エピソード2-21 お見送り

 それから一時間後、ジュドーが赤の宮殿へと帰ることになった。


 見送りをしに、ルクソニアとアン、エドガーとリーゼンベルクが庭に出ている。


「忘れ物はねぇなァ?」


「大丈夫ですよ、リーゼンベルク殿。

 お時間をとっていただき、ありがとうございます。今回話したことも含め、赤の王子うちの大将と相談させてもらいます」


「よろしくなァ」


 片手をあげて言うリーゼンベルク。


「ではでは、名残惜しいですがそろそろ……。森の外までは転移魔法で送るっすよ、帰るの大変なんで」


 エドガーはそう言うと、ジュドーの隣に転移ゲートを作り、中に入るように言った。


「これでお別れなのね、気を付けて帰って!」とルクソニア。遠慮がちに軽く手を振る。


「ジュドー様、またお会いできる日をお待ちしております」


 アンが頭を下げる。


「ああ。二人にも世話になったな」


 ルクソニアが上目使いで聞いた。


「……また会える?」


「リーゼンベルク殿が色好い返事をしてくれたら、或いは、だな。

 ご令嬢、短い時間だったが楽しかったぜ。

 達者でな」


 白い歯を見せて笑いながら、転移ゲートからジュドーの姿が消えた。転移先へと転移したのだ。


 ルクソニアはアンにしがみつきながら、言った。


「……アン、誰かいなくなるのは、寂しいわね」


 アンは、ルクソニアの背を撫でながら言った。


「また会えますよ、きっと。

 ジュドー様ともお友だちになられたんですか?」


 ルクソニアがアンにしがみついたまま、上目使いで見て言った。


「お友だちになり損ねたわ。

 でも、そんなに悪い人ではなかった気がするの」


「そうですか。じゃあまた会えるといいですね」


「うん……」


 そんな二人にエドガーが声をかける。


「ほらほら、二人とも、城に帰るっすよ。

 今からそんなにしんみりしてちゃ、ヨドさんが帰る頃には大泣きする羽目になるっすよ? スマイル、スマイル!」


「ヨドも帰っちゃうの?」


 ルクソニアの瞳が揺れる。


「今日の昼頃には帰る予定っすよ」


 ルクソニアはアンのスカートをぎゅっと握った。


「出会いがあるなら、別れもまた必然っす。縁があったらまた会えるだろうし、そう落ち込まなくても大丈夫だと思うっすよ、お嬢様」


 ルクソニアはアンのスカートに顔を埋めて言った。


「だって、寂しいのよ。

 縁がなければもう会えないってことでしょう?」


 エドガーは優しい目でルクソニアを見て言った。


「これからヨドさんと、今後どうするか話し合いをするんすけど、ちゃんと平等に判断するつもりっすよ、少なくとも俺は」


「本当に本当!?」


 ルクソニアが顔をあげてエドガーに聞く。


「本当に本当っす。だから、もう二度と会えないなんてことはないっすよ」


 ルクソニアは、我慢できずに涙をこぼした。その涙をぬぐうように、ハンカチを差し出すエドガー。それを受け取って涙をぬぐうルクソニア。


 そんな三人をおいて、リーゼンベルクは一足先に城へと歩を進めるのだった。

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