第28話 紅理子ちゃんの感想
「えっと、あたしも強引にでも弾幕をネタにしてミステリを成立させてるのは面白い試みだし、今までの鐘太パイセンの作品と描き方は違うんッスけど、語り口とか伏線の張り方とかはらしさも感じて、最後まで楽しく読んだッスよ」
どうやら、紅理子ちゃんにも楽しんでもらえたようだ。
「でも、これ、ミステリとしてはいきなり破綻してないッスか?」
「え、何か穴があったか? どういうところに?」
弾幕を軸にした謎は綿密に組み上げたつもりだ。
穴があったのなら、是非知りたい。
「いや、これ、あたしが犯人なら、秒でこの弾幕シューティングの筐体をぶっ壊すッスけど。バケツで水をぶっかけるなり、電源ケーブルをハサミで切るなり、精密機器だけに、館にあってもおかしくない日用品で簡単に壊せると思うんスよ。なんで犯人、この筐体を放置したんスかね?」
「あ……」
完全に盲点だった。
弾幕を前提にしていたので、弾幕シューティングの筐体はまともに動く前提で書いていた。
ゲームをしている間に襲われないよう、素早くクリアして動画に撮るところまでは頭が回ったが、そもそも筐体を壊されてそのチャンスさえなくなるところまでは頭が回っていなかったのだ。
「そこだけは、ずっと読んでて引っかかってたッス」
「よく気づいたわね。紅理子ちゃん、えらい」
雪花が無表情で紅理子ちゃんの頭を撫でていた。
「いえ、あの、雪花パイセンも気づいてたッスよね、これ?」
「もちろんよ。でも、せっかく面白かったのだもの。致命的でもその欠点を指摘して『面白かった』っていう感想を濁したくなかったのよ」
雪花の言葉に、紅理子ちゃんは納得の表情を浮かべる。
「確かにそうッスね。これを指摘しちゃうとさっきの笑顔の下りが、ちょっと寒い感じになっちゃうッスもんね」
「そういうこと。同じ情報でも、伝える順番を変えれば印象が変わるものよ。あのタイミングで言うより、紅理子ちゃんに任せた方が効果的だと思ったのよ」
確かにそうだな。
同じことを知るにしても、さっきの流れで知るよりは、後からこうして知った方が結果的に喜びは大きいからな。
「なんだか雪花パイセンの掌で踊らされた感はあるッスけど、この致命的な問題に目を瞑れば、間違いなく今までの鐘太パイセンの小説で一番面白かったッス!」
紅理子ちゃんもフォローするように笑顔で言ってくれる。
俺の書いた小説は、紅理子ちゃんも笑顔にできたようで何よりだ。
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