施設裏側強襲突入 ―Ⅶ― 砕かれる心と、打ち砕くロジック
斜めに構えたステッキハンマー型の精術武具の上に重ねた三重円環の銀螢が、連動するかのように微細な火花で繋がりあいながらまばゆい光を発した。
発した光は〝球体〟で、その数20以上。
光る球体は、まさに闇を飛び交う蛍の羽ばたきの如く飛び出していく。
私は自分の思考の中で、光球体を発生させ自律動作させるための
それぞれの光球が、それぞれ異なる黒い球体を目掛けて襲いかかっていく。
まるで光の球体に意思を宿らせているかのように。
黒い球体に、私の生成した光球体が襲いかかる瞬間、黒い球体は弾けるように砕け散った。
――パキィン!――
涼しい音を立てながらスカラベの衝撃の飛翔攻撃体は次々に無力化されていく。
そのあまりにもあっさりとした光景に密輸組織の首領の女性は愕然とした表情を浮かべていた。その彼女に私は告げる。
「えっ!?」
「スカラベの衝撃の基本機能を完璧に使いこなしていたことは褒めて差し上げましょう。ですがそれでは普通の精術武具使用者までしか通用しません!」
私が言うのと同時に、私が生成した光球体は私の周囲を旋回し始めた。次なる攻撃に備えるためだ。
「な、なんなんだよお前は!」
対して敵対する彼女は、自らの攻撃手段が無力化されていることに気づいて愕然としていた。自らの装備を失うまいと黒い楕円球体を速やかに回収する。明らかに逃げようとしているのが分かる。
そんな彼女に私は告げた。
「私は、これでも最高学府で精術学の真髄を学んでいます。即席で精術発動の
精術は三つの要素から構成される。
精術武具、聖句詠唱、そして使用者の頭脳と認識の中にある〝
たとえどんなに優れた精術武具だったとしても、使用者の知識と技術の度合いによっては、起こせる結果には天と地ほどの開きが現れる。
精術発動の論理を極めれば、例え無銘の精術武具でも、状況を逆転させることはいくらでも可能なのだ。それが他の武器に無い、精術武具の最大の特徴だった。
私の周囲を旋回しながら飛行していた光球体が動きを変えた。まるで退路を失ったうさぎを見つけた猛禽類のように。
「ひっ!」
彼女は立場が完全に逆転したことを悟った。一瞬彼女の表情が許しを請うようにも見えた。だが私は取り合わなかった。なぜならば――
「すでに〝帰還不能点〟は通り過ぎています。その一線を超えたのはあなた自身です!」
そして私は聖句を唱えた。
「精術! ファイヤフライの銀弾!」
私の周囲を旋回していた光球体が、弓矢のように解き放たれた。私が認識する攻撃対象に向けて数発同時に一気に襲い掛かる。
当然、逃げる間もなく密輸組織の首領の女性は光の弾丸で撃ち抜かれた。
――ダダァンッ!――
銃を撃ったかのような鋭い音が響き渡り、その場に佇んでいた彼女は糸が切れたように床へと崩れ落ちる。
「精術解除」
その宣言と同時に私が生成した光球体は霧散して消える。倒された彼女の様子を確かめるために歩み寄る。
「死んではいないわね」
急所は外した。かなりのダメージだが死にはしないだろう。
彼女が手にしているスカラベの衝撃を外しながら彼女の顔を横目で見る。派手な化粧で強そうな自分を作り上げているが、よくよく見ればまだまだ幼さを感じる顔立ちだった。
「まだ大人になりきってない年頃なのかしら」
そういう年頃で小さいながらも組織の首領を務めるほどだ。どれほどの努力を積み重ねただろうか?
腰のベルトポーチの中から拘束用の金属ワイヤーを取り出す。それで彼女の腕を後ろ手に交差させて縛り上げる。
「身体拘束完了」
そう告げて彼女のスカラベの衝撃を回収して私はそこから立ち去った。だが、彼女が悪いとは断言できなかった。なぜなら――
「家を奪われた彼女と、家から逃げ出した私、歩いた先のたどり着いた場所がほんの少し違っただけなのかもしれない」
もしかしたらこの子は別な人生を歩んだもう一人の私なのかもしれない。だが、現実は残酷だ。
「国家機密漏洩は重罪、そして精術武具の分解解析は更なる重罪、極刑は避けられない」
それでも彼女に生きるチャンスをあげてあげたい。そう考えてしまう私はやっぱり甘いのだろう。
そんなことを考えながらその場を後にした。
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