雨下り

 シマ、そう名乗った白い妖獣はその尾を使って持ち上げた大型車を高速道路の上から下へと突き落とし、軽く投げ捨てる。その間クレナイさんは車の中から中から出てこず恐らくは落ちてしまったのだろう。

 ケタケタと気味悪く笑いながら、器用に尾についた鎌四本を空中で巨悪の音色を奏でながら指揮者の様に演奏して、ゆっくりと味を熟成させるためなのか近づいてくる。

 その様子を見ていた僕は先ほどまでの目に見えている結果的な現場のものよりもそれと合わせての結論が見えてくるあの化け物の足が一歩、また一歩とこちらに進んでくるたびに背筋がゾワッとして顎が勝手に動き始め、手についた何かもわからぬ液体も気にせずただ瞳は恐怖に恐れながら朝日に照らされた場違いな化け物を離さなかった。


「おいっ!、動けるか!」


 光が差す。

 巴は草刈のその言葉にハッとし恐怖は拭はしないもののどうにか動こうと、心の中でうる覚えの般若心経を唱えながら何とか震えながらも重い腰を上げる。


「うっ、動けます!」


 恐怖を忘れたかったのか巴はその時に出せた明いっぱいの声を上げて何とか草刈の少し後ろの位置に立つ。


「あっ、あれって一体?、、、」


「多分だが、さっき倒したイタチの仲間か何かだろうな、とは言ってもあそこに居るのはさっきの何倍も強い奴だろうけどな」


 と草刈も少し戸惑いながらも目の前にいる状態がわからないものへの見解を述べると、巴は道路の下数十m下まで落とされてしまった。クレナイのことが頭をよぎる。


「クレナイさんってもしかして、、、、、、」


 と不安げに口に出してしまうと草刈は堂々としながら。


「後三分後に左方向に走るぞ、」


 と小さく巴につぶやくと、間髪入れずに化け物の方へと質問を飛ばし、左腕を剣へと変わり、その後右手をイタチに隠す様にカウントを始める。


「テメェ、さっきのアホどもの仲間か?」


 すると化け物は先ほどよりも大きな声で虫唾が走る様な笑い声をあげると急に静かになり、口調が変わり、言葉を発する。


「アンタらには少々恨みがあってなぁ、まぁ、あちらさんみたいになってもらな何ねぇ、悪いな。」


 口調が違う。

 先程の独特なハスキーボイスから一転して今度は筋の通ったいい声へと変わり、顔色も先程は顔のシワというシワがこれでもかと言うほどには引き攣っていたと言うのに、今度は表情がまるでなくなったかの様に変貌しただ淡々と口から言葉を出していた。

 不気味だ、何も掴めない、こいつがしたい事は僕らを殺す事以外には殆どの言葉がうまく読み取れず、まるで誘拐されたと言うのに、何も手を出してこず三ヶ月が経ったかの様に全て分かるはずなのに、理解が出来ない。

 そして僕が今できる事は黙ってその様子を見て、聞いて、唾をごクリと飲み込む事、三分後にダッシュしなくてはいけない事。ただそれだけであった。

 しかし、そんなストレート玉同士をぶつけ合ってしまったことが嫌だったのか草刈さんはイタチの方に指二本で二分経ったことを表しながら指を差す。


「テメェの恨みなんぞ知るか!、俺の要件にさっさと答えろ、スカポンタン!」


 すると、イタチはポリポリと突然皮が引き剥がれそうな勢いで、首をかきむしり始め、口をガバッと開けると、


「うっせぇなぁ!、おりゃもうあのくそアマビッチをぶっ殺したから!満足してぇんだよ!、貴様を殺す義理も恨みつらみその他諸々クソほどもないんだから黙ってろぉ!」


 また口調が激しく変わる。

 不気味だ、だがこいつが口調を変えたのはこれで3回目、何となくコイツの正体が読めてきた。けどそんなことあり得るのか?、それであれば先程までの事へ矛盾が出来てしまってきて、違和感が頭をよぎるが、そんなことを考えたとしてもこの状況を打開できほどの情報ではないだろう。

 そろそろ三分が経とうとしていて、後数秒単位という所で、イタチの後方から音がする。イタチもその音に反応して、耳をミクっとさせ後ろを振り向く、後方には紅の閃光がゆっくりとその場におり、イタチは声にもならない様な凄まじい轟音を口から放ち四本の刃を構え、紅の方向へと突っ走る。

 そしてそれの数コンマ先に草刈さんと僕も全力で走り、方向を表す塀の様なものを飛び越え、道路の恥のほうまで着く。

 僕が息を切らしながら、クレナイさんは大丈夫なのかと聞くと草刈は、ニカっと笑いながら


「大丈夫だ、あの女は何にでもなれるしなんでも出来るインチキ女だよ...」


 その言葉に通りだった。

 クレナイさんの両腕はどんどん大きくなっていき、広がっていき、そこからは何百丁の銃と何十というミサイルが出てきて、イタチの方向に全弾を向け、その後朝の霧と共にクレナイさんは息を吸って、大きく声を荒らげながら、


「ふっとびな!!!」


「なっ!」


 と言うとそこから火器が火を噴きながら噴出され、イタチの姿をみるみると変えていき、肉はミサイルの人類による化学のクソの部分をプロジェクターで浴びせ焼き、骨は銃弾の鎮魂歌によって砕かれ、ほんの数秒だったのがまるで数時間の映画を見ているかの様な気分を僕に与え、上映が終わった頃にはイタチは恐らくはクレジットを見る事無く客席を立っていた。


 クレナイさんは火器をもの小さな腕へと変えると、その場にグッと膝を突き腹を押さえる。

 僕と草刈さんは心配して直ぐにクレナイさんの方へと走り出す。

 クレナイさんの傷は深く、表目はイタチと刃によって抉られてしまい、血こそ出てはいなかったが中は空洞状になってしまっていた。

 それをみた草刈さん直ぐに手で韻の様なものを作ると口を開け活活と唱えようとすると、突然僕と草刈さんはクレナイさんによって突き飛ばされる。

 僕は2メートル程転がって何するんですか!っとクレナイさんに怒ってやろうとすると、そんな事は出来なかった。この光景は目を疑うという言葉が似合っていた。

 クレナイさんの体はまた三本の刃によって貫かれて宙に持ち上げられてしまい、身動きも取れなくなってしまっていた。

 反応したのか草刈さんは直ぐに体制を立て直すと、手の剣を塵の様なものの中へと横向きに振りかざすも、感触はなかった様で塵をただすり抜けるだけで終わってしまい、もう一度剣を振ろうとするも、高い金属音が鳴り草刈さんの目の前には鎌が一本正面を向いていた。

 塵はその場にゆっくりと重なっていき形を作る。まるで数秒時間が戻っていってしまったのではないかと疑うほどに成功に積み重なってゆく様はジグソーパズルの様であったと同時にそのジグソーパズルは恐らくは完成した絵は呪われているのだろう。

 なんとかパズルの完成を阻止しようと草刈も剣を振るうが、つるぎは全て目の前の一本の縦横無尽に動き回る厄介な鎌に簡単にいなされ、近づくこともできなかった。

 歯がゆい状態が続く中でやっと形が出来てきた白い妖獣は自身の憎しいであろうクレナイさんに差した鎌を痛ぶる様にゆっくりとクレナイの体から抜けない様にじっくりと動かしながら、さらに上へと持ち上げ、その鎌が動くたびにクレナイさんは悲痛の声を上げそうになりながら、刃を素手で掴む。


「ほぉ、まだそんな力があるかぁ?クソアマぁ?」


 イタチはまた君の悪い笑い声を上げながら、刃を動かすのを止める。

 クレナイは直ぐに挑発する様に言葉をぶつける。


「どうした?、腰でも抜けたか?」


「いやぁ〜、テメェが随分と肝が据わってるもんだから肝でもてなぁ!」


 その瞬間だっただろうか、二刃はクレナイさんと身体をいきなり奥へと突き刺すとそのまま腹を抉り出し、クレナイさんの体からは血とコーラとエンジンオイルの混ざり合った変な匂いと共に、そこから機械のパーツと内臓が混じり合った様なものが腹の中から溢れ出し、その血溜まりの様なものもの中にクレナイさんは倒れ込む。


「がぁぁぁ!........」


 クレナイさんは力無く上から地面に叩きつけられ、そのまま目から光を失う。

 イタチはそれを嘲笑う様にニヒィと笑うと、その赤い目で死体であろうクレナイさんの身体を舐める様に首を伸ばしてニタニタとこれまた悪辣に屍姦をしていた。

 巴はその気持ち悪さに背筋が震えて吐き気が襲う、おぞましい。ただひたすらに悍ましく、気持ち悪い光景は巴には血などのスプラッターな映像に嫌悪感を抱いたのではなく、その獣の心はただひたすらに醜く、そしてゲスであった。

 後ろの方では草刈さんがなんとかイタチとの距離を縮めようと四方八方から攻め込むもそのどれもがたった一本の鎌によっていなされてしまっていた。

状況は絶望的、クレナイさんはピクリとも動かなくなって、草刈さんは鎌一本でもギリギリだというのにそれが今度は三本に増えて、、、、、、、、、、、

待て、あいつの尾っぽてのは確か初めは四本だったはず、何となくアイツが何であんな攻撃を受けても無事なのかが分かると僕の足はクレナイさんの方へと駆け出していった。











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