第7話 TRPGってこんな感じのもの
「TRPG……コンピュータゲームのRPGをアナログでプレイするもの、だっけ?」
俺が知ってる範囲で答えると、
「大体あってるッスよ。まぁ、本来はTRPGが先でデジタルにしたのが昨今のコンピューターゲームのRPGの原点らしいッスけどね。ま、そこは本筋じゃないんで今は掘り下げなくていいッスよ」
「となると、俺に足りないモノがTRPGにある、ってことか?」
「端的に言えば、そうッスよ。それはそれとして、TRPGを一度やってみて損はないッス!」
他のお三方もうんうん頷いている。kurikoちゃんだけでなく、他の人も俺にTRPGをさせたいようだ。
どうしてそこまで俺にTRPGをさせたいのかよく解らないが、何事も経験、か。どんな経験だって創作の糧になるからな。
こうして先輩の俺を引っ張り出したのだから、kurikoちゃんには何か考えがあるのだろう。短いつきあいだが地頭がいいのは知っている。先日の中間試験では学年三位とかだったらしいしな。
「そういうことなら、事前に教えてもらっていればTRPGについて調べてきたんだが」
ネットで検索すれば基本的な情報は手に入る。玉石混淆なので検証は必要だが、概略ぐらいは掴めるだろう。概要を把握しておけば心の準備もできるし、他の人が俺に教える手間が省けてスムーズに遊べる、と思ったのだが。
「だから教えなかったんスよ。笑太パイセンにはまっさらな気持ちでTRPGを楽しんで欲しかったんス」
「いや、それでも、迷惑じゃないのか?」
「迷惑だなんてとんでもない」
俺の言葉は、トールさんに即座に否定された。
「何ごとも初心者を受け入れて大切にしていかないと、先細るからね。今日集まっているのはkurikoちゃんからTRPG未経験者が来ることを聞いた上で集まってる人たちだ。だから、遠慮はいらない。解らないことは何でも聞いてくれればいい」
温かい言葉だった。
そうだな。まっさらな気持ちでやることに意味がある、というなら、そうなんだろう。
kurikoちゃんの掌中という気もするが、
「ありがとうございます。色々至らない点があるかと思いますが、よろしくお願いします」
ここは素直にご厚意に甘えておこう。
「それじゃぁ、始めましょうかね」
トールさんの合図で、他の三人は鞄から筆記用具やサイコロを出している。
何も聞いていない俺が何も用意していないのは必然で焦ったのだが。
「あ、もちろん笑太パイセンの分は用意してるッスよ」
そう言って、サイコロを二つと筆記用具が入ったケースを渡してくれる。事前にしっかり準備しているのが窺えるので、この状況はkurikoちゃんには折りこみ済みだったようだ。
「さて、笑太君がTRPG自体初ってことなんで、そこから説明しとくか」
トールさんの言葉で、場の空気が切り替わった。
「TRPGにも色々あるが、大前提として進行役を勤めるゲームマスターと集まったプレイヤーみんなで協力して物語を構築する遊びだ」
「物語を構築する遊び、ですか?」
正直、ピンとこない。
「そうだ。ゲームのルールに則ってキャラクターを作って、プレイヤーはそのキャラクターとして行動して、ゲームマスターが用意したシナリオに設定された目的の達成を目指すことになる。目的達成のしかたはキャラクター次第。場合によっては未達成かもしれないが、その場に集まったみんなでのプレイの結果が、一つの物語になるってことだ」
なんとなくはイメージできる、か?
「少し違った観点で言えば、TRPGでは一回のプレイを慣例的に『セッション』と表現したりするんだが、これは、複数の楽器があわせて演奏することにも使われる言葉だ。楽器のセッションは曲を、TRPGのセッションは物語を、プレイするみんなで協力して作るってイメージしてもらうとわかりやすいかもな」
「丁寧にありがとうございます」
ここまでの説明で、ようやく『物語を構築する遊び』というものの輪郭が見えてきた。
「説明役をしているということは、トールさんがゲームマスターで、俺も含めた他の人がプレイヤー。俺たちはこれからキャラクターを作って、そのキャラを動かしてシナリオのクリアを目指す。その過程が物語となりそれを楽しむのがTRPG、ということですかね?」
「ま、理屈ではそんなところだ。あとは、やりながら感じてもらえばいい」
トールさんは一冊の新書サイズの本を取り出す。
「で、TRPGっていっても色んなゲームがあるんだが、今日はこの『学園バンドTRPG ステラクライ』というゲームをプレイする」
「バンド、ですか?」
思わず聞き返してしまった。RPGといえば、
「冒険者になって町を襲うゴブリンを退治したり、掠われた姫を助けたり、ドラゴンを倒して財宝を手に入れたり、とかではなく?」
そういうイメージがあったからだ。プレイヤーが作ったキャラクターでパーティーを組んで、それぞれの特性を活かしながら協力してクエストに挑む。その過程が物語になる。そういうイメージだったのだが、『バンド』をRPGとしてどう表現するのかがまったく想像できない。
「もちろん、そういうTRPGもあるというか、原点はそういうのだったがな。TRPGも生まれてから半世紀近く経っている。そうなりゃ色んなバリエーションが出てくるもんだ」
言われてみればコンピュータゲームのRPGにもバリエーションは色々あるな。その辺り、事前に調べていればもう少しスムーズに理解できていたんだろうが……といかんな。
色々気になることもあるが、kurikoちゃんの意図を尊重しよう。もしかすると、こういう風に戸惑いながら遊ぶことに意味があるのかもしれん。普段は手の届く範囲の知識は仕入れておいて『備えあれば憂いなし』を心がけているが、知識を持たないまま『ぶっつけ本番』でTRPGにぶつかってみるのも一興か。
「パイセン、また色々ややこしいこと考えてるっぽいッスけど、気軽にプレイしてもらえばいいッスからね」
俺の心を読んだようにkurikoちゃんに念押しされてしまった。俺の性格をよく解ってくれているようだな。
「一言で言えば、このゲームは『悩みを抱えた誰かの心をバンドのメンバーになって音楽の力で救う』というゲームだ」
正直、さっぱりどういうゲームか解らない。
「ま、さっきの例でいえば、冒険者のパーティーがバンドに置き換わる感じだな。ギターとかボーカルとかが戦士とか魔法使いとかの職業みたいなもんだ。ライブが戦闘で敵はターゲットの心の壁。それを演奏による攻撃でぶっ壊す、と考えるといいかもな」
俺が明らかにピンとこない顔をしていたからか、トールさんが言い直してくれた。
そう言われれば、なんとなくゲームとしてイメージできないことはない。
というか、興味を惹かれるな。
そうか、悩みを抱えた誰かの心を救うことを『心の壁を壊す』ととらえると、それを戦闘に見立てればゲームとしてこんな風に落としこめるのか。これは面白い発想だ。となると……
「はいはい、パイセン戻ってきてくださいねぇ」
正面に座るkurikoちゃんの声に我に返る。あれこれと考えこんでしまうのは悪い癖か。
「あとは、やりながら掴んでいけばいい。考えるよりも経験することが大事だ」
言って、トールさんはA4サイズの紙をプレイヤーに配布してくれた。
「これが、今日のキャラクターを記載する『キャラクターシート』だ」
見てみれば、なんとなくコンピュータゲームのステータス画面のような雰囲気は感じられる。アナログでステータスを管理する、ということか。
「さっきも言ったが、楽器が戦士とか魔法使いとかの職業みたいなもんだ。戦闘に置き換えてそれぞれの特徴を簡単に説明しておくと、ボーカルが終盤ほど威力の上がる攻撃、ギターが範囲攻撃、ベースがいつでも変わらず確実な威力の攻撃、ドラムがターン後の追加攻撃、キーボードが唯一の回復役、だな」
大雑把だが、雰囲気は解る。
やるなら、派手でムラがあるより堅実な方がいいか。
では。
「俺は、ベースをやってみたいんですが」
そう切り出したところ。
「他にやりたい人はいるか?」
トールさんの確認の声に反応はない。
「よし、笑太君はベースってことでいいいだろう」
あっさり希望通りの楽器をやらせてもらうことになった。
そこから他のメンバーが相談した結果、kurikoちゃんがボーカル、ゴージャスさんがドラム、囲炉裏さんがギターとなった。オーソドックスなバンド編成だな。
ただ、回復役のキーボードがいないのが気になったが、
「このゲームでの戦闘にあたるライブは一回のセッションで一回だけだからな。回復役はいなくても大抵はどうにかなる」
ということなので、問題ないようだ。
こうして、何がなんだかわからないまま俺のTRPG初セッションが始まった。
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