第11話 のるかそるか、それは問題だ ③



 大体、私、自分で言うのも何だけど、ホント、いつだって恋愛モード全開だから。


 典型的な、恋愛脳ってやつだから。


 おかげで、たった一度の過ちで、婚約者には三行半突きつけられて、叩き出されちゃったし、もう、寂しくて、誰でもイイや、って心境なんだから。


 だから、別に、草尾さんじゃなくたって、いいはずで・・・。


 そもそも、相手は女の人で。


 しかも、多分、うちの親と同世代で。


 別に美魔女でもないし、イケオバでもないし。・・・いや、イケオバって言葉あるか知らないけど。


 とにかく、絶対、恋愛感情じゃない。


 断言できる。


 ・・・断言、したい。


「なんで、こんなハメになったかな」


 思わず、独り言を言ってしまう。


 静かなカフェの中で、ブツブツ言っているアラサーなんて、気持ち悪いよね。


 でも、ホント、何で、こんなことになったんだ。


 確かに・・・今までも、危険水域まで達したことは、何度かある。


 別に女子校に通った経験はないけれど、それなりにカッコイイなって先輩だっていたし、宝塚狂いの友人のせいで、素敵な男役にポーッとなったことだってある。


 医学部では、セクシャルマイノリティへの理解を深める講義もあったし、そういう意味では、私の閾値は低いかもしれない。


 でも、だからって、なぜ、草尾さんよ?


 単なる、中年女性、別に、これといって、特徴もない。


 これが、青山先生とか、まかり間違って堀川先生とか、ギリギリ高瀬先生とか、その辺りだったら、まだしも。


「はーぁ・・・」


 なぜゆえ?


 自分が分からない。


 なぜ?


 手が、ふっくらしてて、あったかくて、カワイイんだよね・・・。


 結局、あれから、小一時間も二人でカルテを見ることになって。


 この人は、こうだった、あの人は、ああだった、と解説してもらっても、全然頭に入っていかない。


 何かの拍子に手が触れると、もうそればっかりが気になって、全身が沸騰したみたいになった。


 本当に、絶対、変だと思う。


 平静を保てていた自信が全くない。


 ホントに、本当に、多分・・・もう、絶対マズイよ、これは。


 まさか、サトラレてなんかないと思うけど。


 いくらなんでも、娘世代の女医が自分の事、気になってんじゃないか、なんて発想、彼女にあるとは思えない。


 絶対、ばれてない。大丈夫。


 ・・・ホント、大丈夫だよね?

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