第16話 のるかそるか、それは問題だ ⑧



 結局、私達は、外が完全に暗くなるまで、店にいた。


 ホタルはとても綺麗だった。


 実は、今まで、生でホタルを見たことがなかったから、すごく感動したし、センチメンタルな気持ちになった。本当に、綺麗で。


 一人で見たくない、と言った草尾さんの気持ちがよく分かった。


 これは・・・好きな人と、見るべきものだ。




 区役所まで戻ったら、駐車場のゲートは当たり前だけど閉まっていて、何の連絡もなく遅くなった事を、警備員さんに、こっぴどく怒られた。


 でも、相手が草尾さんだったから、警備員さんも、納得はしてくれた。


 どうやら今までも、患者の話を夢中で聞いているうちに遅くなったことがあったらしい。本当に草尾さんらしいな、と思う。


 事務所は、わずかに私達の課のところだけ、電気がつけてあった。


 まだ戻っていないことに、誰かが気付いている。それに思い当たって、私はかなり動揺した。


 別に、やる気満々な新人医師と、お節介な保健師が、時間外になっても戻って来ていなくても、誰も変に思ったりしないと思う。


 でも、私はあまりにも後ろめたくて、不安が拭えない。


「先生、私はカルテを記入してから帰ります。お先にどうぞお帰りになって下さいね」


「・・・分かりました、お疲れ様です、今日は有難うございました」


「とても楽しかったです。遅くなってしまって本当にごめんなさいね?」


「いえ」


「また、お誘いしてもいいですか?」


「・・・はい」


 草尾さんは変だと気付いたかもしれない。私のこのテンションの低さに。


 でも、どうしても取り繕うことが出来なかった。こんな時はさっさと立ち去るに限る。

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