施設裏側強襲突入 ―Ⅵ― 衝撃のスカラベと、輝けるファイヤーフライ
燃え上がるような赤く染められた長い髪の引き締まった肉体の持ち主。いかにも戦闘慣れしていそうな闇社会の住人にふさわしい容姿の持ち主だ。
攻撃の初手は向こうから仕掛けられたが、第1撃はかろうじてかわした。
「うまくかわしたみたいだけど次はこうはいかないよ」
彼女の声が響く。
閉鎖された地下空間の中で、彼女は自らの両腕の武器を行使する。
彼女が両腕にはめていたのは、大型の籠手で、指先から肘まで完全に覆うものだ。だが問題はその籠手じゃない。
「全身穴だらけになって、おっ死にな!」
籠手の表面にびっしりと並んでいる、黒光りする甲虫のような楕円の球体だ。
「精術駆動! 黒弾乱舞!」
大げさに両腕を振り回し、表面の黒い楕円球体を投射する。そしてそれはただ投げられるのではなく、自らの意思を持つように飛翔し始める。
私はこの特殊な精術武具の存在を知っていた。
【銘:スカラベの衝撃】
【系統:火精水精二重属性】
【形式:籠手型形状、複数同時自立制御型】
私は彼女に対して詰問した。
「これは、スカラベの衝撃! こんなところに隠匿されていたんですね」
私の言葉に彼女が過剰に反応して意外な言葉を放った。
「うるさい! 権力者の犬! こいつはもともと、アタシの家系の持ち物だよ!」
その意外な一言とともに、私の周囲を黒い楕円球体が旋回し始める。まずはこちら退路を断つつもりなのだ。
「アタシの家はもともと候族でね、それなりに幸せに暮らしてた! でもある日突然に強欲な詐欺師連中に乗っ取られてね。何もかもむしり取られたんだ!」
最初の一撃が来る。私は右手に握りしめていた愛用のステッキハンマー型の精術武具を振るって、球体を弾き返す。
候族とは、私の国の上流階級だ。他の国なら貴族と呼ばれるはずだ。彼女の過去がわずかに顔を覗かせ始めていた。
「母親から残されたこれを取り返して、これだけを頼りに闇の世界で私は生きてきた!」
彼女の言葉を聞きながら、私は自らの思考の中に、反撃のための精術の
「そして、自らが生きる場所としてこの密輸組織を作り上げたというわけですか?」
「作り上げたんじゃない。受け入れてもらったんだ! 新しい家族として! それをみんなぶっ壊そうとする!」
彼女の叫びが地下空間に木霊する。
そして、私の周囲を包囲していた黒い楕円球体は、わずかに放電を伴いながら、私へと一斉に襲いかかる。
「役人も軍人も何もしてくれなかったくせにさぁ!」
見放された上流階級の少女――その成れの果て。それが彼女の正体だ。
私は内心、彼女を哀れんだ。ならば、終わらせてあげよう。同情に値する彼女の半生を。
「精術駆動」
私は右手に握りしめた愛用の精術武具を眼前にかざした。
「超高速機動!」
その叫びと共に愛用の無銘精術武具が、わずかな放電を放つ。
【銘:無銘】
【系統:地精系】
【形式:戦杖と呼ばれるステッキハンマー風の民族武器の形を持つ。無銘ながら頑丈な総金属製】
愛用の精術武具が地精の力で私に力を与えてくれる。地精に関連する重力制御、そしてその力を応用した〝慣性制御〟で私は瞬時に飛び出して行く。
「なに?」
敵対する彼女が驚きの表情を見せている。一斉に襲いかかる黒い衝撃球体の群れを完全にかわしたのだから。だが、これで終わりではない。私はさらに畳み掛ける。
高速で動き回る私の背後を黒光りする楕円球体が追いかけてくる。
(スカラベの衝撃の飛翔球体は自律制御型だ。一定のロジックにのっとって自動的に敵を追尾する。スカラベの衝撃は火と水の二重属性、火の力で動き、水の力で自立判断する。ならば!)
そう思考した私はもうひとつの精術武具を着衣の下から取り出した。
三つの円環が重なり合っている意匠のペンダント型の精術武具だ。その名を〝三重円環の銀螢〟と言う。
【銘:三重円環の銀螢】
【系統:光精系】
【形式:ペンダント型、光そのものに力を与えて目くらましから攻撃まで多彩に制御する】
私はさっきの超高速機動を維持したまま次の攻撃を加えた。
「精術多重駆動!」
私はステッキハンマー型の精術武具と三重円環の銀螢を重ね合わせるように構える。間を置かずに、その身を反転させて襲い来る飛翔球体に向けて精術を行使した。
「重き力のファイヤーフライ!」
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