第17話 赤い人との出会い、あるいは再会

「あのゲームにこだわる必要はないと言っても、あれしか知らないからなぁ」


 部活が終わった帰り道。俺は、あの商店街のゲーセンへと向かっていた。ひ……雪花に弾幕シューティングの腕を上げて欲しいと言われたからな。少しでもプレイしておきたいのだ。


 六月の未だ明るい夕刻に、俺は薄暗いゲーセンへと足を踏み入れた。


「あれ? 珍しいな」


 雪花がプレイしていた弾幕シューティングと背中あわせに置かれたシューティングゲームをプレイしている人がいたのだ。


 それだけでも珍しいが、なんというか、その人が赤いのだ。


 真っ赤なシャツに真っ赤なズボン。

 真っ赤な太い縁の眼鏡を掛けて、真っ赤なベレー帽も頭に乗っている。

 肩にかかるぐらいのウェーブのかかった髪は流石に黒いが。

 それでも、とにかく真っ赤な見た目の女性だった。大学生ぐらいだろうか?


 目にも鮮やかな赤い人は、レバーをカチカチと精密に動かし複雑な動きをする敵を精密に撃ち倒していた。確かこれは、独特なゲーム性のシューティングゲームと雪花が言っていたものだ。


 弾幕シューティングでは基本は出てきた敵を薙ぎ払うが、このゲームは弾を撃ちまくらず、色んな弾を駆使して狙い撃っているような印象だった。これが独特なゲーム性、か?


 少し近づいて見ると、


「おやおや、ここに客が入るなんて珍しいじゃないの」


 気配を察したのか、


「あ、すみません」

「いいよいいよ。もうすぐ終わるから。最後まで見てくといい。迂闊に近づいてきたってことは『エンディングは自分でみる主義なんで』とかいう面倒くさいゲーマーでもないんでしょう。ならお得だよ。これも何かの縁。見てけ見てけ」


 雪花と同じような表現もあったが、なんだかグイグイくる人だった。


「ちゃちゃっと光の巨人を倒しちゃうからね」

「光の巨人?」


 なんだそれは、と思ったら、


「なんだ、これ?」


 というものが画面に映っていた。


 確かに、光の巨人だった。

 画面一杯の身長の巨人が走っていた。

 縦スクロールのシューティングなのに、画面の右から左に向かって走ってくる。

 それは助走だったようで、跳び上がって一回転しながら踵落とし。


 いや、これ、なんのゲームだ?


 着地すると画面の天地が入れ替わり、両手を拡げた巨人から回転のこぎりのような弾が。

 ようやく、シューティングゲームっぽくなってきた。


 雪花がやっていたゲームほどではないが、それなりの密度の弾を躱しながら撃つ。

 しばらくすると、今度は巨人がスケートのアクセルのように跳び上がって回転しだす。

 もちろん、弾も吐き出す。

 最後には、両手を拡げて空に跳び上がり、楔形の弾の雨を降らす。


 なんというか、動きも見た目も特撮のヒーローっぽいんだが、版権は大丈夫なのだろうか?

 いや、そういう心配をするところでもないか。


「ん~んん~んん~んん~んん~んん~んん~んん♪」


 なんだか、その特撮の曲っぽいのを口ずさんでいる赤い人。


 すべての敵弾を危なげなく避けて撃ちまくる。

 遂に巨人は力尽きたようだ。

 両手を揃えて頭から地面に落ちて爆発していた。えぐい演出だな。


 それで終わりかと思うと、何か八面体の石のようなものが現れる。

 重なるように60と数字が表示され、カウントダウンが始まった。


「あとは0になるまで避けるだけ!」


 軽く解説を入れてくれながら、画面のあちこちから湧き出す弾を避け。

 石のようなものから渦を巻くようにばらまかれる弾を避け。

 最後は画面一杯に放射状に発射される楔形の弾を避け。


 カウントが0になった。


「これで終わり、っと」


 石のような物体は自爆したようで、画面が光に包まれ。


 星が滅びて再生するような壮大なエンディングが始まっていた。

 最後しか見ていないが、それだけでもインパクトのあるゲームだった。

 短時間だったが、それでも独特なゲーム性というのが感じられるシューティングだ。

 頭の中で今見たものを整理している間に、エンディングは終わり。

 ネームエントリーの画面が表示されていた。


 赤い人は、


RUG


 と入力して。


「うんうん、久々にやってみたけどワンコインクリアはまだまだいけるねぇ」


 満足げにうんうん頷いて席を立った。

 立ち上がると、小柄ながら胸元はやたらボリューミーだった。


 と。


「おやおや、おやおやおやおやおやおや」


 俺の顔を見上げて覗きこんでくる、赤い人。


「もしかして、ショウタ君かな?」

「えっと、そうですけど、あの、お会いしたこと……って、あ!」


 そうだ、こういう真っ赤な人を俺は見たことがあった。玄米テーブルスペースでもう一つの卓にいた人だ。後ろ姿だけだったけれど、中々ここまで真っ赤な衣装の人はいないだろう。


「気づいたかな? 先週、もう一つの卓でゲームマスターをやっていたルージュよ。真っ赤な服がトレードマークのルージュなんで、覚えやすいでしょ?」

「はい。なんか、もう忘れないですね」


 色々とインパクトのある人だった。


「でも、よく俺だとわかりましたね」


 直接挨拶とかはしていないし、俺はとにかく赤い服装が印象に残っているていどだ。


「あ、そ、そうね。えっと、えっと……そうそう、ほら、トイレに立ったりしたときに遠目でも姿は見てたし」


 さきほど明らかに顔を見て気づいた風だったが、遠目だと顔はわからない気もしないでもない。結果として俺と判別してるからには、なんとなく雰囲気でわかったのか。そういうこともあるか。


「笑太君とkurikoちゃんが帰った後、トールさんの卓の人から色々話を聞いたりしたから、印象にも残ってるよ。なんでも小説で伸び悩んでて、何かを掴むためにTRPGに触れにきたとか」


 大筋はそうなのだが、経緯が違う。


「いえ、結果的に大きな衝撃を受けて創作のブレイクスルーになったのは事実ですが、自発的にTRPGに触れにいったわけじゃないです。kurikoちゃんに誘われるがままにプレイしただけなんで。何かを掴めたのは結果で、すべては彼女のお陰です」


 なんだか人の手柄を自分の手柄として語られるような違和感があったので、きちんと訂正しておく。


「うんうん、kurikoちゃんはとってもとってもいい娘だからね」


 ルージュさんはなんだか嬉しそうだった。


 そうして、俺の顔を覗き込みながら、おもむろにたずねてきた。


「それで、ゲーセンに来たってことは、何かプレイしたいってことだよね? 笑太君はどのゲームを遊びに来たんだい?」

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