施設裏側強襲突入 ―Ⅴ― 天使が歌い雷神が吠える

 ダルカーク・ゲーセットとガルゴアズ・ダンロック

 彼らはある場所を目指して急いでいた。

 二人はルストのもとを離れて制圧対象の施設からほど近いところにある小型河川のほとりに向かっていた。


「こちらです! こちらの方に反応があります」

「おう」


 二人が目指していたのは川岸だった。そこにあるものがある。

 小道を走り、草むらを飛び越え、全力で駆け抜ける。そして、走り抜けた先にそう大きくない川があった。

 川の岸は少し小高い土手になっていて川は少し低い位置にある。その土手に川に対してある大穴が開いている。


 それを見つけてゴアズが言った。


「ありました! 下水の出口です!」

「ここか!」

「まだ間に合います! 連中は出て来てません!」

「あれを見ろ!」


 カークが指差す先には川のほとりに複数の船が用意してあった。


「逃走用ですね」

「ああ、いざという時の脱出ルートに準備しておいたんだろう」

「抜け目のない連中です」

「ああ、とんでもない連中だ」


 二人は憤りながらも、川の土手から川原へと降りていく。そして、下水の出口付近に立ちはだかる。

 ゴアズたちが辿り着くのと、逃走した密輸犯たちが辿り着くのはほぼ同時だ。

 彼らに対して、ゴアズたちは所持している精術武具の準備を終えていた。いつでも攻撃可能だった。


 下水から出てきた犯人たちは5名ほど。いずれもその手に私たちの国の民族武器である牙剣が握られている。その大きさ、形状、色などから精術での何らかの機能が与えられているのは明らかだった。


 逃走する犯人たちも武器をとっさに抜いていた。一人が大声で叫ぶ。


「何だ貴様ら?!」

「構わねぇ!やっちまえ!」


 本能的に攻撃心をむき出しにして襲いかかってくる彼らに対して、ゴアズもカークも一切遠慮しない。

 まずはゴアズが二本の牙剣を構えて互いに撃ちつけ合う。


【銘:天使の骨】

【系統:歌精系】

【形式:二刀流牙剣、拍子木のように互いに打ち合わせて様々な効果を発揮する】


 カークが右の腰脇に右手の籠手型精術武具を、腰だめに構える。


【銘:雷神の正拳】

【系統:雷精系】

【形式:両腕にはめる籠手型、使用時に拳闘の技術が必要となる】


 カークが言う。


「行くぞ」

「はい」


 その言葉にゴアズも答えながら二人は同時に技を繰り出す。


「精術駆動 足すくみ」


 ゴアズが打ち鳴らした二振りの牙剣が恐るべき音を放つ。それは人が複数で通れるほどの大きさの下水の中へと響いていく。

 その音を聞いた者の神経中枢に作用して次々に行動を奪っていく。

 さらにカークの精術が炸裂する。


「精術駆動 雷光疾駆撃!」


 腰だめに構えていた右の籠手を勢いよく地面へと叩きつける。その瞬間、閃光が走り稲光が地面の上を走り出す。その稲光は狙ったかのように逃走する密輸犯たちに次々に襲いかかった。

 カークの放った雷撃をくらい、逃走犯たちは糸の切れた人形のように次々に倒れていく。まさに水も漏らさぬ容赦ない連携攻撃だ。


「逃走阻止です」

「ああ、間に合った」


 そう語りながら彼らは討ち取った逃走犯たちの遺骸を確かめる。

 カークがゴアズに言う。


「あったぞ」

「これは? 精術武具?」

「その一部だな。安物の精術武具から取り出した〝心臓部〟の部品だろうぜ」

「必要なところだけ厳選したと言うわけですか」

「そのようだな」


 犯人たちの行動には怒りしか湧いてこないが、やるべき事をやらなければならない。持ち出された密輸物を回収する。

 カークが言う。


「証拠物件回収成功、持ち出し阻止」

「了解確認しました」


 二人は下水道の中にしっかりと目を凝らしていた。もしかするとまだ何人か逃げ遅れたのかもしれない。後から遅れてここに来る可能性がある。


「もうしばらくここに待機しよう」

「ええ、〝残り〟が遅れて来るかもしれませんから」


 そう語る彼らの表情は真剣だった。

 二人は逃走の可能性を見事に断ち切ったのだった。 

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