第4話 伝える勇気

僕は何度も…何度も自分の文章を読み返した。

自分の思いがちゃんと伝わるのか…月詠さんを嫌な気持ちにさせないか…。

送信ボタンを押す手を何回ためらったか。

左胸の奥を大きく揺さぶる振動が僕を臆病者にさせる…。

でも伝えたい…伝えなきゃいけない…

ありったけの勇気を振り絞った。

僕の思いを綴った言葉達は彼女の元へ届けられた。


「月詠さん、まず返信が遅くなってしまったことをお詫びします。

僕の気持ちを整理し、あなたに伝えるのに少々時間がかかってしまいました。

あなたの言葉ひとつひとつを読み返し

あなたと出逢った頃からを思い返してました。

月詠さんの純粋で透き通った言葉達のなかに隠されたはかなさを…確かに僕はどこかで感じていたと思います。

触れたら壊れそうな…そんな気持ちで聞けずにいた真実をあなたから告げられた時、その現実の重さに目の前の世界から一瞬、色が失われました…。

かすみのなかの世界でただひたすら月詠さんのことだけを考えてました。

月詠さんがどんな思いでいたか、自分の運命とどう戦っていたのか、そしてこれからどうしたいのか…。

でもそれはいくら考えても答えはでません…

当たり前ですよね。僕は月詠さんではないのだから。だから僕は、一方的な僕の気持ちだけをあなたに伝えます…。」


「僕は月詠さんに逢いたいです!

月詠さんに逢って隣で色んな景色を見て色んな話をして、一緒に月を眺めてお酒が飲みたいです。

月詠さんの生きた…いや、生きている証を僕が紡いでいきたい。

月詠さんの背負った運命を隣で支えていきたい。

勝手なことを言っているのは充分承知の上です。

でも、3日間考えて…ずっと考えて…

あなたを失う怖さはあります。

でも僕の世界にはもう月詠さんがいて僕の世界を色鮮やかに染めてくれた。

いつかいなくなる怖さより今、あなたと一緒にいたい…その気持ちのほうがずっと大きい…。

だから…。」


僕は自分のLINEのQRコードを添付し、

月詠さんに連絡先を交換して欲しいと伝えた。

月詠さんからは何度も断られた…。

僕とリアルに繋がることへの躊躇ためらいからだ。

先が長くない自分と繋がって

自分がいなくなった後のことを考えこれ以上僕の時間を無駄にさせたくない…と。

月詠さんの優しく、そしてとても切ない気遣いだった…。

でも僕は諦めなかった。

月詠さんに僕の想いの全てをぶつけ、やっと月詠さんは僕との繋がりを承諾してくれた。


「初めまして…って言うのもおかしいですね。

 月詠さんの名前…千鶴さんっていうんです  か?」


「はい。

 何か照れてしまいます…。」


「素敵な名前です。

 あなたにとてもお似合いです。」


「ありがとうございます。

 カイトさんは…海翔…かいとさん?」

 

「そうです。

 実は本名です(笑)。」


「海をかける…とっても素敵なお名前ですね!」


「月詠さん…あ、いや…千鶴さん…どっちでお呼びすれば…」


「どちらでも構いませんよ。」


「では…月詠さんからそう言って貰えると何だか自分の名前が急に愛おしく感じます(笑)」


「本当に…カイトさんにお似合いです…。」



僕は月詠さんとの距離が少し近づいたことがとてつもなく嬉しかった。

その日からTwitterと共にLINEでのやり取りも始まった。

「おはよう」とか、

「今日は寒いですね」とか、本当に些細な会話だったけど二人で一緒にいる感覚がとても幸せな気分にさせた…。

そんなやり取りが何日か続いたある日、僕は思い切って月詠さんに逢いに行く提案をしてみた。

月詠さんは躊躇ためらいがちに…でも僕の熱意に押され首を縦に振ってくれた。

月詠さんの身体のことがあるので、暖かくなった春に月詠さんの体調の良い日を選んでお花見をすることにした。


僕の毎日は本当に満たされていた。

月詠さんとの会話、Twitterにあげられた写真や言葉の数々…そして約束

どれも大切な宝物だった。


空が澄みきったある晴れた日に僕は

空へ伸ばした手の写真とともにこんなツイートをあげた。


―見上げた空がどんなに広くて遠くても

 大切な人と繋がっている…

 そう思えるだけで明日を生きる大きな糧となる


月詠さんからこんなコメントがされていた。


「私が見ている空のどこか先にいるあなたの存在が、約束が、私に今を生きる力を与えて下さいます。ありがとう。」


僕は…月詠さんは確かに今、この時を生きている

もしかしたら…もろく…あやうい…ひとときの夢なのかもしれないが僕はそれが永遠に続くといいと本気で思っていた…。

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