エピソード2-14 転移魔法について

「それにしても青の王子が、転移魔法を使って人を転移させられるとは、驚きだ」


 ルクソニアが、こてんと首をかしげてジュドーに聞いた。


「どういうこと?」


「人を転移させられるのは、転移魔法使いの中でも数パーセントしかいない、かなり上位の部類に入る人材だ。

 持って生まれた魔力量の多さと、繊細な魔力コントロールが必要になってくるからレアなんだ」


「そうなの?

 じゃあエドガーは本当にエリートなのね!

 転移ゲートを使って、人を転移させることができるもの!」


 明るく言うルクソニアに、ジュドーはキョトンとした顔で言った。


「転移ゲート?」


 ルクソニアもキョトンとした顔で言った。


「転移魔法を使うときに、転移ゲートを使うでしょう?」


「んなもん使わねぇよ。

 基本的に転移魔法は、を使って座標を合わせる。転移元と転移先に共通の物・・・・を用意し、それぞれの場所に転移魔方陣を展開して魔力で紐づけ反転させるーーつまりはを介してそれに付随する等価値のもの・・・・・・を入れ換えるってのが転移魔法だ。

 転移ゲートを使うなんて聞いたことないぞ」


 ルクソニアがぷくーと頬を膨らませて言った。


「でも本当に転移ゲートを使って移動できるのよ。嘘じゃないわ! ねえ、ヨド」


 ヨドは頷くと言った。


「恐らくあれは、転移魔法陣自体に座標を埋め込んで使っているのだろう」


「転移魔法陣自体に、座標を埋め込む事ができるのか?」


 驚くジュドーにヨドは頷く。


「実際に私も体験したが、可能なようだ」


 ルクソニアが目をぱちぱちしながらヨドに聞いた。


「青の王子さまは、転移ゲートを使わないの?」


 ヨドは微笑むと言った。


「青の王子は地図を使って座標を合わせ、転移させている」


「それってさっき机の上に置いてあった、分厚い地図の本を使ったってこと?」


 ヨドは手にしていた地図の本を開くと、ピンを指して説明を始めた。


「そうだ。

 まず、転移先と転移元にある同じ形のピンと地図を魔力で繋げて座標を把握する。

 そしてピンが示す座標に合わせて転移魔方陣を展開し、転移元と転移先の転移魔方陣を魔力で繋ぎ合わせて、それをそれぞれ入れ換える形で転移させる、という方法だ。

 緻密な魔力コントロールと豊富な魔力量なくしてはできない芸当だよ、ルクソニア嬢」


 ルクソニアは目をキラキラさせながら、ヨドに聞いた。


「じゃあその地図の本とピンがあれば、いつでもどこにでも転移が出来るってこと?

 エドガーはセーブした場所にしか転移させられないって言ってたけど、青の王子さまは違うのね!」


 ヨドは静かに頷く。


 それを見てジュドーは舌を巻いた。


「それが事実なら、凄い話だな……!

 転移魔法の概念を覆しかねない万能さだぜ? 

 うちの大将も化物じみた戦闘力を持っているが、青の王子も、さすが王族の血をひくだけのことはあるってことか……」


「ちなみに頑張れば、1度に100人くらい転移させることができる」


「100人! 凄いわね!」


 ジュドーが渋い顔をして言った。


「もしかしなくとも、獣人の国との戦いアースガルドの決戦で無血停戦出来たのは、このバカみたいな転移魔法をバンバン使って、敵の意欲を削いだからなんじゃあないのか?」


 ヨドはとても良い笑顔をジュドーに向けて言った。


「そこはご想像にお任せするぞ」


 ジュドーはヨドを指差して言った。


「絶対そうだ! 

 くそう、その手があったか! ずるいぞ!」


 悔しがるジュドーの足に手を置き、ルクソニアはどや顔で言った。


「戦争だけが終結の道ではないのよ?」


 ジュドーの目が一瞬、・になった。


 しかしすぐさま意識を取り戻し、

「言うなあ! ご令嬢!」と言って、ジュドーはルクソニアの頭をくしゃくしゃにして撫でまわした。


「もー! 髪型がくしゃくしゃになるわ!」


 それを見てジュドーは、わははと豪快に笑い飛ばす。


「それにしてもさっきは良いことを聞いたな」


 にんまりして言うジュドーに、ルクソニアが聞いた。


「良いこと?」


「エドガー殿の転移魔法の仕組みだよ。ゲートを使って転移させているなら、そのゲートを形成するまでにタイムラグが発生するはず。その隙を狙って攻撃すれば勝てるな、こりゃあ!」


 ルクソニアに衝撃が走る。


「ちっ、違うのよ!

 転移ゲートなんか、使ったりしないのよ!

 さっきも貴方、言ってたじゃない!

 転移魔法は転移ゲートなんか使わないって!」


 焦るルクソニアにジュドーはニヤリと笑ってこう言った。


「今さら遅いぜ、ご令嬢。

 これで明日は俺の勝ちで決まりだな!」


「ああああ! 違うのよ~!」


 半泣きになりながらもジュドーの足にしがみつくルクソニアに、ジュドーは勝ち誇った笑みを向ける。


 ジュドーの足にしがみついたまま、助けを求め視線をヨドに向けるルクソニア。


 ヨドは穏やかな笑みを浮かべて言った。


「これでいよいよ、どうなるかわからなくなってきたな、ルクソニア嬢」


「ヨドー……。エドガーが勝てる見込みはまだあるの?」


 ジュドーの足に寄りかかった状態で聞く、ルクソニア。


「それは明日のお楽しみだ、ルクソニア嬢」


 ルクソニアは天を仰いで叫んだ。


「ヨドの意地悪ー!」


 その後ルクソニアは、あの手この手でヨドに聞いてはみたものの、明日の勝敗についてのコメントは一切もらえず、解散となった。


 エドガーに勝ってほしいルクソニアは、部屋に戻り、ベッドの中で眠れぬ夜を過ごすのだった。

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