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 一人の時間を砂浜に座って過ごすわけにもいかず、私が流された場所を探索することにした。手頃な流木を松葉杖代わりにして砂浜を歩いた。その際に自分が座っていたところに目印を描いておいたのだが、浜辺に沿って歩いて、たいした時間も経たないうちに――恐らく一時間くらいで――目印が前方に現れた。ここが小さな小さな孤島であると知って軽く絶望した。その割に砂浜は綺麗で、内陸の方には緑も見え、気候も温暖で、ホテルでも建てればそこそこの人気が出るのではないかと思った。


 アパートに籠るよりはマシか。


 目印の上に寝転がり、真っ青な空を見上げる。こうして空を見るのも久しぶりな気がする。リゾート気分で過ごせばなんということはない。


 私、これからどうなるのかな。


 不安ではあった。そもそも、人魚ってなんだ。水死体集めたり、人間捌いたりして生きてるってなんだ。あまりにも非現実的で、傍から見れば絶対絶命なのだが、なぜか私は現状をすんなりと受け入れていた。夢なら覚めてほしい。いや、せっかくだから彼女――例の人魚さんの顔を拝んでからでもいい。なんだったら、もう少しエンジョイしておきたい。


 両親や地元の友人に「能天気だ」と言われていつもムッとしていたが、今回ばかりは能天気でよかったと思う。私がスーパーネガティブガールだったら、今頃は進水式をして現世に別れを告げていたろう。


 あ、それもいいかもな。

 久々にママとパパに会いたいし。


 そういえば、能天気に助けられたのは二回目だった。私の両親は一昨年死んでしまった。交通事故だった。すごい悲しかったけど、「そんなこともあるよね」と受け入れていた自分がいた。今でもそうだ。どうせあの熟年夫婦は天国でもイチャコラしてるのだ。


 というわけで海に身を投げて死んでみようと思ったのだが、脚が痛くて水の中を進むのが困難だと判断してやめにした。せっかく死ぬなら、人魚さんの生活費になれた方が幸せだ。というのは言い訳に過ぎず、その実怖くて仕方なかった。やっぱり生きててよかった。これからも生きていたい。


 とはいえ、あいにく一人暮らしを初めてから世間情勢の諸々のせいで友達はできてないし、ここでのんびりしてたって、ここで野垂れ死んだって、私以外に困る人はいないのだ。そう考えると気が楽である。それにしても、死にたくはないのだが。


「……おなかへったなあ」


 何気なく呟いてみる。喉も渇いた。人魚さんはまだかなあ。

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