第13話 表の店、裏の店


居酒屋から焼肉屋にプチ改装する時間は30分と定められている。逆も然り。


8時から17時勤務なのだけれど、お店の開店は昼11時だ。だから空いた時間がある。居酒屋『さんしお』のメンバーがたむろっているのは最早見慣れた光景だ。


そっちの店長は三笠昌子みかさしょうじという。昌子さんはハチマキが似合う短髪のイケメンなんだけど、名前のせいか中性的な顔立ちなので、女子のスカートを履かせてもファンができる人気者ぶり。


「いよっ。久保ちん。今日も真面目に来たね」


「俺が来ないと昌子さん、開店間際まで寝るでしょう?」


「んー、別にパーティルームで寝るから邪魔してなくない?VIPな客でも見つけたの?」


昌子さんのノリに少し前職のホストな感じが残っている。ちなみに俺はこの人の正確な年齢を知らない。


「昨日、パーティルーム使いましたけどね。家族連れでしたけど」


「へぇー、久保ちんの知り合い?どんな人どんな人?」


「小学生のガキ達でしたけど、仲良くなれそうですよ」


「え?久保ちんってさ、子供好きなんだっけ?まぁ、あれかー。焼肉屋はファミリー層取り込んでいかないときびしーもんね?」


「そんな思惑は無いんですけど・・・ファミリー向けにしたら今来てるお客さんいなくなりそうですし」


「じゃあ、なんでガキ?まさか、ロリコンに目覚めたの?」


「目覚めてはいないですけど、あっちから発見された的な感じですかね」


「ふーん。意外なところで必要とされるんだね。大人の相手してるとさ、ガキなんか邪魔で仕方なくなるよ。店に入れねーし」


まぁ、そうだよな。さんしおの主戦場は夜中だ。子供なんているはずがない。極稀に連れて飲みに来る人もいるけど、ひんしゅくを買うだろう。


「水戸ちゃん昨日出勤しました?」


「あーいたね。日付変わる前に帰ったけど」


「じゃあ、今日は出てくれるかなー」


「今はあんまりお金に困ってないみたいだから、来ないんじゃね?」


うちの店、すとぽーのホールは俺か古市くんしかできない。これでは何かあった時に困るから、さんしおから紹介してもらった水戸由香みとゆかちゃんも一応在籍はしている。


接客能力は確かだし、いつもいてくれれば看板娘になれる逸材なのだけど、大学に通ってるからどうしても日中はバイトとして入れない曜日が多い。


さらに、日中の時給は深夜帯で働くより下がるから、モチベが上がりにくいんだと思う。


まぁ、それでも紹介してもらえただけ有難いし、ここぞって時は大学の授業をサボるらしいから秘密兵器として大切にしているつもりだ。


「夜中にさ、特選タン食べたいって騒ぐやつが定期的にいるからさ、うち用に少し残しといてくれねー?」


「昼間にお待ちしてます」


「昼間しか焼肉やんねーよっていつも言ってるんだけどな。いっそ、24時間焼肉酒場やらねーかー?」


「無理ですよ」


うちには従業員が足りなくて戦力にならないし、火が沈まないうちに寝るカメハメハ大王が多い。それに・・・


「お客さんと約束しちゃってるんです」


俺には、自分の仕事以外に大切なミッションがある。昨日の今日だけど、工藤家に行かなくてはならない。


「え?アフター的な感じ?やるじゃん。久保ちんは仕事とプライベート、完全に分ける人だと思ってたわ」


「・・・・・・」


「悪いようには言ってないよ。久保ちんなりの人間味がでてきたってことじゃん。機械的な、事務的な人はつまらないからね」


人間味かぁ。そうなのかな。良い変化になればいいかなと漠然と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る