第29話 弾幕に隠されたもの その1

「さて、鐘太の小説はおおむね大絶賛だったというところで、わたしの弾幕についての感想を聞きたいのだけれど」


 そうだな、次は俺の番だ。


「今回の弾幕は、今までのよりも弾数は多かったけど、しっかり計算されていたんだな。位置取りと誘導、その時にパターン化できないちょっとばかりのアドリブが要求されてアクセントになっていて。よくできた弾幕だったと思う」


 最近は、少し踏みこんだ感想を言えるようになっていたので頑張ってみたのだが。


「そう、楽しんでもらえたのならいいけれど……それだけ、かしら?」

「え? いや……そんなところ、だな」

「そう」


 それだけ言って、雪花は黙りこんでしまう。


 どうしたのだろうか?


 そこに。


「えっと、雪花パイセン、ちょっとさっきの雪花パイセンの感想を聞いていて気になったことがあったんで、あたしにもそのゲームやらせてもらっていいッスか?」

「え、でも、これは、鐘太のために創ったから……」


 紅理子ちゃんの言葉に、雪花はしぶる。

 俺のためだとしても、広く遊んでもらえるのは喜ばしいことのはずだか?


「大丈夫ッス。あたしは気になってることを確認するだけッス。状況によっては手伝うッスから」


 俺にはさっぱりわからないが、紅理子ちゃんは意味ありげなことを言う。


 しばし、雪花は沈思し。


「……そういうこと、ね。わかったわ」


 紅理子ちゃんの言葉を受け入れていた。


「でも、紅理子ちゃん、弾幕シューティングはできるのかしら?」

「家にゲーム機とソフトはあるんで、それなりに遊んだことはあるッスよ」

「そう。なら鐘太よりは慣れてそうね」


 雪花はコントロールパッドを紅理子ちゃんに渡す。


「では、遊ばせていただくッスね」


 ノートパソコンの画面の向きを調整して、俺にも見えるようにしてプレイを始める。


 最初の弾幕。


 左右に分かれた魔方陣から無数に雪の結晶を模した弾がまき散らされる。一瞬行き場を探そうとしたものの。


「あ、これ全部奇数弾ッスね。左右からということは、初期位置からあまり動かず」


 一目見てそんなことを言い、自機を初期位置の画面下部中央に置く。

 左右から飛び来る弾は、自機に向かって集中する。


「これで、少しずつ上に移動してけってことッスかね?」


 ちょっと上にいけば、冗談のように自機を避けて弾が飛んでいく。すべての弾は最初に自機があった位置を狙っているから、道理だ。


「上に着いたら、下にッスかね」


 同じように少しずつ下に移動する。

 それを二往復ほどすると、一分が経過。

 初見ノーミスで最初の弾幕をクリアしたことになる。


「う~ん、でもこの動き、なんか作為を感じるッスね」


 と言いながら、二つ目の弾幕へ。


「うわ、なんすかこれ?」


 画面の右上に大きな魔方陣が現れ、そこを始点にして画面全体を薙ぎ払うように太いレーザーが何本も伸びてワイパーのように動き回る。


 なんとかフラフラと躱すものの逃げ道を塞がれて被弾。


 だが。


「ああ、初見殺しっぽいッスけど、もしかして……」


 始まった途端、紅理子ちゃんは自機を画面の左上に配置する。


「やっぱり、ここッスね」


 俺が気づくのに大分時間のかかった安全地帯に、ワンミスで気づいていた。

 しばらくすると魔方陣が消え、画面右下に現れる。


「ということは、次はここだったり」


 画面の左下に陣取る。上下が入れ替わったようなレーザーの薙ぎ払いとワイパーは自機の居る場所にだけは到達しない。


「なるほど、次は、ここッスね」


 魔方陣が消えた途端、右下へ移動。


「今度は戻るッスか。ということは、左上、左下、右下の順に安全地帯から安全地帯へ移動すればいいっぽいッスね」


 正解だった。さすがはルージュさんの娘だ。


「う~ん、なんか二つで予想はできた気がするッスけど……」


 紅理子ちゃんはそんなことを言うが、何か法則があるのか? 俺にはさっぱりわからない。


「もう少し、進めるッスね」


 第三の弾幕。


 画面中央に魔方陣が現れ、放射状に大量の弾をまき散らす。


「うん、やっぱり回るッスよね、ここは」


 そうして、グルグルと弾の軌道に沿って一分間回り続ければ、クリアだ。


「ああ、そういうことッスよね、やっぱり……」


 紅理子ちゃんは何かに対する確証を深めているようだが、俺には想像もつかない。


「なんかもう、わかっちゃったんで」


 そうして、第四の弾幕。


 画面の右上に現れた魔方陣が真下へ、左下に現れた魔方陣が真上に、点対称のように移動しながら弾幕を撃ってくる。


「ということは、左上から斜め下ッスね」

「え?」


 俺は耳を疑った。まだ始まったばかりなのに、紅理子ちゃんは俺が苦労して見出した弾幕の避け方を口にしたのだから。


 俺はさっきプレイしていたが、画面は自分の方に向けていたから俺のプレイを見ていたはずはない。初見にしても、予知能力染みている。


「ああ、説明は後にさせて欲しいッス。サクッとクリアするんで」


 言って、画面の中央下部まで移動したところで、弾の動きが上下逆転する。

 今度は、画面の右上に向かっていく。


「あとは繰り返しッスよね?」


 その通りで、二往復で一分が過ぎた。


 紅理子ちゃんは、あっさりと半分の弾幕をクリアしてしまったのだ。

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