10
さんさんと降り注ぐ日光。果てしなく広がる青い海。小さな島に私は一人。こういう時は大声を出すに限る。
「飽きたーーーーっ!!!!」
ぱっさぱさの口で叫んだものだから、げほごほとむせる。ペットボトルの水を飲み下し、呼吸に平穏を取り戻してやった。黄色い空き箱が乱雑に重ねられたテントの隅と、黄色いパッケージが丁寧に詰め込まれたボックスの中を交互に見ながらため息をつく。
カロリーメイトだけで生活するのは流石に堪える。これがチーズ味ならあと三日は我慢できたが、メープル味ではもうどうにもならない。空腹に苦しむよりマシなのはわかりきっているが、人間とは欲深い生き物なのだ。
「……もしかして、人魚はそんなに欲がないのかな」
これは種族間の感覚の差なのかもしれない。また人魚さんと話したいことが増えてしまった。彼女に対して思うことは色々ある。
さて、それはそれとして。
「飽きたーーーーっ!!!!」
潤った喉で絶好調だ。人間、衣食住の安定なくして他のことを考えることは不可能なのである。そろそろ自給自足に踏み込む時期なのかもしれない。とはいえ、この島にはドードー鳥もいなければ雑草を刈りまくれば麦の種が出てくる便利システムもない。サバイバル知識がゲーム実況で手に入れたものしかないことに気がついて絶望したが、島をくまなく探索すれば果物くらいあるかもしれない。私は歩き出す。左脚からは痛みがすっかり抜け、松葉杖がわりの枝もすでに必要なくなっていた。
あった。さもありなんと言いたげにあった。昨日は枝を探すのにしたばかり見ていたからか、私が気付いていないだけでゴロゴロと果物が実っていた。見たこともない形のものだが、多分食べられるだろう。
「いただきます!」
本当は皮を剥ぐとか断面を舐めるとかするべきことがあるのだろうが、私はその場でかぶりついた。フレッシュな汁気と、カロリーメイトにはない甘酸っぱさが口の中に広がる。咀嚼して飲み下せば、身体中に染み渡る。ぺろりと一つ平らげてから、抱えられるだけ収穫した。あとはお腹を壊さないよう祈るのみだ。
また人魚さんとの話題が増えちゃった。
テントの中で横になり、そんなことを考える。うとうとと意識が輪郭を失いつつあることに気付いて、つい上半身を起こした。そういえばここ数日、日が出てるうちに寝て深夜に人魚さんに起こされていた。身体がそういうリズムになってしまったのだ。そしてそのリズムの方がなにかと都合がいいことに気付いて、私はふたたび横になり、まぶたを閉じた。
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