マスターシーン① 紅理子の目的

「やっぱり、ないっスね」


 三田紅理子には、大好きなネット小説があった。


 だが、三年前のある日、連載の途中でネット上から作者も作品も完全に消えてしまったのだ。


 人気のあった作品で、そんなことになるとは全く予想だにしていなかったものだから、ローカルに保存したりはしていなかった。


 最近、その作品を読み返したい思いが強くなっているが検索してもヒットは0。当時から変わらず、美事にネット上からその痕跡は消えている。


 高校に入って、紅理子はいくつかの既視感を抱いていた。既視感の元はあの作品だ。読んだのはもう三年前。細部までは思い出せない。整合性を確認するには、あの小説を読み返す必要がある。


 それができないもどかしさに、ときおり無駄と思っても検索してしまうのである。


「それに、気になることもあるんスよね……特殊文芸」


 文芸部で弾幕シューティングを創っている先輩が好んで口にする言葉が、紅理子の心に引っかかるのである。


「偶然、とは思うんスけど」


 それでも、疑念は拭えない。


 三田紅理子の目的は、文芸部で抱いた疑念を晴らすことである。

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