第12話 そして早い再会ですか?
「それで、なんで君らが居るんだ」
「それはこっちのセリフだ」
三日間程、野宿の寒さに耐え抜きその手紙に書いてある場所へと来たのだが……。たどり着くと、そこにいたのは我らが勇者の末裔ことタスラナだった。
そんな、タスラナは俺らに対し不満そうな顔を向けている。対するこっちは、
「久しぶりッスね。タスラナさん」
「あのあと、どこに行ってたんですか?」
全く持って元気のようだ。まあ、確かに野宿といってもパンジャンは別に食料がなくても生きられるし、レンフィールドは不死で焦げてめんどくさいだけだもんな。そりゃ、ここまでげっそりするのは俺だけか。
「はぁ、私は裏組織に頼んだはずだが」
「お前こそ、なんで裏組織なんかを頼っているんだ。普通にギルドにでも頼れば簡単に人員を割いてくれるだろ」
確かに、バレちゃいけないとは言っても口の堅いやつらなんかも何人もいる。それなのに、何故わざわざ……。
「すぐにでも来れるやつでなおかつ強くて口も堅い、そしてギルド外のやつを入れたかったんだがな。まさか、君らが来るとはな」
「なんか文句でもあるのかよ?」
「文句しかない。君らじゃ足でまといだからな」
こいつ、会って早々ボロクソに言ってくれるじゃねぇか。これが、レンフィールドとかなら、殴ってもいいが。こいつの場合その前に、俺の腕を切り落としてくれるかもしれんし、絶対にやらないが。
「まあ、それは冗談として本当になんで君らが来たんだ」
「無職になったからな。とりあえず金稼ぎのために働きに来たって訳だ」
俺たちだって来たくて来て訳なんかじゃない。
「その最初の仕事ってわけか……。まあいいさ。その代わり邪魔はしないでくれよ?」
邪魔なんてするつもりは全くない。むしろ何もせずに、金を貰いたいしな。下手に、面倒なことを起こしたくない。
「で、お前の方はなんなんだよ? どうして、ギルドに頼まなかったんだよ」
しつこいようだが、これだけは聞いておきたい。それこそ、隣町で何をするのかも、もしものためにも聞いておきたい。
「今から行く場所を聞かされなかったのか?」
「隣の街だろ?」
「そうだな、隣の街ってのは間違いない。だが、そこで今から会う奴が問題だ」
「問題? お前がそんなこと言うなんて珍しいな」
問題があるなんて、口が裂けても言わなそうなのに……。
「まあ、なんせ。魔王軍の幹部だからな」
「魔王軍の幹部? なんでまた。別に魔王や魔族が嫌いな訳じゃないが。むしろ人間の方が嫌いだ」
騙し合いが当たり前の人間なんかよりも、信用出来る。まあ、魔王軍のヤツらが騙し合いをしないって訳では無いが……。
「別にそこまで聞いてない。ただ、そいつ今回の件での話し合いをな」
「今回の件?」
そういや、あいつもそんなこと言ってたな……。なんの話しなんだ?
「どっかの誰かさんが、森を燃やしたことについてだ」
「そんな、森を燃やすようなバカが居るって言うのか」
「ルドラさんは、2歩歩いたら忘れるのでしょうか」
「鶏よりも、忘れっぽそうッスよね」
なんて酷い言われようだ。こいつらにはやっぱり人の心がないんだな。
「まあ、その件の話だ。あの森は魔王軍も魔法陣を繋げて使っていたんだ。だが、お前らが馬鹿な事をするから問題になったって訳だ。それの交渉やらなんやらの為に私が派遣される。分かったか?」
つまり、レンフィールドとパンジャンのせいでこうなってるというわけか。
「お前も色々大変だな」
「事の張本人にだけは言われたくない」
まだ俺は認めていない。俺の魔法のせいでこうなったなんてな。認めなければ、負けじゃないし。真実にはならない。
「タスラナさん。どちらにせよなんで、ギルドに頼れないんですか?」
「ギルドの連中は魔王軍を好ましく思わないやつの方が多いからな」
「でも、それで裏の組織に頼る必要はないと思いますが。タスラナさん、強いでしょうに」
こいつらが言っていることは間違ってない。タスラナは、ギルドで三本の指に入る実力者でもあり、間違いなくこの町だと一番強い。それこそ、魔王軍なんかに後れを取るようなことなんてない。
「まあそうなんだが、もしもの時のためだ。相手は魔王軍の幹部。本気で戦ったら私一人でも勝てるかどうか分からない。そのもしもの時の為にすぐにでもギルド長に知らせる要因だったんだがな」
そう言って、鋭い目線を俺へと向けてくる。全くさっきから、なんなんだ。
「なんだよ、俺は特に何もしてないぞ」
「はぁ、もういい。じゃあさっさと行くぞ。君らの野宿とかの分はちゃんと私が用意しておいたからな」
「俺達が何も用意してないって。よく分かってるじゃないか」
「いや別に君らと言うか、これはただの条件の一つだぞ。人数分の物を用意するってな」
言われてみれば全部用意して来いって言われて行けるやつなんてほとんど居ない……のか? いやでも、裏の組織のいるような奴らなんてわざわざそんなものを買い足す余裕もないか……、偏見だが。
「それで、ここら辺にある馬車で行くのか?」
「まあ、そうだな。お忍びだから一般人と一緒だがな」
馬車移動なら、もしモンスターに襲われても大丈夫だな。これなら、この四日間よりもまともに寝れそうだ。
「なんでそんな顔が緩んでいるんだ、そういう油断が身を滅ぼすんだぞ」
「だがよ? 考えても見てくれよ。馬車でそんなモンスターが襲ってくるなんて事なんて一年に一度くらいの頻度だ。万が一にもありえないだろ」
その言葉に勢いよくパンジャンが食いついてきた。
「ルドラさん、どうしてそんなにフラグを立てるんッスか!」
「そうですよ、普通に乗ればよかったじゃないですか。どうしてそんな不安になることを言うんですか!」
いきなりそんなことを言われたって、ただ思ったことを言っただけだしな。
「大丈夫、私も付いてる。それに、馬車を守る護衛の冒険者も。それでもヤバくなったら最悪……、ルドラを囮にする」
「それなら、安全ですね」
「了解したッス」
「お前らには、仲間を思う気持ちがねぇのか」
「「ないです(ッス)」」
こいつら、後で寝てる時に鼻から水を入れてやる。
「そんなことはいいから、さっさと行くぞ二人とバカ」
「おい、俺じゃねぇよな! レンフィールドとパンジャンのどっちかだよな!」
「ほとんど初対面の相手に、私がそんなこと言うと思うか?」
「黙れ、堅物脳筋が」
「さて、ルドラ。腕か足を選べ、首でもいいぞ?」
「心の底からごめんなさい」
こいつは、下手な事でも怒らせちゃいけないタイプの人間だって事を忘れてたぜ。
土下座で許して貰えたのか、抜いた剣ををしまうと一人馬車の中へと乗り込んだ。
「ほら、君らも来い。さっさと行くぞ」
相変わらず、物事の切り替えが早いなと思いつつ俺達は馬車へと同様に乗り込むと数分も経たずに出発した。
***
「おお、馬車に乗るのは久しぶりだが。これ、めっちゃ凄いな。揺れが全くない」
「ルドラ、そんなにはしゃぐな。スピードを出さない場合は別にそんなに揺れないぞ」
てことは、前に乗った時は急いでたかそれともオンボロか……。
というか、もし本当に何かあった際に揺れでパンジャンが爆発したりしないだろうな。
「それで、ルドラはともかく。二人は馬車に乗るのは初めてなのか?」
「はい! なので、私は少しワクワクしています」
「レンフィールドはどうだ?」
「え、私はたまに乗ってたので特になんとも思ってなかったッスけど」
レンフィールドが乗ったことあっても、別に驚きはせんな。一応高貴な吸血鬼らしいしな。他国に行く際に使っていてもおかしくない。まあ、その後高貴ってのが本当だったら話だが。
「それで、そのツヴァイっていう魔王とはどんな関係があるッスか? 私の母国とも、同盟しているッスが。あんまり知らないッス」
「なんだ? まあ、おしえてるが。我が国が同盟しているのは、戦争大好きののヤバいやつだ」
「戦争が大好きッスか」
「そうだ、私らの国とも同盟しているツヴァイ軍は私達と戦争をしたくないからしているのだが、今回の事を大義名分にして戦争を仕掛けてくるような可能性だってある。だからこそ、今回の交渉は重要だ」
そうか……、そういうことか。なんとなく話が読めてきた。
「それで、俺たちは交渉の際に何をしていればいい?」
「まあ、そうだな。私の後ろでただ突っ立ていればいい」
「その程度か、なら簡単そうだな」
ただ本心を告げただけなのだが、タスラナやレンフィールド。パンジャンまでも俺にジト目を向けてきた。
「なんだ、俺は変なことでも言ったか?」
「別に変なことを言ってませんけど……」
「ルドラさんが、ちゃんと落ち着いている姿が想像できないッス」
レンフィールドの言葉に同調し、頭を立てに振る二人。
「はあ、いったい何を言ってるんだ。俺が、襲い掛かるわけないだろ」
「タスラナさん。ルドラさんは、交渉の際は縛っておいた方がいいかもしれないですよ」
「そうでな。前向きに検討しておこう」
「俺を、ロープくらいで縛れると思うなよ」
「それ、威張れることじゃないッスから」
ロープなら、小さな火を起こせば簡単に抜け出せる。部屋に閉じ込められても、壁を『レスコントロール・テンペスト』で破壊すればいい。
「ルドラさんって、ものすごく分かりやすいッスよね。顔に出やすいというか」
「んな事ないと思うが」
顔に出やすいなら、相手を騙すことだって出来るはずがない。つまり、パンジャンを騙せるわけもない。
「まあ、なんだ。ルドラは油断していると分かりやすいからな」
「どういう意味だ」
「簡単だ。確かにお前はギルド長の前や警戒している奴だと。自分の腹の中を探らせないようにするが。逆に心を許してるやつの前なら警戒を自然と解くからな」
「なんだ、まるで俺がお前らに心を許してるって言いたいようだな」
「その通りだが」
なるほど、確かにそれはある程度あってるかもしれん。
「ルドラさん。本当は私のことを……」
「ルドラさん、まさか私のこともちゃんと思っててくれたッスか」
「そうだな、俺はお前らの事を。ペットみたいに思ってるからな。ほら、ペットが裏切るとか考えないだろ? おいこらお前ら、無言で魔法陣を展開するな」
本当の事を言っただけなのに、何故そんなに怒ってるんだ全く。
「まあ、それも心を許してる特徴の一つなのかもな」
「あのな、俺をチョロインにするな。たった四日だけで心を許すはずないだろ」
「それもそうかもな。お前の性格的にも」
そんなたわいもない話をしつつ、俺はいつの間にか馬車の中で眠りについたのだった。
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