水留浄一と菱河切人による、ある日の対話
第閑話 なんだかわからないもの
『得体の知れないものを、ぼくらは〝
稼ぎのいいアルバイトを探していたころ。
いまいち業態の知れない会社を見つけて、センセーに相談したことがある。
返ってきたのは、実に奇妙な言葉だった。
ぬえ?
『猿の顔に、
なんというか、よくわからないやつだな。
『そう、なんだか解らない、
なるほど。
俺がいま面接を受けようとしている会社は、鵺であると。
うん、怪談は怖いけれど。
こういうのは、面白い。
『オカルトに興味を持ってもらえたのは、嬉しい誤算だね。さて、この鵺には、いろいろな逸話がある。何せよくわからないものの代名詞だからね、めちゃくちゃある。中でも有名なものが、雷獣だろうか』
『違う。
それは、つまり。
『うん。落雷が起きた場所には、鵺がいるというわけだ。そうして、雷獣はまた、空に昇る。このときも雷が起きる。人々は天然自然というなんだかわからないものに、妖怪という概念を見いだしていたわけだ』
なるほど、確かに面白い。
けれど、これはちっとも就職に役立たないのでは?
などと疑念をぶつけると、センセーはカラカラと笑い。
『それはそうだ』
と、素直に認めた。
おいおい。
『しかし、そんな役に立たないようなところで働いても仕方がない、ということさ。学生生活科があるだろう? そこを介した仕事は比較的安全で真っ当だ。ゼミに上がったら教授に掛け合ってみてもいい。苦学生にだけ紹介されるゼミの仕事というのもある。どうしてもとなれば、ぼくが
「…………」
『それで、鵺といえば、もっと興味深い話がある。これは以前から追いかけているテーマなのだけど、
俺はそのあたりで、話を聞き流すことに決めた。
聞いても解らないし、それこそ水留浄一という知識の詰まった箱が、鵺のように思えたからだ。
彼の
それでも、こんなにも親身になってくれる先生のことを。
俺はいまも、ずっと尊敬している――
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