エピソード2-6 ギャタピーの香草焼き

 それぞれがスープをのみ終えたあと、魚料理が運ばれてきた。


「ギャタピーの香草焼きです。一番美味しい腹の部分の身を焼いて作ってるんでうまいっすよ。そのままナイフとフォークでお召し上がりください」


 エドガーが料理の説明をしている間に、それぞれの席に料理が置かれた。


 ヨドの顔が曇る。


 切り身が二枚、大きな形でドンとヨドの目の前に構えている。


「ヨドさんはお嬢様の命の恩人なんで、大盛りにしたっす。さあ、どうぞ」


 にやにやしながら、ヨドにギャタピーを勧めるエドガー。


「これもうまいな」


 もっもっと音をたてて、頬一杯にギャタピーを詰め込んで食べているジュドーを尻目に、ヨドはフォークとナイフを手に、固まっていた。


 ルクソニアもリーゼンベルクも、しれっとギャタピーを食べている。


「どうしたの、ヨド。お腹でもいたいの?


 ギャタピーは香草焼きで食べても、美味しいのよ?」


 ルクソニアが心配そうに、ヨドへと声をかける。


「んんっ、ルクソニア嬢、大丈夫だ。

 少しばかりあっけにとられたものの、大丈夫だ。食べられるだろう。」


 そう言ってヨドは少し強がったあと、ナイフで切り身の端を少しだけ切り取ると、口にいれた。


「ふわふわで弾力のある白身魚と香草の薫りがマッチした、食欲がそそる一品だ。確かにこれは旨いと言える。量が少しばかり多いが食べるのに支障はないだろう」


 ヨドの言葉を聞き、ルクソニアは嬉しそうに笑った。


「でしょう?

 ギャタピーはとっても美味しいのよ!」


「旨い旨い」


 ハムスターみたいに頬一杯にギャタピーを詰め込んで食べているジュドーが言う。どうやらギャタピーの味が気に入ったらしい。あっという間に皿に乗っていた大きめの切り身を、ペロリと平らげている。


 一方ヨドは、小さく切っては口にいれ、慎重にギャタピーを食べていた。


「ヨドさん。そんなびびんなくても、頭以外毒性はないっすよ。さっきも言いましたけど、魔獣を先祖がえりさせてるんで、安心して食べてくれて大丈夫っす」


 ルクソニアがキョトンとした顔で聞いた。


「先祖がえりってなに?」


 こてんと首を傾けるルクソニア。


「えーとですね。ギャタピーは元々、水辺にすむ毒性の強い魔獣オーリンを品種改良した結果、先祖帰りさせてしまった、限りなく魚に近い魔獣っす」


「マジかよ、これ、もとはオーリンだったのかよ!?」


 ジュドーが白目を向いているのを見て、ルクソニアが聞いた。


「元の魔獣になったオーリンって、そんなに驚く魔獣なの?」


「白くてうにょうにょしている、気持ち悪い動きの魔獣だ。表皮に猛毒があってぬるぬるしていて討伐がしにくい魔獣でもある。

 そうか……これ、オーリンなのか……」


 ジュドーのテンションが一気に下がる。


「そんなに気持ち悪い魔獣なの?」


「気持ち悪い動きの魔獣だ。とても食いたいとは思えねぇ、な」


 ジュドーが口に手を当て、真っ青な顔をして言う。


 それを見たルクソニアの手が止まった。


「なんだかそれを聞くと、私も食欲がなくなってきたわ」


 そばにあった水をこくこく飲むルクソニア。


「お嬢様、正確にはギャタピーはオーリンではないっすよ。

 遺伝子操作でオーリンの元となった、うなぎとハモを掛け合わせた魚に近い魔獣がギャタピーっす」


 ルクソニアは頭に?マークを浮かべて、目をぱちぱちさせながら聞いた。


「どういうこと?」


 それに続いてジュドーも聞いた。


「俺もよくわからないな、説明してほしいぞ、エドガー殿」


 エドガーは眼鏡を逆光で光らせながら、ふたりに説明を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る