第15話 逃走ですよ!
「よっしゃあ! 何とか着いたぜ」
馬車の中でもよく寝れたし、
「もう、いやッス。もう、いやッス」
「すいません、ごめんなさい。本当にすいません」
「はぁ、なんでこうなったんだ」
パンジャンは、馬車の中でちじこまりひたすら謝っていた。
「どうしたんだよ、お前ら。こんなのいつもの事だぞ。そう気を落とすなよ」
「そりゃ、ルドラさんはいつもやってるかも知れませんけど。私はこんな経験ないんですよ」
「そうッスよ! 私だってわざとじゃないのに……」
「全くなれろよ、こんなの序の口だ。まあ、知らない奴を普通に殴れるようになることが、合格ラインだ」
「ルドラ。君はむしろ反省しろ。誰が君のために働きかけてあげると思っているんだ」
これが、人望ってやつか。ふっ! まあ、それはともかくとして普通ここまで、落ち込むものなかのか? 分からんな。
「じゃあ、俺は一人で行ってきてもいいか? 観光にさ」
「あんま一人にさせたくないが、いいぞ。私は私でやることがあるしな。この二人のメンタル改善もしなきゃな」
全く、これだからガラスメンタルは困るな。
「ちなみに泊まる場所は何処だ?」
「一応、紙を渡しておくか。ほら、これでいいんじゃないか?」
「ああ、あと金を少しだけくれないか? 知ってると思うが、無一文なんだ」
「はぁ……、仕方ないな。ほら、これくらいでいいか?」
金額二枚……。こいつ、こんな大金をよくポイッと出せるな。
「その変わり、これ以上の問題を絶対に犯すなよ!」
「分かってるよ。任せておけって」
「…………もし、問題を犯したらこれは貸しにするから」
「命に変えても、問題は犯しません」
これ以上借金を増やす訳には行かない。今ですら、払えるか微妙な量なのに……。
「じゃあ、夜な。ちゃんと戻ってくるんだぞ。朝帰りしてもいいが、明後日の会談には間に合えよ」
「分かってるって。そうしないと、金すら貰えないしな!」
タスラナに手を振り、俺はある場所に直行した。
「へっへっ、久しぶりだ! 最近は忙しくて行けなかったが」
そう、俺が最近行きたくてもお金が無くて行けなかった……。そして、いつもの街だと既に出禁になってるあの場所……。
「カジノだぁ!」
俺はカジノへと向かった。
***
「こいつ、何者だ」
「おいおい、嘘だろ」
「とんだ化け物が居たもんだ」
俺はカジノで、同じ店内に居たもの達にいながらルーレットにかける。
「黒に金貨全部だ」
「「「うおおおおおお!」」」
歓声が巻き起こり、結果は……。
「黒……です」
「いよっしゃあああああ!」
俺の金貨はみるみるうちに増えていき今では金貨30枚となっていた。
「おい、お前おごれよ。そんな大金持ってんならさ!」
「いやだね。これは、借金返済に使うんだよ!」
「にしても、なんでそんなに連勝出来るんだか」
俺に言われても分からない。昔から、こういう賭け事には強いのだ。多分、俺がそもそも博打みたいな生き方をしているせいだと思う。
「さて、ほかのゲームでもやりに行くぜ。おい、お前らに渡す金はねえ。チレチレ!」
「っち、なんだよ」
「ほら行こうぜ。こんなやつ、ほっとけ」
俺の言葉で、みな一斉に散っていく。全く、金目当てなんてなんてクズの集まりなんだか全く。
「まあ、金もあるし。少しくらいなら酒でも飲むか」
このカジノには、酒を飲むスペースがある。理由としては簡単で頭の回転を鈍らせて金を巻き上げるためだ。
カジノの一角に、場違いのようなひたすら静かなバーがそこにはあった。店員は、ほほ笑みながらコップを吹き、一人の女の接客をしているようだ。
気分転換だ、話しかけてみよう。
そう決め、女の隣の席へと座る。
「おい、マスター。弱いのをくれないか」
「そうですね……。スピリタスなんていう酒がありますがいかかがですか?」
「なんだそれ、聞いたことない酒だな」
「なんでも、飛ぶような感覚になるお酒ということで……。もちろん、怪しげな薬なんてものも入ってませんよ。安心してください」
全く安心できないが、まあいい。久々のカジノで俺も気分が上がっている。
「じゃあ、それを一杯くれ」
「わかりました、いっぱいですね?」
そう言い残し、マスターは店裏に行ってしまった。なんか、発音がおかしかった気もするが……。気のせいだよな? まあ、それは一旦おいておこう。このまま、追いかけるわけにはいかないしな。
「なあ、なんの酒を飲んでるんだ」
何気ない話を、隣の女に振ってみた。その言葉に反応し、うつむいていた顔をあげこちらを見る。
「いいだろお? あたいが、なにを飲んでもよ!」
ジョッキが、何本も机に置かれ今にも地面に落ちそうになっている。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「ナンパか? まあ、いいさ。あたいの美貌び惹きつけられたんだろ。仕方ないことさそれが生命の心理だもんな」
「すまん、俺はロリ体系に興味はないんだ」
俺は、どこぞのロリコンとホモを併発している変態じゃない。普通の奴が好みなんだ。何が悲しくて、ロリを好きにならなきゃならんのだ。
「なんだと……。てめえ、今あたいの体が貧相だって言いたいのか?」
ああ、これ。レンフィールドと同じタイプの奴だ。
「いや、そういうわけじゃなくてだな」
「言い訳すんじゃねえよ! あたいだってな……。あたいだって、わかってんだよおおおおおおおおおおお!」
見た目は子供、中身は大人のというどっかでありそうなフレーズな女が年甲斐もなく大泣きする。これに対して俺は、どういう反応をするのが正しんだろうか。
「まあ、話くらいなら聞いてやるぞ」
「そうか? おまえ、いいやつだな。名前、なんて言うんだ」
情緒不安定かこいつ……。まあ、酒のせいでもあるのか。えらいのに絡んでしまった気がする。一応、名前を教えておくか。
「俺は、ルドラだ。よろしく」
「ルドラか、いい名前だな。あたいはフレイって言うんだよろしくな」
「お、おう」
正直、よろしくしたくない。こいつからは、あの匂いがする。パンジャンやレンフィールドと同じ、危険な匂いがな……。
「それじゃあ、そろそろ俺は失礼すよ」
「まあ、待てよ。まだ酒すら来てないじゃないか。もう少し話そうぜ。てか、あたいの悩みを聞いてくれるんだろ?」
っち、下手なこと言わなきゃよかったぜ。
「それで、どんな悩みなんだ?」
「いやぁな、最近あたいらの所に依頼が来たんだ。ある者を探して連れてこいってな」
まさか……、俺の事か? 遂に犯罪が重なって!?
「特徴とかないのか?」
「んー、機密情報だからな。そうだ、酒を奢ってくれよそしたら教えてやる」
「じゃあ、今頼んだ酒をやるよ」
「そう? ならおしえてあげよう。一言で言えば絶世の美女……らしい」
「絶世の美女? そうか良かった……」
「よかった?」
「いや、こっちの話だ」
俺じゃなかったか、一安心だな。にしても絶世の美女を探すって言ったいどういう事だ?
「他に特徴はないのか?」
「一応、ロリって事は分かっている」
「ロリ……、つまりお前みたいな体型ということか」
「お前、初対面の相手に失礼過ぎるだろ。ぶち殺すぞ」
絶世の美少女のロリとか、見つけたらすぐにでも分かりそうだが……。
「それで、その依頼が来てどうしたんだ?」
「ああ、それでな。そいつがある場所に居ることが判明したんだ」
「はぁ、場所か」
曖昧だな、流石にその場所までは教えてくれないか……。
「あたいらもすぐには行けなかったからな、先に下僕を送っておいたんだ。だが……、あたいらが行った時には何者かに、殺されてたんだ」
「へー」
「もっと、感情を込めて悲しめよ!」
んな事言われても、たかが下僕だし。関わりもないしな。
「あたいは、あの子を殺したやつを絶対に許さない」
「そうか、頑張れよ」
「本当に他人言だな」
本当に他人事ですから。
「まあいいさ、それでお前の悩みも聞いてやろうか?」
「俺の悩みか? んー、そうだな」
あり過ぎて困るが、何を話すべきか。まあ、一番最近のやつでいいか。
「この間の事なんだがな。なんか、賞金首の吸血鬼が近くの森に来ててな」
「賞金首? なんだ、お前ってバウンティーーハンターか」
「いや、冒険者をクビになったものだ」
「つまり、無職か……。そんなやつ聞いたことないぞ。何をしたんだ? 魔王軍に情報でも売ってたか?」
そんな事したら、クビどころか死刑になるかもしれんだろ……。
「窃盗万引暴行etcだな。まあ、そんな事はいいよな」
「良くはないと思うが。えらいやつと、話しちゃったな、あたい」
それは、こっちのセリフなんだが。まあ、二度と関わらないからいいんだが。
「それでな、俺がペットみたいなやつと一緒に向かったんだ。だがな……、そこに居た賞金首は別に何もしてなかったんだよ。それに、変な獣に襲われてな」
「変な獣? どんなやつだ。面白そうだなそれ」
「ん? なんか、ふぇんりる? とかいう名前の獣なんだが。そいつがいきなり襲いかかってきたんだ」
ちょっかいを出した訳でもないし、あれは確実に俺たちを襲ってきた。まったく、面倒臭いものだ。これが、巻き込まれ体質って奴か。
ふぇんりるという言葉を聞いた瞬間、フレイの体がピクリと震えた。
「その話、詳しく聞いてもいいか?」
「ああ、いいが。どうしたいきなり」
「いや、少し気になることがあっただけだ」
まあいいか? でも一応、嘘を混ぜて話すとしよう。問題になりそうな種は他のやつに押し付けるに限る。
「それで、なんか襲いかかって来たからな。流石にこちらも抵抗しなきゃと思って交戦したんだが……。パンジャンってやつがな、私の名声をあげるためとかなんとか言って爆殺したんだ」
「なん……だと!?」
わーお、この感じ絶対ふぇんりるの関係者じゃねぇか。パンジャンの名前を出して正解だな。
「それでな、その時に使用した火が木に燃え移ったんだよ。だが、それを俺のせいにされてクビになったんだ。はぁ、関わったのが間違いだったのかな」
「そうか……、ちょっとあたいは用事が出来た。やっぱ、酒はいいや。まあ、そのうち本気で困ったらここに来い。情報をくれたお礼くらいはしてやるよ」
そう言い残して、去っていくフレイ。今までの酔いが嘘かのように。それだけ、この話に何かあったのかそれとも、もとから酔って無かったか。
「まあそんなことはどうでもいいか。被害に遭うのは俺じゃない、パンジャンだ。それで、どこに行けばいいんだ?」
貰った紙を見ると、そこに書いてあった場所は魔王軍。あの野郎、やっぱ只者じゃなかったか。
「はい、あれ? こちらの方はどこへ?」
ちょうど、そのタイミングでバーテンダーが裏から戻ってきた。なんか、ものすごくデカい樽を持って。
「それなんすか」
「え? いっぱい飲むんですよね?」
「えーっと?」
「そうですか、あの人からまだお金を貰ってないんですよね……」
じーっと、真顔で俺の事を見てくる。まあいい、今結構小金持ちだしいいか。
「払ってやるよ。いくらだ?」
「払ってくださいますか! 金貨24枚です」
「そうかそうか、えっと。今なんて言った?」
「金貨24枚です」
今の手持ちが金貨20……。
「ここって、ぼったくりバーか?」
「いいえ、このカジノ自体国と密接に関わっていますので……。この店はそんなことは出来ないんですよ」
「じゃあどうして、そんな値段なんだよ!」
「先程も言った通り、ここは国と密接な関係です。なので、それなりのお酒も優遇されるんでよね? それで、物凄いお高い酒を浴びるように飲んで……」
それで、金貨24枚……。
「おお、分かったよ。これでもくれてやるよ! 『フラッシュ・レフト 』」
瞬時に取りだした、ステッキに魔法陣を出現させて強い光を放つ魔法を発動させる。
「うぉぉぉ」
さて、逃げるとするか。
俺は全力で足を動かして、この場から逃げ去った。
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