第16話 ※どうしてそんなことを言うのかな?
ーーーーーー水の中から見える景色は、陽の光が反射して綺麗だった。
万華鏡を覗き込むように、全部がキラキラ輝いる。
ゆらりと揺れる影はわたしに手を伸ばしてくる。だけど、その腕に抱かれて、わたしは何もせずに引き揚げられた。
溺れた記憶はあるし、もう少しで死んでしまうところだったのに、怖くは無かった。ただ、絶対に助けてくれると信じていたんだ。
わたしを救ってくれた人。それが、のぼるオじさん。
どうしてわたしを見つけてくれたんだろう?どうして、あなただけが助けてくれたんだろう?
その衝撃的だった『死んでしまうかもしれなかった経験』が、後からわたしを考えさせる。
お父さんとお母さんが構ってくれなかったから、一人で深いプールに行ったのを覚えてる。
本当はウォータースライダーに行ってびっくりさせたかったけど、係員さんが見張ってるから行けないのを知ってた。
だから、せめてウォータースライダーの着水点にいたかったんだ。
だけど、それまで幼児用プールでしか遊んだことのないわたしからしたら、そこは深かった。足がつかなかった。
それで、腰回りに巨大な浮き輪がついていたのがダメだった。
他の人がウォータースライダーを終えてドボンと着水した時の波でひっくり返る。
頭を水中に、足を水面から上に出していたわたしは色々なものを見た。
下を向けば、息のできる世界に輝きがあって、その周りにはしゃいでいるみんながいた。
だけど、上を向いたら。青黒い暗いタイルはそこで行き止まりになっていて、肩から上がぶるっと震えたのを覚えてる。
だけど、何度も言うけど、ちっとも怖く無かったんだ。
ーーーーーーのぼるおじさんが、わたしを救ってくれたから。
わたしのことを見てくれる大人がいた。
それがのぼるおじさんなんだけど、それまで出会ってきた大人はみんなわたしを突き放す。
「できるでしょ?」って。
お父さんやお母さんが器用なのか、おじいちゃんおばあちゃんもそうだったのか、それはわからない。
だけど、会う大人みんなが、わたしを大人扱いする。
だから、泣きたくて仕方がない時でも我慢した。
そしたら、別の大人には、『こどもっぽくなくて可愛くない』と言われて。
とても衝撃的で言葉が出なかった。自分が大人っぽく振る舞うことが1番大切だって思ってたから。
じゃあ、わたしはどうしたらいいのっ?ってなって。
もしかしたら、『お姉さん』だから他の子より頑張らなきゃいけなかったのかもしれないって無理矢理思ってて。
だから、誰かに可愛いって言われたくて。
でも、誰も言ってくれなくて。
だけど、1番大切な人には可愛いって言ってもらいたかった。
それがのぼるおじさんで。
その人がわたしの全てで、今のわたしの、人生の目標なの。
お父さんとお母さんはわたしがおかしくないことを証明するために、のぼるおじさんを探してたのを知ってる。
決してわたしのためなんかじゃなく、世間体ばかり気にして仕方なく探したんだ。
見つかった時は喜んでたよ。
「これで美兎がまともになる」ってさ。
バカみたいだよね。
命の恩人だからってJSのメスガキと結婚を前提に・・・とか無いでしょう! とろにか @adgjmp2010
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