エピソード2-22 不吉な予言
それから30分後。アンにつれられ、ヨドは応接室へと向かった。応接室の扉を開けるとそこには、紅茶を飲むリーゼンベルクの姿が。
「ちょっと話してぇ事があってなァ。とりあえず中に入って茶でも飲みなァ」
ヨドは静かに頷くと、泣きぼくろが印象的なメイドと共に部屋の中へと入っていった。
部屋の中央に置かれたテーブルを囲むようにしてリーゼンベルク、ルクソニア、エドガーが椅子に座っている。
泣きぼくろが印象的なメイドは部屋に入るとすぐに、部屋の隅に置いてある紅茶セットを置いたワゴンの元へ行った。そしてヨドのために紅茶を淹れ始める。
ヨドは
ヨドが紅茶に口をつけたのを見て、リーゼンベルクが話を切り出す。
「
赤の若造とも話してた手前、お前さんとも話さねえと公平さにかけると思ってなァ」
リーゼンベルクが紅茶に口をつける。
「なるほど。我が陣営が提示できる、内容を示せとそういうわけか」
穏やかな声色で語るヨドに、リーゼンベルクがニヤリと笑う。
「話が早くて助かるねぇ」
ルクソニアが椅子から身を乗りだし、テーブルに手をつき、リーゼンベルクを見て言った。
「お願いよ、パパ。
ヨドの味方になってあげて!」
「それを聞くのは条件次第だァな。そうだな、エドガー」
エドガーはにっこり笑ってこう言った。
「そうっすね、まずは赤の陣営の上をいく条件を提示してもらわないと話にならないっすね」
リーゼンベルクが言った。
「向こうが提示した内容はこうだァ。
戦争には直接参戦しない、領地の魔獣と、魔獣軍を訓練する場所を提供する。
資金面で援助してほしい、だったかァ。
これよりもいい条件を提示できるなら、青の陣営につくことも考えてやらぁな」
リーゼンベルクは、ヨドを値踏みするように見て言った。
「残念ながら、こちらが提示できる内容はまだない。時期が来れば提示するが、それは今ではない」
「どう言うことだァ?」
ぎろりとヨドを睨み付けるリーゼンベルク。
「そのままの意味だ。今はまだ時期尚早と言える」
淡々と話すヨドにしびれを切らすリーゼンベルク。
「話にならねぇなァ。
ーーこの話はしめぇだ、しめぇ!」
リーゼンベルクは天をあおぐようにして、椅子にもたれ掛かるように座った。
「いいんすか? 旦那様」
エドガーが少し困ったようにそう言うと、紅茶を一口飲んだ。
「相手が交渉する意思がねぇもんを、どうにかできるさぁね。結局、それまでの話ってこったなぁ」
わははと笑うリーゼンベルクに、ルクソニアが聞いた。
「それってもう、ヨドとは交渉してくれないってこと?」
「相手にその気がねぇ以上、無理だってこった」
べっと舌を出すリーゼンベルク。
「今はまだ無理でも、時期が来たら交渉できるって言ってたじゃない!
ちょっと待ってあげてほしいのよ」
「やなこったァ」
リーゼンベルクは紅茶をぐいっと飲み干した。ヨドはまっすぐにリーゼンベルクを見据えて言った。
「今はまだ、時期ではない。
しかし時期が来たら、そちらにとって有益な存在になる事を約束しよう」
リーゼンベルクが値踏みするようにヨドを見て言った。
「それはお得意の予言かい?」
「そうとらえてくれて構わない。時間をくれないだろうか」
リーゼンベルクは天井を見上げ、少し考えた後、言った。
「1週間だァ。1週間お前さんにくれてやる。それ以上は待てねぇなぁ」
「それで充分だ。心遣い、感謝する」
リーゼンベルクに頭を下げるヨド。
「1週間で、何が変わるのかねぇ」
ふぅと息をはくリーゼンベルク。
「詳しいことはまだ言えないが、悪いようにはしないと誓おう」
こうしてヨドとリーゼンベルクの交渉は、一時保留という形で終わった。
それから20分後。今度はヨドを見送るために庭先へ出た、リーゼンベルク、ルクソニア、エドガー、アンの4人。ルクソニアが瞳に涙をためて、ヨドの足にしがみついている。
「もう帰っちゃうの? ヨド。
もっとゆっくり出来ないの?」
ヨドはふわりと微笑むと、ルクソニアと視線を会わせるためにしゃがんだ。
「ルクソニア嬢。最後に私が言えるのは、希望を捨てないことだ。再会の時は意外と早いだろう。しかし、それが叶うかどうかは、あなたの心根の強さにかかっている」
「わたしの、心根の強さ?」
ヨドは静かに頷くと、言った。
「諦めないでいてくれるだろうか。
ひとりになっても希望を捨てず、前を見て、今できることを努力できるだろうか」
ルクソニアは目をぱちぱちさせながら聞いた。
「それは約束?」
「約束だ、ルクソニア嬢。
すべてはあなたの選択次第だ」
ルクソニアは両手で涙をぬぐうと、ヨドに向かって、無理矢理笑顔を作って言った。
「わかったわ、ヨド。
わたし、強くなる。
今よりももっと、強くなるわ!」
ヨドはふわりと微笑んで言った。
「それでこそルクソニア嬢だ」
ヨドは静かに立ち上がった。
「ルクソニア嬢。
名残惜しいがそろそろ帰らせてもらおう」
ルクソニアは1歩後ろに移動し、ヨドから体を離す。力なく手を振り、泣きそうな顔で笑顔を作った。
エドガーがヨドに聞いた。
「本当に送迎、いらないんすか?
わざわざ徒歩で森を抜けなくても、転移ゲートですんなり帰れるのに……」
エドガーが納得いかない顔でそう言うと、ヨドは伏し目がちにこう言った。
「ルクソニア嬢のためにも、出来るだけ情報がほしい時分だ。道行く人々の未来を見ながら帰るのも、私の大切な仕事だ」
「またその話かァ。しつけェぞ、ヨド殿。」
リーゼンベルクが睨み付ける。ヨドはまっすぐにリーゼンベルクを見て、言った。
「歯がゆいだろうが、今は我慢してほしい。いずれ時が来れば尽力する。それまで待っていてほしい」
リーゼンベルクは大きくため息をつくと、言った。
「まァ、そこまで頑なに言い張るなら、期待しないでその手助けというのを待つとするかァ」
「そうっすねえ。一応、用心するに越したことないっすし、警備もしっかり固めとくんで、ヨドさんが言う物騒な予言は起こらないっすよ、残念ながら」
べっと舌を出すエドガーに、ヨドは穏やかな顔でこう返した。
「来るべき日に使者を出そう。その時まで、しばしの別れだ」
「使者ねぇ。まあ、来なくてよくなるようにうまく立ち回るっすよ、ね、旦那様!」
エドガーからアイコンタクトを受け、頷くリーゼンベルク。
「あァ。せいぜい無駄骨になるよう、努力してやんよォ」
「被害が少なくなるよう、私も協力しよう」
ヨドとリーゼンベルクは互いにまっすぐ見据えたあと、握手をした。
そのあとヨドは、城の敷地を出ていく。
「ヨド~! またねー!」
涙をボロボロこぼしながら、ルクソニアが手を振りながら叫ぶ。ヨドは振り返り、一礼して、森の中へと消えていった。
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