第5話 パンジャンドラムとは

「なんだこれ? それが兵器モードか?」

「はい、そうです。今更ですが、喋っている必要あるんですか?」

「え?」


 ふと、後ろを振り返ると何やら大きな魔法を打とうとして居る氷の獣の姿が……。


「え? ちょっ!」


 俺は 、抱えたレンフィールドを思いっきり空中に投げ捨てた。


「今のうちだ!」

「私が言うのもなんですが、やっぱりクズすぎませんか!?」


 人、いや吸血鬼の命よりも自分の命の方が大事だ。


「俺たちは吸血鬼なんて見ていない。いいな?」

「この人、言い切りやがりましたよ!」


 そんな事を喋っていると、グキっという鈍い音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。


「ほら、さっさと車輪を動かせ先に行くぞ!」

「あ、ちょっと!」


 走り始めると、パンジャンドラムもその車輪を回転させ始め、火花を散らしながらグングンと前へと進み、俺を追い抜かしていく。


「ちょっと、私を置いて行くなッス! てうわぁぁ! 氷が降ってくる!」


 レンフィールド、お前の事は忘れるまで忘れないでおこう。


「てっ、あれ? パンジャンはどこに行った?」


 俺を追い越して先に行ったはずなんだがな……。見失うほど早くはなかったと思うが、いったい?

 そんな事を考えていると、後ろの方からいきなり爆発音が聞こえてきた。


「まさか、フェンリルの魔法に魔法に巻き込まれたのか?」


 実は途中で既にやられていた可能性もある。 

 ちっ、仕方ねぇ。ここで貸しを作っとかなきゃいけねぇし……。

 走る足を止めフェンリルの元へ戻ると……、そこには横たわるパンジャンと、頭がねじ曲がったレンフィールドが居た。


「一体何があったんだ……」

「私はあんたがやッスよねぇ!? 何知らないふりをしてるんッスか」


 なんかクビが曲がったやつが言ってるが、俺はそんな事をしていない。きっと、投げた後にフェンリルが何かをしたのだろう……。というか、なんでその状態で喋れるんだこのロリ吸血鬼……。再生能力が高いとか、そういう問題じゃないだろ。

 まあ、それはともかくとして問題はパンジャンだ。先程見たフェンリルの魔法陣は青色だった。つまり、水系の魔法なのだがどう考えてもパンジャンが、爆発するとは思えない。氷で固まったりするのは分かるが……。


「おい、パンジャン。どうしたしっかりしろ! 一体何があったんだ」

「う、ルドラさんですか。ハハハ、しくじってしまいました」

「フェンリルはどんな魔法を使うんだ? 死ぬ前に教えろ!」


 お前の命と引き換えに、俺が生きるために! ついでに、情報を売りさばくからな。


「『俺が生き残る為に!』 とか、考えてそうですね。まあいいですけど、私は別にフェンリルには魔法を使われてません。私が自爆したんです」

「は?」


 え、自爆って? 一体こいつは何を言っているんだ。


「移動していたら、木につまずいて横転し、そのまま爆発してしまいました」

「は? 先に行ったと思ってたんだが」

「えっと、すぐに道がデコボコなせいで急に曲がってしまい、たまたま通れる道に制御不可能で移動していたら、いつの間にかここに来て……」


 制御不可能……? さっきと同じような、けがの仕方だがまさか。


「なあ、お前って……。さっきもこんな感じでやられたっていうか自爆したのか?」

「えっとですね、私はあの姿になる以外にも同じように出すことが出来るんですよ! ですから、それを大量に出して攻撃しようとしたんですが……。その全部が、木や石。はたまた、地面のくぼみなどで方向が変わり全部私の方に向かって来て……」


『ここで、一つ説明しよう。パンジャンドラム。それは第二次世界大戦に置いてイギリスによって作られた兵器である。ノルマンディー上陸作戦において栄光ある成果を遂げ…………なんてことはなく、完全な珍兵器である。見た目は車輪と車軸のみで構成された、とても大きなボビンのようなものである。ロケット推進によって車輪を回して進むのだが、まったくもって真っすぐ進むことはない。岩に乗り上げて倒れたり、自分の下に戻ってくるなんてのもざらだ。しかし、現在では日本において謎の人気があったりする。しかし、それをルドラは知るよしもないのだ……』


「なるほど、お前は使った側が逆にダメージを受ける珍兵器なんだな」

「な!? だれが、珍兵器ですか!! わ、私は優秀な兵器少女です!」 

 

 横に倒れながら言われても、全く説得力無いな……こいつ。というか、自分で優秀とか言うやつにまともなやつはいないと思う。個人的な主観だが……。

 にしても、俺のパーティはロリ吸血鬼と珍兵器だとか、ポンコツ過ぎないか? まともで、優秀なのは俺だけか……。もちろん俺は、事実のことを言っているだけで十分まともだ。


「さっきから思ってたッスけど、なんでそんなに戦闘中なのに堂々と喋ってるッス。もっと警戒したらどうなんッスか」

「お前こそ、どうやってそんな状態で喋ってるんだよ」


 もげた首がゆっくりゆっくりと、回復しているのだが、言葉では言い表せない程グロくなっている。子供が見たら泣き出すやつだぞこれ……。あまりみないようにしよう。


「さて、そろそろこいつを討伐しなきゃな」

「なんッスか、その変わりよう……。てか、その流れさっき見ましたよ」 


 さて何故、今まで氷の獣は追いかけられなかったんだ? 魔法を使えるということは知識がある……。だとしたら、馬鹿すぎて俺たちを追いかける脳がないって事はない。ということは、なにかを守っているとかか? 気になるな……。


「じゃあねぇ。次は本気でぶっ飛ばしてやる。5C魔道士の力を見せてやるよ」

「ルドラさん。もう一度言いますがその流れ、さっき見ましたッスよ」


 外野の言葉は無視し、俺は一点赤青緑黒黄全ての魔法陣を重ねて展開した。


「レンフィールド、お前は不死身で何度でも再生出来るよな?」

「えっと……、出来るッスけどそれがどうか?」

「いや、何でもない。まあ、死ぬ気で頑張れ」

「えっ、ちょ!」


 全ての魔法陣に魔力を注いで行く。少しずつそれらは光り始めバチバチと激しい音を立て始めた。


「くらえ、これが俺の最強の魔法! 『レスコントロール・テンペスト』」


 唱えたと同時にそれは黒い煙と轟音と共に、爆発を引き起こした。

 氷の獣は、展開していた魔法陣から氷の塊を飛ばしてくるが、爆発に巻き込まれ消えていく……。


「グオオオオオオオ」


 氷の獣は、爆発に巻き込まれ消滅する。それと同時に、爆発は収まっていく。

 近くにいたレンフィールドは、肉の残骸になってそこら中に散らばっていたのは、また別の話だ。


「ふっ、これが俺の最強魔法だ」

「ルドラさん……。なんで、そんな力を持っているんですか。5C魔道士は、無能って話はどこいったんですか」

「そんなのは、噂に過ぎないんだよ。ハッハッハ」


 まあ、この魔法を使うと丸一日は魔法を使えなくなったり、爆発範囲のコントロールが出来なかったり、色々と弱点があるのだがそれは黙っておこう。


「これは、どういう原理の魔法何ですか?」

「簡単だ、この魔法は俺が同時に魔法を五つ発動し普通なら制御しなければならないところを、わざと全く制御をせずに放って暴発させててるだけだ」


 一つの属性で魔法を暴発させる程度なら、殆ど威力が出ないが俺の場合五つの属性を使うことができる。それでも、普通なら巻き込まれるが俺はそこを特訓して制御することに成功したのだ。

 昔、その特訓をしていた際に知り合いから『そんなことをするくらいなら、一つ一つの属性を制御したほうがいい』とも言われたことがあるが、そんな言葉には一切従わず、自分の意思を突き通した。特訓しても、強い魔法を使えるようになるわけではない。確かに、ほとんど無限の命を持っている吸血鬼や魔王なんかだと極めることもできるかもしれないが、それができないなら少しでも魔法の威力の高いこの魔法を極めたほうがいいはずだ。


「それって、魔法と呼べるんですか……? ただ、魔法の発動に失敗している人ですよね」

「うるさい。これも特訓のたまものだ」


 誰が何と言おうがこれは魔法だ。


「全く……、なんで私の意見を聞いてくれないッスか」


 ようやく再生した体が、再び吹き飛ばされて顔だけ再生したレンフィールドが、話しかけてきた。


「うるせぇよ、あのフェンリルはよく分からなかったからな」

「とはいえ、これで私の評価も上がりますよね?」

「いや、上がらないだろ。氷の獣を吹き飛ばしたし、こいつがいた証拠がないだろ? まあ、こいつの巣に行ってみるっていう手もあるが……」


 巣に行けば、氷の獣の毛や襲った人間の服の破片もあるかもしれない。だが……、


「今のこの状態で行けるとは思えないんだよな……」

「そうですね……。私もボロボロですし、レンフィールドさんもバラバラですし」

「そう言うことだ。つまり、今俺たちがやるべきなのは」

「やるべきなのは……」

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