第3話 想い…
冬の、あるとても冷え込んだ朝ー
寒さで目が覚めた僕はベッドから起き上がるとカーテンを開け窓の外を眺めた。
白い粒がはらはらと舞っているのが見えた。
「雪だ…!!」
今年初の雪の空だった。
“月詠さんに見せたい”
僕はまるで初めての雪にはしゃぐ子供のように
色んなアングルから何枚か写真に収めて家のなかへ戻ると冷えた体を熱いコーヒーで暖めた。
ホッと一息つくと先程の写真のなかから1番良いショットを選んで早速ツイートした。
―寒さで目が覚めた
今年の初雪
あなたの街も白く染めているでしょうか…
その日、月詠さんからの返信はなかった…。
そしてそのまま暫く月詠さんの存在が再びTwitterから消えていた。
何度目だろう…。
初めて月詠さんのツイートが止まった時、
僕は直前の投稿の何通かをそれこそ穴があく程読み返した。
やり取りを始めて間もない頃だった。
「どこか気に障る文章でもあったかな…?」
「月詠さんのこと傷つけるようなこと書いてしまってたかな…?」
それとも―
「僕とのやりとりがつまらなくて嫌になってしまったのかな…?」
そんな事ばっかがグルグル頭のなかでリピートして仕事中も上の空で注意されたほどだ。
結局その時は一週間程したら戻ってきて
「風邪をひいてしまいました。」
の言葉に少し安心した。
それから2、3回そんな事が続いたりして
顔が見えない分その度心配は募ったが、戻ってきた月詠さんが精一杯の元気を伝えてくれるので、僕は月詠さんに何も聞けなかった…。
月詠さんのいない間にクリスマスもお正月も過ぎてしまい、言葉を交わすこともないまま…
それでも僕は月詠さんの為、毎日投稿し続けた…。
月詠さんに出逢う前の自分はどんな毎日を送っていたっけ?
何を考え何を見てきたのだろう…。
推しの為に始めたTwitterも今では月詠さんで埋め尽くされていた。
「月詠さんに逢いたい…」
そればかりが頭を巡っていたそんな頃
年が明けて暫く経ったある日―
月詠さんからダイレクトメールが届いた…。
今までで1番長いメールだった。
「カイトさんご無沙汰しております。
長い間お返事もできなくて申し訳ありませんでした。
ご心配もおかけしましたね…。
少し、私のことを話させて頂きます。
カイトさんも少しお気づきだったかと思いますが…実は私、体があまり丈夫ではなく…
体調を崩しては入退院を繰り返す日々を送っております。
今回は少し入院が長引いてしまい、カイトさんへのお返事ができないまま心苦しい毎日を過ごしておりました。
カイトさんの投稿全部読ませて頂きました。
どれもこれも温もりと優しさを感じる素敵な投稿でした。
カイトさんのお隣で同じものを見て聞いて笑って…同じ時間を過ごしている…そんな気さえしてしまいました。
私がTwitterを始めたのは、自分が生きた証を残したかった…という思いがあったからです。
誰かがそれを見て、少しでも記憶に残ってくれたら………と。
いつかカイトさんが…《一緒に月を見ながらお酒でも飲んでゆっくりお話できるといいな》と言ってくれたこと、本当に嬉しかったです。
ほんの少しそんな日がくること、夢見てしまいました。
カイトさんの優しさに触れられたこと…
一生忘れません。
私の命は…もしかしたらもう長くはないかもしれません…。
こんな形でお知らせすることをお許し下さい。」
そして、同時にツイートもされていた。
―東の空に下弦の月が浮かんでいます
満ちた月が欠けていくその刹那に
いつしか……影が重なる…
どうか…もう少しだけ…
僕の心臓は大きな衝撃で貫かれ張り裂けそうだった…
うまく…息ができない…
月詠さんの想い、背負わされた運命に言葉を失くしてしまった…。
僕が月詠さんに返事を送るまで3日もかかってしまった…。
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