エピソード2-4 エドガーとヨド
「エドガーはなんでそんなにヨドに厳しいの?」
「別に厳しくはないっすよ。ただ、ヨドさんにつくにはリスクが大きいから、それ相応の見返りを求めてるだけっす。
俺は公平っすよ、お嬢様」
ルクソニアはぷくっと頬を膨らませた。
「わたしは青の王子さまの方がいいと思うのよ。平和を目指す王子さまだから。どうしてパパもエドガーもわかってくれないの?」
プンスコ怒っているルクソニアに、ジュドーが言った。
「それもまゆつばな話だけどな。
アースガルドの決戦も、実は裏取引が行われていたんじゃないかっていう、黒い噂もあることだしな。何を吹き込まれたかは知らないが、ヨド殿に肩入れしすぎるのもどうかと思うぞ」
ルクソニアはますます頬を膨らませた。
「ヨドは嘘をつかないもの!」
「どうしてそんなことがわかる? ご令嬢」
「だってわたしの、はじめてのお友だちなのよ!」
「なら、俺もお友だちになれば信じてくれるのか?」
「あなたはお友だちにはしないわ。だってさっきから意地悪なんだもの!」
ヒートアップしてきた掛け合いに待ったをかけたのは、エドガーだった。
「お嬢様、そのへんにしとくっす」
「だって、エドガー!」
「俺らからしたら、ヨドさんもジュドーさんも、二人とも異物っす。どっちの異物がマシかを決めるだけの事なんで、そこに感情を乗っけては決めないっすよ」
ルクソニアは上目使いにエドガーを見た。
「エドガーは戦争することになってもいいの?」
「もう戦争になってるんすよ、お嬢様」
ルクソニアはしょぼくれて下を向く。
そしてポツリと呟いた。
「それでもわたしはヨドたちが目指している平和を信じたいわ」
「もしそれが本当なら、要検討するっすよ、お嬢様。なぁに悪いようにはしませんって!」
エドガーはルクソニアの頭をなで回した。
ルクソニアは頭に置かれた手を払い、後ろを振り向き、エドガーの方へ体を向けた。
「エドガー。ヨドから聞いたことが本当に本当なら、青の陣営についてくれるの?」
エドガーの瞳の奥を見つめるルクソニア。
「本当に本当なら、ちゃんと真面目に考えるっすよ」
それを聞いたルクソニアは、嬉しそうに笑った。そしてヨドの方へ向き直った。
「ヨド、良かったわね!
ちゃんと検討してくれるって!」
ルクソニアと目があったヨドは、優しく微笑んだ。
微笑みあう二人を見て、リーゼンベルクがポツリと言った。
「ずいぶんとまあ、なついてるナァ。
ーーヨドと言ったか。うちの娘に何をしたァ」
無言で見つめあうヨドとリーゼンベルク。
ヨドが口を開く前に、ルクソニアが不満そうに声をあげた。
「ヨドはわたしが森の中で、青いたてがみのワンちゃんに囲まれた時に助けてくれた命の恩人なのよ。
それに色々とこの世界のことも教えてくれたし、わたしと一緒に怒られてくれるって言ってくれた心優しいお友だちでもあるの。
だからパパ、エドガーみたいにいじめないでほしいわ」
「お友だちねェ……そう思ってるのはお前だけじゃねェのか、ルクソニア」
リーゼンベルクが値踏みするようにヨドを見た。
「わたしがそんなに信用ならないだろうか、リーゼンベルク殿」
「ガキを抱き込むたァ、ふてェ野郎だなぁと思っただけだよ」
ヨドとリーゼンベルクは静かに見つめあうなか、ルクソニアが頬を膨らませて言った。
「パパ、わたしたちちゃんとお友だちよ!
そうでしょう? ヨド」
ヨドは静かに微笑んだ。
それを見たエドガーがチクリと嫌みを言う。
「言葉にしないのは卑怯っすね」
それに同調するようにリーゼンベルクも続いた。
「確かになァ。本当に友人なら、そう言えばいいじゃあねェか。言えねぇ理由でもあるのかい?」
目を細め、ヨドを睨み付けるリーゼンベルク。
「そういうわけではない。
ただ、答えても答えなくとも、どちらでも同じリアクションが返ってくることがわかっていたからな。あえて言及しなかっただけだ」
エドガーがそれに異を唱えた。
「それがあんたの言う、少し先の見えてた未来っすか。正直、その能力もいまいちピンと来ないんで、証明してくれないっすか?
その能力が本物かどうか。」
まっすぐにヨドを見る、エドガー。
「どのように証明すればいい。
先に助言すれば未来が変わる。
明日の試合の結果も、今ここで話したら結果が変わってくるというのに、どのような方法で証明すればいいだろうか」
エドガーの眼鏡が光った。
「食事のあと、レターセットを持ってくるんで、皆が見ているなかで明日の勝負の結果の詳細をそこにしたためて封をしてほしいっす。その手紙を明日まで金庫に保管したのち、決着がついた時点で旦那様の手で開封し、中身を読み上げるっていうのでどうっすか。
それなら俺らには知らせずに未来を予言できるっすよ」
ウインクするエドガーに、ヨドは頷いた。
「わかった、その条件を飲もう。
ただし、それで予言が当たった場合、私の
くっくと笑いながらリーゼンベルクは言った。
「本当に試合内容を事細かに書くってんなら信用してやらぁ。エドガーもいいな?」
ちらりとエドガーに視線をやる、リーゼンベルク。
「未来が見える能力があるって事は認めてもいいっすよ。ただしそれ以降、全面的にヨドさんを信用するかって言うと別っすけど」
ヨドの眉毛がピクリと動いた。
「どういう意味だろうか」
「そのまんまの意味っすよ。
全面的に言いなりになってたら、ヨドさんの都合が良いように未来を誘導する可能性があるっすからねぇ。証明が難しい能力なだけに、こっちとしても慎重にいきたいんすよ」
ヨドは暫し考えたあと、口を開いた。
「いいだろう。
信頼とは積み上げていくもの。
一朝一夕になるものでもないからな」
ヨドの口元が弧を描く。
「ずいぶんと自信があるみてェだな。
こりゃあ明日が楽しみになってきたナァ。
エドガーよ」
エドガーがうんざりして言った。
「ぜんっぜん、楽しみじゃないっすけどね、俺は。胃が痛いっすよ」
胃の辺りをさするエドガーに、赤の王子の右腕・ジュドーが念を押してくる。
「明日の勝負で俺が勝てば、無条件で赤の陣営の傘下にくだるって言うのも、忘れないでくれよ、エドガー殿」
リーゼンベルクが、スープを一口飲んでから言った。
「なんなら念書でも書いておくかぁ? 俺はそれでも構わないぜェ」
リーゼンベルクの申し出に、目を煌めかせる、ジュドー。
「それは是非。食事のあとにでも!」
こうして明日の手はずが整った。
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