エピソード2-16 勝機

 ぶうんーーと音が鳴って、私兵団の基地内部の廊下に、ルクソニアとエドガーは転移した。


「ふう、無事についたわね!」


「じゃあ鍛練場が一望できる観客席に案内するんでついてきてほしいっす」


 エドガーに先導され、観客席を目指して廊下を歩くよう促されるルクソニア。


 しかしルクソニアは立ち止まったまま動かない。


「お嬢様、どうしたんすか?」


 ルクソニアは意を決したように言った。


「わたし、エドガーに謝らなくちゃいけないことがあるの……!」


「また何かしでかしたんすか? お嬢様。

 やんちゃが過ぎると、アンさんみたいに嫁の貰い手がなくなるっすよ?」


 笑顔で軽口を叩くエドガーとは真逆に、表情を曇らせるルクソニア。


「しでかしたって言うか、言ってしまったのよ、ジュドーに。エドガーが転移ゲートを使って、転移魔法を使うこと……」


 エドガーがキョトンとした顔で言った。


「そんなことっすか?」


「そんなことって……とても大きな事よ!

 転移ゲートを出現させる為のタイムラグが生じるから、その隙を狙って攻撃するって、ジュドーが言ってたもの!」


 エドガーは少し考えたあと、ルクソニアに聞いた。


「そもそもなんで俺が転移ゲートを使うって話になったんすか?」


 ルクソニアはいたたまれなくなりうつむいた。


「昨日の夜、ヨドが青の王子さまの所へ転移魔法を使って報告に言ったって話を聞いて、その時に一般的な転移魔法は転移ゲートを使わないって聞いたの。共通の物をかいして、入れ換える形で転移させるって聞いたわ。私それを知らなくって、エドガーは転移ゲートを使って転移魔法を使うわよって言っちゃったのよ。

 ごめんなさい、エドガー。

 不利になることを言ってしまって、本当にごめんなさい!」


 ドレスの裾をつかみ、目をぎゅっとつむるルクソニア。その頭をポンポンと撫でるエドガー。


「ふむ。ということは、俺が転移魔法を使うときは転移ゲートを出現させた状態でしか使えないって思ってるんすね、ジュドーさんは。これは良いことを聞いたっすねえ。お手柄っすよ、お嬢様!」


 ルクソニアは目をぱちぱちしながら、エドガーを見た。


「どういう事?」


 こてんと首を傾けるルクソニア。


「ジュドーさんが集中して攻撃してくるときーーそれは俺が転移ゲートを使う瞬間ってことがお嬢様のお陰でわかったっす。

 相手の心づもりと情報量、作戦の道筋が大まかにでもわかっていると、こっちもそれに合わせて対処できるってもんっすよ。

 それに血濡れのエドガー事件で、手の内なんてほぼばれてるようなもんだと思ってたんすけど、相手が持ってる情報がその程度なら、こっちだって対策はいくらでもできるっす。むしろ逆にちょっと勝機が見えてきたっすよ!」


「本当に信じていいの? エドガー!

 勝てる見込みがあるのね!?」


 エドガーが胸を張っていった。


「勝率は6割強まで増えたっすよ!」


 それを聞いてルクソニアはへなへなと地面にしゃがみこんだ。


「それでも6割強の勝率なのね……」


 エドガーがどや顔で言う。


「現役の魔法騎士相手に6割強の勝率は凄いことっすよ、俺の身体能力的なスペックを考えると」


「得意気な顔でそんなこと言わないでほしいわ……!」


「しょうがないっすよ、あちらさん、剣の腕だけでも相当化けもんっすから。むしろ最初にどうやっていなすかを考えないとじり貧になるっす」


 ルクソニアはしゃがみこんだまま頭を抱えた。


「エドガー、わかってるの?

 負けたらエドガーはクビになるし、赤の陣営に無条件で入ることになるのよ?

 ヨドの話も聞いてはもらえなくなるし、悪いことだらけだわ。責任重大なのよ?」


 上目使いでにらむルクソニアに、エドガーはしれっと言った。


「まあ、やってみないことにはどう転ぶかわからないっすよね。出来る出来ないなんてのは結果論だし、まずは冷静に戦局を見ることからやってくしかないっすよ」


 潤む瞳で言うルクソニア。


「勝ってくれなきゃ困るのよ。

 戦争に参加するのは嫌だし、エドガーがいなくなるのはもっと嫌!」


 エドガーは嬉しそうに笑うとしゃがみこんでいるルクソニアに手をさしのべた。


「そりゃあ男冥利につきるっすね。こっちもあっさり負けてやるつもりは毛頭ないんで、最後までどうなるか見届けてくれないっすか? お嬢様」


 ルクソニアはエドガーの手をとり、言った。


「勝たないと許さないから!」


 エドガーは笑って言った。


「善処するっすよ」


 ルクソニアは立ち上がると、エドガーの足にしがみついた。


「絶対勝ってね、エドガー」


 エドガーはルクソニアの頭をポンポンと撫でると言った。


「やれるだけやってみるっすよ、お嬢様」


 ルクソニアはエドガーの顔を見上げ、視線をあわすと、お互いに頷いた。


「そろそろ本当に会場にいかないとヤバイっすね、お嬢様、泣き止んだっすか?」


「もう、全然泣いてなんかないんだから!」


 ルクソニアは目元をぬぐいながら強がった。


「なら、もう大丈夫そうっすね。じゃあ、観覧席まで超特急で行くっすよ!」


 エドガーはルクソニアを小脇に抱えて観覧席へと走り出した。


「ちょっとエドガー! 荷物扱いしないで!」


 抗議するルクソニアをいなしながら、エドガーは目的地まで走るのだった。

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