四枚刃と火炎

 それは、一分にすら収まらない秒単位での出来事であった。

 一匹の巨大な鎌鼬が何も出来ずに首だけとなり代わり、その場で倒れ伏せてしまった。

 その光景に巴は絶句し、あの凄く強そうに自信満々で登場した草刈さんが現在進行形で最後の一匹とやり合っている中、唐突に現れたこの人?いやバイク人?はまさにプロフェッショナルな無駄な動きは一才せずに敵を葬っていった。


「あの、大丈夫ですか?」


 紫色の鎌鼬の返り血がつきながら振り返ってくれたその顔は、機械的であり、口は無く鼻もなく、目の様な部位が付いているだけで、背中のフロントカウルがフードの様に後ろに付いていた。

 しかし、彼女?は機械音声の様な声では無く、肉声で、それもかなり良い声でアナウンサーとかにいそうな聞き取りやすい声であった。


「はっ、、、はい。大丈夫ではあるんですが、、、、」


「貴方は?一体何者なんすか?」


 そう俺が呑気に質問をしようとすると、彼女はこちらに顔を近付けながら。


「すみません。今は時間が無いので詳しくは話せませんが、後ほどこの事はしっかりと説明するので、しばしばお待ちください。」


 それだけを言い残すと彼女は、いや、先程名乗っていた名前であるマリーさんは相方の草刈さんの方へと人型のまますごいスピードで行ってしまった。


「なんだって言うんだよ、あの人たち・・・・・聞きたいことが山積みなんだけどなぁ」


 巴は隠れていろとは告げられたがそんな事は全く聞かずにそのままその場にへなぁ、と座り込みその世にも奇妙な光景をまじまじと見つめていた。










 △ △ △



 硬い金属音同士がぶつかり合う重厚感のある音がトンネル内を反響していく。


「人間!、まだ生きるのか!」


「悪いが、生存に関してはワシはプロフェッショナルなんでねぇ!」


 互いの刃同士はもう何百回もぶつかっていると言うのに全くもって刃こぼれせずにぶつかり合っていた。

 そうしていると、草刈の後ろから一台のロボットが足についているタイヤでローラースケートをやる様に走ってそのまま草刈の頭を飛び越えてそのまま熱した熱したマフラーでイタチの頭をカチ割ろうと突っ込んでいくも、片方の鎌で受け止められて、ロボットはその鎌によって天井に弾き飛ばされてしまう。

 しかしロボットは空中で体勢を立て直しくるくると体を丸めながら回転し地上に着地すると直様戦闘態勢へと入る。


「ほぉ、対応が随分と早いな、そらぁ弟も殺せるわなぁ。」


 それに対して余裕そうな風貌で戦闘体勢を解きながら、


「よくもまぁ戦いながら私とあの怠慢イタチの方をみていられましたね。」


「そらぁ、コイツの剣撃なんぞへでもねぇからなぁ!かっかっかっか!」


 独特な笑い声を発声しながら流暢に笑う姿のイタチは奇妙で有りながらも、そこに油断は無く、尾は絶対に草刈とマリーの隙を窺い続けていた。

 その時に草刈が口を挟む。


「おい!、イタチ野郎!テメェワシの剣撃が弱いだと!舐めんなよクソッタレ!」


「ならきてみろヨォ!雑魚が!」


 草刈が激昂しながらイタチに突っ込もうとすると、


「待て七、一度落ち着いて、このまま無策に突っ込めば意味が有りませんよ。」


 しかし草刈はバイクの方を見ながら、


「悪いがクレナイ!、あの能無し野郎はワシを馬鹿にしてきやがったんだぞ!我慢なぞ出来るかってんだ!」


 と草刈が半切れながらマリーに口を荒らげていると呆れながら左腕の腕が、


「マリーちゃん、旦那がこうなっちまったら止まらねぇって知ってんだろぉ?」


 しかし、マリーは草刈のことを何とか説得する様に


「わかってはいますが、、、アイツは冷静に対処すれば簡単に勝てます。なおかつ、奴はさっきのと同じ様に油断している!。」


「油断も怠慢も別にどうでもいい!、もう一丁爆狐をつかえれ、、、、、、っ」


 油断していた。戦闘中だと言うのにミスったなぁ、チクショウ、、、、こんなことなら突っ込んでおけば良かった。

 そう、後悔の句を詠んでいると、、、いや句になんぞなってはいなかったが、おっと、目の前にさっきの坊主が天井に位やがる。


「よぉ坊主、さっきぶりだな!」


 と草刈がナイスガイな自分の顔を自慢するかの様に笑顔で対応すると巴は


「っ、、、、、、、何で、、、、、し、死体?が、がぁ!喋るんだよ!?」


 あっ、と草刈はとぼけた様な声をあげ、横になっている自分の下半身がないことに気がつく。


「なぁ、坊主。頼み事があるんだけど、お願いしても良いか?」


 と草刈は巴に対してそう呼びかけるもの、一般人の普通の人間である巴にとっては死体を見るのは生まれてから五人目で有り、そして同時に今まで見てきた死体でも胴と下半身が離れてしまっている様な中々にパンチの効いたホラー映画にしか出てこない様な死体を見てしまった巴はビビって腰を抜かした様にヘタレ混みながら手で尻を引き摺りながら後退りしていく。

 それを見た草刈はこのままでは自分は完全に召されてしまうと慌てて逃げようとしている巴を止めるために説得をしようとする。


「ま、待ってくれ坊主!、」


「待ってくれって!、なっ、何でそんな状態で生きてるんすか!?」


 当然であろう。草刈の体は上半身のみで、斜めに切られた体は左腕に関しては上腕しか残っておらず、内臓もぶちまけて中には完全にもう二度と修復不可能なレベルのものまであると言うのに草刈は全くミクリともせず半笑いで申し訳なさそうに巴に助けを懇願していていると言うのだ。

 そんな存在など正しくパニックホラー映画にしか出てこない様なゾンビ位であろう。まぁ、ゾンビ映画でしっかりと喋れるゾンビは少ないが、、、、、。


 巴は考える。この男は一体何なんだと。いやそもそもこの状況自体がおかしい。

 普通ならば死んでいるレベルの男が自分の目の前に居り、その奥では自分なんかよりもずっとでかい巨大なイタチが二本の尾の先の鎌を振るいながらイタチの目の前にいる先程形は違っても自分のことを助けてくれたバイクの女性。

 もしここで自分が選択を間違えればこの先の人生五十年は後悔する羽目となる、いやそもそも今の巴にはそんな時間すらも残っては居ないのだろう


「 くっ、草刈さん、、。」


「なっ、なんだってんだ?。」


 巴はぐっと唾を飲み込んで草刈に自分自身で作った余裕そうな笑みを浮かべながら。


「草刈さん、ぼ、僕と取引しませんか?」


 それに草刈は何言っているんだこのバカはと言っているかの様な顔を浮かべながら、


「坊主悪いが今話緊急事態で、、」


 それに対して巴は割って出るかの様に、草刈の目をしっかりと見ながら、


「違いますよ草刈さん、僕はさっきっから草刈さんの願いを叶えてあげる代わりに僕のお願いも聞いてほしいって事です。」


 草刈はそれを聞き、自分の後方で音を立てながら鞭の様に高速でしならせた鎌にクレナイは何とか対応しながらこちら側にイタチが近づかない様にとその場で押し留めてはいるが、あの様子では、、、、、、。

 背に腹は変えられんか、こんなガキに足元見られるとは、、、。


「おい坊主、お前さんの名前?なんてんだっけ?」


 少し困惑した様な巴であったが、


「巴、、再城巴だ。」


「了解だ巴、お前のことをこれからは巴で呼ばせてもらな、と言うか、ほんと肝が据わっとるね、あんた。」


「それ程でも、てっ!それって交渉は成立ってことで解釈して良いですよね?!」


「構わんよ、、そんじぁ!ワシの願いを聞いてもらおうか」


 そう言うと草刈は巴に淡々と要求内容を述べていく。


「まず右手の小指と薬指を畳み、残りの指三本はまっすぐ立ててそのままワシに近づけろ。」


 それを聞いた巴は直ぐに指示どうりに右手の指を曲げて草刈に近づける。


「こうか?」


「そう!、んでもって[活活]って言ってくれりゃあ良い。」


 そう言われると巴は少し強張りながら、活活と草が目がけて唱える。


「しやぁ!、やっと出番だ!」


 そう草刈が言ったのも束の間、草刈の体はまるで伸ばしたゴムを元に戻すかの様に勢いよく下半身の方へと向かい、それと同時に上半身と同じようなスピードで迫ってくる下半身と道路中に散らばった血と臓物もどんどんと集まってきて、あれよあれよ内の内、あっという間に元どうりの姿となった草刈はその勢いを殺すことなくそのままイタチの方へと飛んでいく。

 それに背後からでも感づいたクレナイはイタチをギリギリまで引きつけてイタチが避けられないようにする。


「バイクおんなぁぁぁぁぁぁあ!!」


 そんなイタチの怒鳴り声などには一切耳を傾けずクレナイが、イタチをがっちりと引きつけて逃げられないようにし、その間に草刈は左腕を再び剣へと変換し、そのままドリルのようにイタチの土手っ腹へと回転をさらにつけて進んでいく。

 イタチは何とかしようともがくが、完全にクレナイにがっちりと固められてその場からは動けない。


「貴様ぁぁ!!、この事を全て把握していたと言うのかぁ!!」


 それに対して今頃気づいたのかと言わんかの様な顔をしたクレナイはたった一言をイタチにかける。


「バーカ。」


 その一言と共にクレナイはその場を直ぐに離れて、クレナイが離れ終わったと同時にイタチの腹に激痛が走る。


「がぁぁぁぁ!!!!!、この俺!この俺が!こんな人間風情にぃ!!!!!!!」


 そんな断末魔と共にイタチの腹の肉は抉れて、穴が開く。

 穴からは出ては行けないであろうものがダグタクと飛び出ていた。

 だが、妖魔にそんな時間は与られない。

 イタチは最後に背後からの灼熱のような熱のこもった一撃を加えられて、断末魔も上げる暇すらなく、その場で青色の炎を上げながら地面に伏せてその息をだんだんと少なくしていった。




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