スカジャンと鎌鼬
「あぐあぐあぐ」
腹の虫が抑えられなかった俺は、腹を満たすためにパーキングエリアで自動販売機で売られている、正直余り美味しく無いハンバーガーとブドウの炭酸ジュースを口へと運んでゆく。
店内はかなり質素であり、自動販売機が五台どっしりと店の中で横一列に並んでおり、その内の三台は飲み物が中心となっては居るが、内二台は片方は昔懐かしいハンバーガーを箱詰めで売っており、かなりのお手頃価格で手にできるものである。
方やもう一方はたこ焼き、蕎麦、ラーメン、カレーなどと言った統一性もクソも無いレパートリ豊富な、下手な弾丸数撃ちゃ当たると言わんばかりに色々な人のおこのみに当たるように、全13種がバラけた料理へと成っている。
あとで店内にあるものは、簡単なベンチとテーブルが角三つずつ並べられていた。
しかし、前にバラけた自販機で食ったたこ焼きがかなり不味くて今回はハンバーガーの方にしてみて、300円だった、チーズバーガーを食ってはいるが、これも正直なところ前回食べた、あのたこ焼きと大差ない。
この商品を作ってくださった人達に失礼な為、まずいとは言わ無いが、余り俺の口には合わなかったようだ。
ふと、そんな下らないハンバーガーのことを考えていると、ふと、この店内には俺以外にも人がいることに気づく、その人たちは二人で簡単な話をしているが、何故か何方も顔は笑顔なのに、ベンチの下からは貧乏ゆすりの音が不安定に聞こえて来る。
怒っているのだろうか?、などと考えながら、何の気なしに観察を始める。
二人の雰囲気はどちらも体つきなどから恐らくは男であり、片方は筋骨隆々で身長は190は有りそうな、自らのその自慢の筋肉を見せつけるかのように9月の半ばも過ぎたのにタンクトップとジーパンだけで居て、寒くないのかと思う奴と、先ほどの人と比べるとかなり細身で俺と同じ160センチほどのメガネをかけてパーカーを着ている優男風の二人が楽しそうに対話をしていた。
二人とも
こんな遅くにこんな所にいるのは珍しいと考えていると、あちらのお二人さんがこちらを見てきた。
まずい、深夜で珍しいな〜何て変な理由でお二人さんの事を見ていた、なんて言って仕舞えば、かなり気持ちがられるに違いない。
そんな事を考えていると、こんな田舎のトラックすら中々通らない辺鄙な高速道路の小さい自販機と汚いトイレしかないパーキングエリアで男三人が深夜の丑の刻すぎに、気まずい空気が流れ出してしまうとそれはもうひどい有様で、普通の昼間の空間ならば、こんな空気は一瞬で昼間という光で消し去ってしまうだろうが、そんな光はこの空間には降りそそらず、降り注ぐのは昼間の燦々煌めく光などではなくそんな物よりも、もっと微弱な蛍光灯の光だけであった。
「あぁ、あのぉー、どうかしましたかぁ?」
一時的に時間が止まりかけていたこの空間に恐らくは勇気を出して、変な声のトーンになりながら、二人のうちの痩せている方がこの空気に殴り込んでしてくれた、ありがとう!もう君のことを「ガリ」何て心の中で二度と思わないよ!もう一度言う、ありがとう!ガリの人!、おっと、このガリの人の勇気をしっかりと生かさねば!。
「えっと、いや〜俺が言えたことでもないんすけど、こんな深夜に何しにきているんだろうなーって。」
すると、少しマッチョな人が俺の質問に笑顔で、
「私たち、三人で旅行に行っていまして、あぁ、僕の名前は笹山新八と言ってこっちが、」するとマッチョな新八さんがガリの方へと指を刺して、
「山中幸太郎と申します、、、、、はい」
と答えてくれた。
その後に俺も
「あぁ、再建設の再にお城の城にで再城で下の名前が、巴御前なんかの巴と言います」
と自己紹介を互いにしあった。
すると、ガリの人が、
「あと、さっきっから腹痛でトイレにいってるのが一人で、、、、三人で京都までバイク三台で旅行に行ってまして、、、、今日、地元の広島まで帰ってきた所なんですよ。」
おぉ、旅の話ではないか!、そんな話は俺の得意分野だ、前に京都にも行ったことがあるし、話の話題ならいくらでもあるぞ!。
そう思って思わず「実は僕も京都には行ったことはありまして、、、、っと、こんな感じで京都の旅行話をしばらく楽しんでいると、ふと、ガリの人が、
「そう言えば、、、、旅をしてらっしゃると聞きましたがこれから何方へ向かうつもりなんですか?」と俺に聞いてきた。
「いやぁ〜、実はどこに行くとかは詳しく決めていなくて、とりあえずはこのまま降りずに真っ直ぐ行けるとこまで行ってみようかなぁ〜って」
すると、それまで明るい顔だった二人が突然と顔を顰めてしまった。
急にどうしたのかと思い、どうしたのか聞いてみると。
「実はここから大体、4キロほど進むとかなり長いトンネルが有るんですがあ、ちょっとそこがぁ、まぁ」
「まぁ?」
すると、ガリが、
「かなり、、、、有名な心霊スポットなんですよ。」
一つ言っておくと、おそらくだがこの人はふざけて俺に言っているわけではなさそうだ。
しかしだ、悪いが俺はこういったオカルトちっくな話は聞いたとしても、余り信じないタイプの人間であり、あくまでもそう言った物には「娯楽」として楽しむようにしている。
「因みに、どんな怪談話なんで?」
それに対して、笹山さんは俺に話してくれた。
暗い暗い、新月の夜。
月明かりからすら見捨てられた一人の男が夜中に女房と喧嘩して、暴走気味にやけ酒とハンドル片手に高速道路を走って言ったらしい。
「ちっくしよぉ、、、、、俺が悪いんじゃぁねぇ、世界が悪いんだぁぁ!!」
などと狂言を抜かして、高速道路を爆走している時だった。
ふと、とあるトンネルに差し掛かる。
「なんだぁ、こんなトンネルあったかねぇ?」
そう思っていると、後ろから獣の歩く音がする。
鹿でもない、猪でも猿でもましてや熊なんかでもない、そこに居たのは、
「イタチ」
で、あった。
たった、一匹のイタチは通常のイタチをはるかに超えるほどの大きさで有り、具体的に言うのであれば、原付ほどの大きさで、なお、原付なんかよりも何倍も速く男の背後を一定の距離感を保ちながら、その鋭い眼差しで男をどう殺すかを自身の脳内でシュミレーションしてる様であった。
「ひっ、、、化け物ガァ!」
男は強がっている様な口調ではあるが、その声の中身には明らかな恐怖心があった。
男がその声を荒らげたその瞬間には、イタチは一匹から、一瞬にして三匹になってしまい、なぜ?、 いや、元々三匹だったのだ、縦一列に寸分の狂いなく走っていたのだ、そう男が理解した頃には、とうに遅く、一匹目に金槌場になった尾でバイクごと弾き飛ばされ、二匹目に尾についた二本の巨大な鎌で四肢を切られて、三匹目に尾についた三枚の刃が並びあった様な尾に、体を脳天から股先ほどのにかけて縦に真っ二つに切り裂かれて男は絶命してしまった。
その酷い事件から、そのトンネルは「鎌鼬の洞窟」と呼ばれる様になった。
ほう、中々不気味な話では有るが、なんとなく興味が湧いてきた。もう少し質問しよう。
「ヘェー、所でそのトンネルでは、他に事件は?」
するとマッチョが「いえ、あくまでも噂話で事件なんて聞いたことはありませんね。」
と言ってきた、ならばと、俺はこう切り出した。
「そこのトンネルって、普通にバイクで通れるんですよね?」
そんな風に、完全にその噂のトンネルには行こうとして、話を進めていくと
「おい!」と自分の後ろの自動販売機の方から声がする。
誰かと思い後ろを見るとそこに居たのは、俺よりも一回りほど背丈のでかい、男がいた。
男は前を開けた背面に龍が描かれたスカジャンを着ており、顔もイケメンとは言わないが、笑顔がカッコ良さそうなニイチャンだった。
するとスカジャンのニイチャンは自動販売機に小銭を入れながらこちらに話しかけてきた。
「なぁ、坊主。」
「俺っすか?」
するとスカジャンのニイチャンはこちらの方を見て、まるで心を見透かすかのように、一言言ってきた。
「お前さん、そのなんちゃらの洞窟に行こうと思ってだだろう。」
図星で有る。
勿論、自分の口から「そこに行きます!」などと口にしたわけではない為、恐らくはこの名前も知らないような人生経験が俺よりかは有りそうなニイチャンに俺の考えは一瞬で見破られてしまった。
「そ、それの何がいけないって言うんだよ。」
少々怖気付きながらも反論しようとするも、後ろからガリさんが、
「巴さん、僕たちも薄々気づいてましたよ」
と言われ、どうやら顔に出ていたらしい。
なんだかそんな夜に入ってるような宇宙人だの、妖怪だのを取り扱ったTV番組に食いつきながら見ている、子供のように自分を感じて、少し恥ずかしくなった。
すると、ニイチャンが、
「かかっ、恥ずかしがってやんの」
と少し小馬鹿にした様な口振りで言ってきた。
「うるさいっすよ!」
と俺が反発しても、小っ恥ずかしくて前を見れなくなって、顔を下げてしまった。
そうして、俺が顔を下げているとスカジャンのニイチャンが、
「ワシはよぉ、仕事柄そう言った心霊系の場所には詳しいが、まぁ、大体はそんなに凄なくてさ、ただ単に人が寄り付かなくなっチマってただけっ、て、言う場所が大体なんだが、まぁ、たまーにガチなハズレくじをひいちまったりするから、するからそう言った変な場所には遊び半分で近づかない方が、身のためだと思うぜ。そんじゃあな!」
と俺に告げると、コーラ二本を両手の指先で一本ずつ人差し指と中指でスキップしながら駐車場に停めてあった、キャピングカーに乗り込んで、何処かへと走り去ってしまった。
そうして俺が、「何なんだあの人?」などと考えているうちに、トイレの方から水を流す音が、人っ子一人居なくて、先ほどの嵐のような人も去り、静かになってしまったこの空間に響き渡る。
そうしているとマッチョの方が、「あぁ、アイツトイレ終わったんだと言い。」
そのままいそいそとライダースーツに着替えて、「でわ、何処かで」と告げて、サッサっと俺の前から姿を消してしまった。
結局、トイレにいた人とは二十五分間ほどで一度も顔を合わせられなかった。
理由は簡単にトイレと休憩所の入り口が別になっており、何方も出れば直ぐ駐車場で、顔を拝めることが出来なかった。
そんなこんな、ふとこれからどこに行くかを考える。
このまま、ここで少し寝てから行くのも良い、このままバイクに乗って噂のトンネルに行くのも一興、新八さんと幸太郎さんと同じ様に途中で降りて、広島観光も良いかもしれない。だけど、答えは出ている。その場所に向かえば、多分だけど俺のまだ、たまらない欲求を満たして、ワクワクと興奮を与えてくれるかもしれない。退屈を辞められるのも、終わるのも良い。
そのまま俺は缶コーヒーを一本買い、そのまま一気に飲んでバイクにまたがってはずれくじである事を祈って、小馬鹿にされたのを見返す様に、バイクを真っ直ぐに走らせる。
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