ファニー・デス

「ちょっと。やめてよ、もう」

 

 グウィンは肩を揺らしつつ、指先で口元を拭った。


「こんなの、ランキングの基準はどうするの?」

「そこはやっぱり、愉快さ、ですかねぇ?」


 ジョニーが苦笑交じりにアイクに尋ねる。


「どうでしょう。メロウさんは難しい依頼ってありました?」

「難しい依頼ですか? そうですねぇ……」


 アイクはグラスを口元まで運び、しかし、一滴も飲まずに下ろした。


「特定の得物というのが困りますね。ナイフとか」

「それなら俺の専門分野だな」


 クレイがここぞと声を張ったが、


「いえいえ。あのとき渡されたのは小さなデザートナイフで」

「デザートナイフ!」


 ジョニーが食いついた。


「いやそれ、どう殺るんです? あ、待って。当てます。ん~~~弓だ! じゃなきゃエアーコンプレッサーで――」

「どっちも違いますよ」


 アイクは右手をひらひら振った。


「護衛は傷つけるなってことで、ターゲットが外出している間に家に忍び込んだんです。護衛も少ないですから。――で、帰ってくるまでベッドの下に隠れまして」

「ブギーマンかよ」


 ビールを傾け、クレイが笑った。


「傑作なのは殺した後ですよ。そのままベッドに隠れ続けて」

「なぜ?」


 グウィンが眉をひそめグラスに唇を寄せた。


「死体が見つかると騒ぎになるでしょ? そこに紛れて脱出です」

「夜に出るよりいいな」


 ゼル爺が感心した様子で頷いた。


「でも、ランキングを上げるならコツは別にあります」

「おお! そういうの待ってました! どうするんです?」


 ジョニーに問われ、アイクはテーブルの上で指を絡ませた。


「依頼人に優先順位の確認を取るんです。何が一番か。条件が増えるごとに成功率がどう下がるか。インフォームド・コンセントです」

「どうせ死ぬし?」


 ジョニーが言って、クレイと一緒に大笑いした。


「でも」


 クレイは指先を見つめて言う。


「凄いと思ったのはアレですね。前にあった――製薬会社だったかな? 若い開発者がオフィスで死んだでしょう」

「ああ! あったなあ!」

 

 クレイが舌なめずりしてジョニーを見やった。

 アイクは両者の間で視線を往復させ、続ける。

 

「椅子の高さ調整が吹っ飛んで」

「スプリングがケツから脳天まで突き抜けた!」


 爆笑。ジョニーが手を挙げた。


「はい! 実はそれ私の仕事です! いやあ、大変だったんですよ。できるだけ人目につくように、間抜けな死に様にしろって言われましてね?」

「凄い」

「恐縮です!」


 アイクの組んだ指の先で、爪が白くなっていた。

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