12
人里から隔離されてそこそこの時間になる。私は人肌恋しいことに気がついた。昨夜、人魚さんに「ハグする?」と提案したのは、人魚さんを慰めたいがためだった。そのはずが、ハグできなかったことを深く悔やんでいる。あくまで厚意だったはずが、それは本当は違くて、私の好意がそういう行為を求めて……
こうい、コウイ、KO―I。恋?
途方もないことを考えるのはやめよう。私は身を起こして、衣類のボックスを物色する。まずは更衣からだ。上等とは言い難いジーンズを脱いで、これまた上質とは呼び難いスカートを履く。私はそれがあまり嫌ではなくて、傷んだ髪さえなんとかできればこの格好でデートに出かけてもいいとすら思えた。人魚さんの知人は、食のセンスこそおかしいけどファッションはそれなりに気を使えるらしい。
デート、か。
デートに誘える相手は人魚さんくらいのものだが、彼女と私が共存できるのは波が打ち付ける浜辺だけだ。そして今更そこでなにをできるわけでもない。できるとしたら、ハグ、とか。
ふと、彼女のレインコートが目に入る。初日に凍えないようにと咄嗟にくれたものだ。何気なく……というと嘘になるけど、それを抱き寄せて、顔を埋めてみた。微かに女の匂いがする。
……別に、認めたっていいか。
私は彼女を抱きしめたいし、彼女に抱き返してほしい。彼女の顔が見たい。彼女の嬉しそうな声をもっと聞きたい。もっと仲良くなりたい。デートしたい。女友達と二人で遊ぶのを「デート」と呼ぶアレではなくて、ちゃんとそういう意識をもって、夜はちょっと高いレストランに行くような、そういうデート。
これは恋だろうか。もう今更思案しても仕方ないのだけど、少なくとも「好き」ではあるし、それがLIKEだろうとLOVEだろうと、私には彼女しかいないのだ。物理的に。
なんだか気恥ずかしくなってきて、意味もなく大の字に寝て、四肢をばたばたさせてみる。左脚はもう全く痛くない。
もっと積極的に行動しなきゃ。
私の人生の締めが灰色にならないように。
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