第24話 〆切を設定することはとても大事
俺が弾幕シューティングネタで小説を書くと決めてから一週間が過ぎていた。
同時に、俺の弾幕シューティングの腕前も少しは上がっていた。
「また、更に上手くなったわね。感心するわ」
俺のプレイを見て、雪花が淡々と述べる。感心してくれているようだ。今日、ようやく、雪花が完成させた弾幕の内、三つをクリアした。
「あと五つになる予定だけれど、これなら今の方針で進めても、鐘太にちょうどいいぐらいの難易度になりそうね」
俺に向けて創ってくれているのが感じられて、嬉しいものだ。
「でも、上達速度が速いわね。よほどいい先生に出会ったのね」
「そうだな。色々と教えてもらっているよ」
俺は、ルージュさんの名前を出していなかった。有名人っぽいので、雪花が知っている可能性もあるからだ。いや、雪花が知っているだけならいいが、それが何かの拍子に紅理子ちゃんの母親であるというところまで話が伝わると、個人情報の漏洩になりかねないからな。本人に確認すれば笑って許可してくれそうだが、雪花の方も特に聞いてこない限りは、こちらから教える必要はないだろう。
そうして俺がゲームを終えた後。
「それで、鐘太の小説はいつできるのかしら?」
黒いフレームで縁取られた瞳には相変わらずなんの表情もないのだが、そう、毎回聞いてくれるのだった。
「今、鋭意執筆中だ」
ようやく今日、そう答えることができた。なんとか一週間でプロットを纏めたところだったのだ。
「そう、完成を楽しみにしているわ」
本当に淡々としているのだが、雪花は嘘をつかないと信じている。明確に楽しみにしてくれているのを示してもらえると、俄然やる気が出てくるな。
そうして、特殊文芸作家としての活動を邪魔しないため島の机に戻ると、
「鐘太パイセン! 次はいつ頃書き上がりそうッスか?」
紅理子ちゃんが無遠慮に寄ってくる。雪花だけでなく、紅理子ちゃんも俺の作品を待ってくれているのだ。
「できれば来週中には仕上げたいところだな」
応援してくれる人へのリップサービスと見栄をこめて、希望的観測に基づく答えを返す。雪花にも聞こえているだろう。
「おお! 来週中と言うことは、来週の金曜日には読めると思っていいッスよね! いやぁ、楽しみッス!」
いや、あくまで仕上げたいところという願望だったんだが。
などと釈明するのも格好が悪い。
雪花も聞いているのだ。
こうなったら。
「そうだな。金曜には書いて持ってくるから、楽しみにしててくれ」
と答える他ない。
いいだろう。こういうのは、〆切がある方が捗るものだ。
そう、自分に言い聞かせる。
となると、書かないとな。
俺は、今日から持参していたノートパソコンを取り出した。
「鐘太パイセン、今から書くッスか?」
「そうだ。来週の金曜に完成させるには、少しでも書かないとな」
今、逼迫したスケジュールになったのだが、さも用意していた風に言っておく。
「それなら、お邪魔ッスね。あたしは退散します」
と言って紅理子ちゃんは元いた席に戻って、スマホで何かを読んだり、ノートに纏めたりしていた。紅理子ちゃんは紅理子ちゃんで、TRPGのシナリオを書き始めたのかもしれない。
さて、俺は俺で書かないとな。
それなりに慣れたタッチタイプで、物語を紡ぎ始める。
弾幕が鍵となる、物語を。
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