エピソード2-12 ヨドへ突撃し隊!

 ディナーが終わり、それぞれの部屋に戻ったルクソニアたち。


 部屋に戻るとルクソニアは、ベッドに大の字になって仰向けに寝転がり、天井をボーッと眺めていた。


「今日一日で沢山の事があったわね……」


 一人で森へ入ったこと、ヨドと出会ったこと、王立選のこと、各王子のこと、ワンちゃんに襲われたこと、エドガーとの口喧嘩からの仲直り、赤の王子の使者との問答、エドガーのクビをかけた賭け、ヨドの未来予知を証明する方法……本当に沢山の事があり、ルクソニアはひしひしと、自分が住む世界の変化を感じていた。


 ーー支持する王子によっては、生活はがらりと変わるーー


 ヨドの言葉を頭の中で反芻はんすうしながら、ルクソニアは目を閉じた。


 青の王子につくか、赤の王子につくか。


 それによって、大きく生活が様変わりするような気がする。


 しかしどちらにつくにせよ、ルクソニアがとるべき行動はひとつだ。


 魔力量が少なくても生きていけるように、まわりの大切な人を守れるように力をつけること。それ以外に今、ルクソニアがとれる最善の行動はないだろう。


 ルクソニアは静かに目を開いた。


「なんだか落ち着かないわね……」


 むくりとベッドから起き上がると、ルクソニアはピョンとベットから飛び降りた。


「やっぱりちょっと気になるわ!」


 握りこぶしを両手に作り、気合いをいれると、ルクソニアは言った。


「ヨドにこっそり、明日の試合の結果を聞きに行くわよ!」


 ルクソニアはこくりとうなずくと、その勢いのまま、ヨドのいる部屋を探しに向かうのだった。


 陽が落ち、窓の外が暗い中、月明かりを頼りに廊下を小走りするルクソニアの姿があった。


 目指す先はゲストルームがある区画。


 その中の部屋のどこかに、ヨドにあてがわれた部屋があるはずだ。


 アンやエドガーに見つかったら面倒だと思ったルクソニアは、周囲に気を張りながらゲストルームがある区画に向かい、なんとか見つからずに着くことができた。


「ふう、セーフね!」


 ルクソニアは安堵すると、ゆっくり周囲を見渡しながらヨドの部屋を探した。


 すると一番奥にある部屋とその手前の部屋の部屋のドアを照らすように、壁掛けのランタンに明かりが点っていた。


 このランタンは廊下を歩く際に、足元を照らす為のものだ。


 他のゲストルームのランタンには明かりが点ってないことから、この内のどちらかが、ヨドにあてがわれた部屋だと推測できる。


「どっちかしら……?」


 ルクソニアは少し悩んだあと、奥にある部屋をノックした。


 ドキドキしながら返事を待つが、何も応答がない。


 ルクソニアはこてんと首を傾けると、もう一度今度は、強めにドアをノックした。


 すると、ノックをしていない手前の部屋のドアが開いて、中からジュドーが顔を出した。


「何事かと思ったら、なんだ、ご令嬢か。ヨド殿に会いに来たのか?」


 ルクソニアは頷くと言った。


「明日の試合の結果を、こっそり聞こうと思って」


 ジュドーはアゴに手を当てて言った。


「それは話さねぇんじゃねぇのか、ディナーの時の徹底ぶりからして」


「話してくれないかもしれないけど、どうしても気になるのよ!」


 握りこぶしを作って熱く語るルクソニアを見て、ジュドーは少し考えたあと、部屋から出て廊下に立った。


「な……何?」


 たじろくルクソニアに、ジュドーが言った。


「俺もそれについては気になってた所だ。ちょうどいいから二人で押しきってみるのもいいかと思ってな」


 ニヤリと笑うジュドー。


 ニヤリと返す、ルクソニア。


「数で押しきる作戦ね、乗ったわ!」


 こうして奇妙な同盟が結ばれ、二人は握手した。


「数で押しきる作戦なのはいいとして、ヨドがさっきから応答してくれないのよ、ドアをノックしてるのに。

 こんなに堂々と居留守を使えるのは、未来が見えているからかしら」


 ぷんすこ怒るルクソニアに、ジュドーが冷静に返した。


「叩かれたドアのノックの位置でも、誰が叩いたかわかるからな。俺ら大人の場合、ご令嬢と違ってドアの下の方じゃなくて、上の部分をノックするから、相手が誰かすぐわかるぞ」


「じゃあ背伸びをしてドアを叩けばいいのね?」


 ルクソニアはドアにしがみつき、つま先立ちで背伸びをすると、震える手をできるだけ高くあげて、コンコンとドアをノックした。


 その瞬間、体勢を崩し、ドアノブを捻った状態でドアにぶつかる。


 ガチャリとドアが開き、地面に雪崩れ込むようにルクソニアは部屋の中に入ってしまった。


「いったーい!」


 おでこをさすりながらむくりと上半身を起こすルクソニアに、ジュドーが駆け寄った。


「ご令嬢、大丈夫か!?」


「これくらい平気よ、わたしもう5歳なんだもの!」


 ふんすと鼻息荒くどや顔をするルクソニアにジュドーははははと笑った。


 ルクソニアが赤くなったおでこをさすりながら立ち上がると、部屋の周囲を見渡した。


 明かりはついているが、ヨドの姿は見えない。


「こりゃあ居留守を使ったって訳でもなさそうだな。……風呂か?」


 ジュドーはズンズン一人で部屋の奥へと入り、部屋に併設されている風呂場を覗いた。


 しかしそこにヨドはいなかった。


 一方ルクソニアは部屋の中央に設置されているテーブルに向かった。


 テーブルの上には分厚い本が置かれていて、紙一杯に地図が書かれている。


 本は開きっぱなしになっており、丸い鈴飾りがついたピンが、地図のとある一点に突き刺さった状態で放置されている。


 ルクソニアは指でピンについている丸い鈴飾りを弾く。


 リンと鈴が鳴っただけだった。


 風呂場から出てきたジュドーは、今度は早足で風呂場から対角線上に置いてあるベッドに向かって歩き出した。


「ご令嬢、どうやらこの部屋にはいないみたいだぜ?」


 ベッドの布団をまくっていうジュドーに、ルクソニアが肩をすくめた。


「そうみたいね。どこに行ったのかしら」


 ジュドーは目を光らせて言った。


「ーートイレじゃねーか?」


「ヨドはおトイレになんかいかないわ!」


「そんなことないさ。ヨド殿だって人間。糞のひとつやふたつ、ぶりぶりするさ」


「しないのー!」


 ルクソニアは地団駄を踏んだ。


「じゃあ確認しにいこうぜ?

 ここから一番近いトイレに行って、ヨド殿がいるかどうか確かめよう」


「いいわよ、どうせいないから!」


「いたらどうする?

 ーー俺ともお友だちになってくれるか?」


「いたら……そうね。いいわよ。友達になってあげても。絶対にいないから!」


「その自信はどこから来るのやら」


「ヨドはトイレなんかいかないし、ましてや貴方と違って、ぶりぶりなんてしないもの!」


「へいへい。どうせ俺はぶりぶりするよ」


 言いながら二人は扉を開け、部屋を出ていった。

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