第14話 何が変わるか見てみよう
本日も、つつがなく業務を終えた。そして、珍しくこの後予定があり、古市くんに仕事を丸投げして帰ってみようパート1。16時過ぎに上がれるなんて夢のようである。
仕事を任された古市くんはニヤニヤしながらこっちを見ている。全然事情を話してないのに、笑われて肩をポンポンと叩かれる始末。
「店長もそういう時期ですもんね?ごゆっくり楽しんで来てくださいっす!」
「ちょっと子供の面倒を頼まれただけなんだけど」
「ふっ。まさか先見の明ってやつっすかね?自分の老後を見越して若い子に目をつけるなんて!!やりますねっ!そろそろ引退っすか?」
「全部訂正したいところなんだけど、まず引退はしないから副店長としてしばらく宜しく」
「もし結婚式挙げる時は行きますんで!よろしくっす!」
頭の中お花畑とはこのことを言うのだろうか。美兎ちゃんの方がぶっとんでるけど、妄想膨らまして体当たりしてくる古市くんがウザイ。
「後で確認しに来るからな?ちゃんとやってね?」
「お任せあれーっす!!」
ほんとに大丈夫だろうか?初めて古市くん1人に任せるからすごく不安だ。
だけど、ずっとニヤニヤしてくる古市くんから早く離れたくて、俺はエレベーターの閉まるボタンを連打した。
ーーーーー
地下鉄は、電車に比べて本数が3倍くらい多いから便利だ。
この時間は、学生の乗客が目立つ。まだ、世間のサラリーマンたちは業務中だろう。
「てんちょーじゃんっ!なんでいんの?」
「あ、れんくんじゃん。今帰り?」
野球帽を被ってる少年は廉くんだった。
「少年野球クラブの帰りー。店長、お店の時とふんいきちげー。でもわかったおれすげー」
「まだ明るいのに帰りが早いね。もうちょっと遅くまでやってると思ってた」
「親が迎え来れる人は残ってるぞー。俺は、よく迷子になるから先に帰されるんだ」
「なるほど」
ひとりで帰されるのも危ないと思うんだけどな。
あ、あれか。もしかして美兎ちゃんの件が親同士で噂になってて、れんくんにまで影響が出てるのかもしれない。だから、関わってくれないのかな?
「今日、俺んち来るんでしょ?肉持ってないみたいだけど、何しに来んの?」
「別におじさんはコックさんじゃないよ」
「でも、肉の焼き方やばかったじゃん!今度ウチでもやってよ!庭は広いからバーベキューできるしなっ!」
いいな、BBQ。学生の時以来だ。
こうなったら特選タンを社員割引で購入するしかあるまい。
「で、ほんとに何しに来んの?姉ちゃんに惚れたの?」
「そんなことはないよ」
「俺が言うのもなんだけど、姉ちゃんはやべーぞ。昨日は2階で唸ってたしなっ!」
「そういうプチ情報いらないなぁ」
改札を出ると、自販機のところに猫耳のパーカーを着てる子が目についた。
あれ・・・紫乃ちゃん?
「・・・遅い。待ちくたびれた」
「しのが待ってるなんてメズラシー!」
「れんのことは待ってない。のぼるを待ってた」
「がくっ!そんなに店長が良いのかっ?てんちょー、帰ったら腕相撲勝負!俺両手でっ!」
「おじさんが勝てるかギリギリのラインだなぁ」
「・・・ねーちんは、のぼるのために家でおとなしく勉強してるの。だから、ほめてあげてね?」
「そうなの?」
こくんと紫乃ちゃんが頷く。
「今日から、普通の人になりたいって。ねーちんは本気だよ?」
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