第6話 初日の恥はかき捨て ⑥



「松島先生は、医者になってから、もう長いんですか」


 友利主査が、運転してくれながら尋ねる。


「いえ、去年まで初期研修でした」


「あ、じゃあ、最短で入庁したんだ」


「そうですね」


 いや、本当は学び直しで医学部入っているから、そう若くもないけど。そんな個人情報、このおじさんに言う必要ないよね。


 友利主査の運転は、乗っているのが公用車だと思えないくらい丁寧だ。こんな快適な公用車は初めて。

 ・・・って、そもそも公用車に乗ったのが、片手で数えて余るほどだけど。スムーズな発進と停車、助手席に乗っている人間を気遣う、大変ジェントルな運転だ。


 運転している横顔をつい見てしまう。顔を見なければ、どんな素敵なオジサマが運転してるのかと思うけど、見てしまうとやっぱ、色々残念だ。


「何、ジロジロ見て」


「いや、私に調査なんか出来るかなって」


「大丈夫、基本、俺が喋るから。先生はさっき渡した調査票に書き込んでくれればいいから。心配いらない」


「あ、そうです、そうですよね」


 意外と頼れる感じ? 何だか、さっき堀川先生と喋っていた時と感じが違うけど。人は運転する時、人格が変わると言うけど、それか?


「先生は、堀川先生と、親しかったの」


「え、いや、堀川先生が、サマーセミナーにリクルーターとして来てた時に、仲杜市に誘われて、それで知っていただけで。メールはやり取りしてましたけど、会ってはなかったですね」


「ふーん、あの人、めんどくさいでしょう、自分勝手だし」


「え?」


「区民のためには頭使うけど、職員のためには頭使ってくれないから」


「どういうことですか?」


「あれもやろう、これもやろうって、どんどん仕事増やしてくるから」


「友利主査は堀川先生が、ちょっと苦手ですか?」


「え、いや? 俺は、彼女、好きだよ」


「・・・そう、ですか」


 んん? 何か、今、含みがあったような。気のせいかな。ってか、この人、人格変わりすぎじゃない?


 信号で停車した瞬間、友利主査はフフっと笑った。・・・何、気持ち悪いけど。


「な、何ですか」


「松島先生、堀川先生みたいになるなよ?」


「は?」


「いや、じきに分かるよ」


 なななな、この人、変!

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