終わり、ッスか」


 初見にも関わらず、答えが解っていたように弾幕を躱しきっていた。


「次は魔方陣が左上にってことは右上?」


 魔方陣の周囲から大量に弾が撒らされ、


「ありゃ? 外れッスか」


 あっという間に追い詰められてミス。


「でも、それならこういうことッスよね」


 だが、それでもう答えはわかったようだ。


「魔方陣の中が安全なんスね」


 左上に移動して魔方陣と重なり、斜めに画面中央へ、続いて画面右上に、再び画面中央に戻り、画面下中央に。


 魔方陣の速度は速く、安全と言っても流れ弾は避けないといけないのでそう簡単ではないはずだが、それでもサクッとクリアしてみせた。


 もう、残り二つ。


「次はまた回るんスよね」


 始まる前から、紅理子ちゃんは予想を口にしていた。

 その通りだと言うことを俺は知っている。


 画面中央の上下左右。十字を描くように四つの魔方陣が出現する。

 魔方陣と魔方陣の間をつなぐように無数の弾が吐き出される。

 これで、画面の内側に入るのは厳しくなり、外周に移動範囲を制限される。


 しかし。


「見た目は派手ッスけど、自機狙いの弾だけを誘導してグルグル回ればいいんスね」


 紅理子ちゃんは画面下中央にあった自機をゆっくりと右回りに動かし始める。

 危なげなく二周したところで一分間を乗り切った。


 そして、俺が苦労してクリアした最後の弾幕へ。


「二択ッスけど、さっきから左上開始で揃ってるから、こっちッスかね」


 始まった瞬間に左上の安全地帯へ移動する。


 いや、弾幕の予兆も出ていない状態でなぜ解る? しかも正解だ。俺のさっきの苦労はなんだったんだ?


「なんかさっきまで雪の結晶だったのに、なんか違う形の弾が……これ、蜂のヤツッスね」


 どうやら、紅理子ちゃんも蜂は知っているというか、ルージュさんが家でプレイしてるなら知ってて当然か。


「移動はないから、ああ、この残った弾を避けつつ、次の地点……左下ッスね」


 そうして、ばらまかれた中で速度の遅い弾が残る中を、掻い潜りつつ画面左下へ。


「次は右下、次は右上ッスよね?」


 見るまでもない、という風に言って、その通りに動かす。


 本当、俺のさっきの苦労が報われなさ過ぎる。


 難なくクリアし。

 最後のメッセージを見て。


「ああ、なるほど。To Shotaって脳内でつけ足して読んどくッスから」

「ありがとう。本当に気のつく可愛い後輩ね」


 クリアした紅理子ちゃんの頭を、無表情に撫でる雪花。


 ひとしきり撫でられた後。


「あの、今の見て、何か気づいたッスか?」

「いや、紅理子ちゃん、弾幕シューティング俺よりずっと上手いなぁ、と」


 素直な感想を言うが。


「そこじゃないッス! ああ、なんかもう、腹が立ってきたッス! 鐘太パイセン、正座!」


 なんだか、紅理子ちゃんの剣幕がすごい。

 これは、正座した方がいいのだろうか。


「いいのよ、紅理子ちゃん」

「でも、これはいくらなんでも雪花パイセンが可哀想ッス。あたしが同じ立場なら、泣いてるッスよ」


 どういうことだ? 俺は、雪花を泣かせるようなことをしているのか?


「どうしてこれに気づけないんスか! あんな小説書いておいて!」


 どうにも憤懣やるかたないようで、紅理子ちゃんの語気がまだ荒い。


「しかたないわよ。わたしも、あの小説を読んで期待したけど、方向性は違ったから」


 淡々とした雪花の言葉が、こういうときはありがたい。


「それに、紅理子ちゃんは『ゲームに託す』というやり方の先例を知っているから気づけたのよ。予備知識がなければ、もう少しかかったと思うわよ」

「あ……そうッスね」


 何か思い当たるところがあったのか、紅理子ちゃんは納得して語気を収めたのだった。

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