第6話 無職になった人
「おい、吸血鬼の討伐に向かったらフェンリルに会ったぞ! どういう事だ。説明しろ」
「えっと、そんな事を言われましても……」
困った顔で、首をかしげる受付嬢。全く、とぼけるのもいい加減にしてほしいものだ。
「俺たちは誤った情報のせいで、大怪我をしたんだぞ! 慰謝料を出せごらぁ!」
「ルドラさん! 目的見失ってますから! 落ち着いてください」
「そうッスよ。いいから、止まってくださいッス!」
暴れようとしたところをレンフィールドとパンジャンに、無理やり止められてしまう。
俺たちは、軽く手当をした後にギルドへと来ていた。もし、さらに奥にフェンリルの巣があったとしたら、俺たちだけでは行くことはできない。絶対ではないが、死ぬ危険を犯してまで行くようなところではない。それこそ、本格的にその証拠を探してもらうためにはギルドに頼るのが一番だ。そうすれば、俺たちが倒したということも信じてくれるはずだしな。
そのまま言っても、こいつらは動かないし信用もしない。まあ、そういう仕事だから仕方ないといえば仕方ないんだが。
「まあ、真面目な話。フェンリルに遭遇したんだ。」
何故レンフィールドを連れてきたのかというと、フェンリルが居たからこそ吸血鬼が犯人じゃないという事を表すためだ。下手に誤解を受けて、吸血鬼とフェンリルの両方が居るとなると、勇者の末裔であるタスラナだけではなく他にも強い冒険者が集まってからでないと探索すら行って貰えない可能性がある。
まあ、つべこべ言わずにさっさと行けとも思うが、ギルド相手にそんな事を言ったら、今度こそ追放されるかもしれないので言わないでおこう。
俺は横で腕を掴んでいるレンフィールドを振りほどき、前に突き出す。
「こいつが、言われていた吸血鬼だ。こんなロリが、人間を襲えると思うのか?」
「え!? キュッ吸血鬼連れてきたんですか!? こんな幼女が……」
「なんッスか。私の背でバカにするんすか? 眷属にするっすよ」
「ひぃ! なんで、吸血鬼を連れてきたんですか」
なんだ、こいつ。変なことで驚いてるな、他国から来たのか?
「何言ってんだ? この国は人を襲わなければ、魔族だろうが吸血鬼だろうが魔王だろうが、自由に入れる国だろ」
「え、そうなんですか? 知らなかったです……」
「まあ、それはいいんだ。もう一度言うが、ここに貼り付けられている、賞金がかけられている吸血鬼ってやつはこいつの事なんだ。いいか?」
「は、はぁ? そうですか、とりあえず上の者に確認してみます。ちょっと、待っててください」
受付嬢は、そう言い残して後ろのスタッフルームへと入って行った。ギルマスの部屋は上のはずだが……、ここに居るのだろうか。
「それで先に聞いておくッスけど、これが終わったら私帰れるッスよね」
「ソウデスネ」
「なんで片言になるんっすか! 私の目を見てちゃんと答えて欲しいっす!」
街の中に魔物が入ってもいい。それは間違いないが、入る際にある程度の審査がある。それを今回、放置してここまで来てしまったから、その分罰金を取られその後で審査されたりもするだろう。まあ、それが終わるまでは帰れないのだろう。
下手にタスラナが来る前に焦った結果だが、金を払うのはレンフィールドだし、別に俺は関係ないからいいんだがな。
「にしてもギルドに入隊する事は出来なくても、中に入る事は出来たんですね」
「そうだな、何故か今回は兵士達が何も言ってこなかったし。お前、どう入ろうとしたんだ」
「ギルドの中にですか? えっと確か……、中に入れないと爆発するぞって騒いでいたらなんか兵士さんたちに取り押さえられそうになりました」
だめだ、こいつ……。
「何でそんな事をしたんだ……。取り押さえられるってことくらい分かるだろ」
「いやあ、なんか中に入ろうとしても人が多すぎて中々入れなかったんですよ。なので、」
通りで裏はかなり人が少なくなっていたわけだ。きっと、そこら辺に居た人たちも扉越しに聞こえていたんだろう。だからこそ、下手に爆破した時のために離れておいたのだろう。
「はあ……。なんで俺はこんな奴と組んだんだろうな……」
「それは、こっちのセリフですよ。ちゃんと組んだからには、私の頼みも絶対に聞いてくださいよ! 途中で逃げ出したりしたら、一生追いかけて爆殺しますからね」
「っち、分かったよ……」
こいつなら、本当にやりかねないし。しぶしぶ返事をすることにした。いつか絶対に闇討ちしてやる……。
「あれ、それにしてもなんか騒がしくないか?」
「そういえばそうッスね……。さっきまで居た人達も慌てた様子で外に駆け出していきましたッスしね」
「何か外であるんじゃないですかね。ちょっと行ってみます?」
「そうだな、どうせギルド長もどうせ車で時間かかるだろうしな」
さっきの受付嬢も、裏でお偉いさんに確認しその後でギルド長に話を通しようやく来る。直接いけるならいいんだが、俺の場合は嫌われているため呼ばれたのは別として、中に入ることができない。前にちょっと暇だからと言って、ギルド長の机を漁っていたのを見つかってから嫌われ始めた気がするがまあそれは関係ないか。
俺たちが外へと出ると、そこには冒険者だけではなく他にも町の住人も外に出て全員がある方向を向いていた。
「なんだあの煙……。あれは森の方角だな。何が起きたっていうんだ」
「あああああああああ、私の家が!」
自分の語尾も忘れて、膝から崩れ落ちるレンフィールド。
「フェンリル以外に何か居たんでしょうか……」
「そんなもの居たら、本格的に俺たちの計画が無くなるぞ」
フェンリル一体でもあれだけ苦戦したのにそれ以上の存在が居たとしたら、それこそ勝ち目なんてない。
「まさかとは思うが……、お前の仲間でも来たんじゃないか? レンフィールド」
「え、私ッスか⁉ それはないと思いますよ。確かに私は高貴な生まれですし、普通なら助けにも来るでしょうが……。私の母国今戦争中でして、そんな余裕がないんですよ。むしろ、戦争でもなければ母国を抜けられてませんでしたし終わった瞬間に連れ戻されるかのうせいもあります」
「つまり、お前が弱くて戦争が危険だから他国へと放置されてるってことか」
「はい、そうですそうです。って、違うッスよ!」
まあ、確かに高貴な吸血鬼のくせに血が苦手だったり弱かったり、居ても足手まといだからな。俺でもわざわざ連れ戻したりしない。
「じゃないとすると、パンジャン。お前か?」
「ええ⁉ 違いますよ。なんで、そう思うんですか!」
「お前が出した。手のひらサイズの『パンジャンドラム』が今になって爆発したんじゃないか?」
「それは……、否定できませんが。でも、あんな煙が起きる程デカい『パンジャンドラム』なんて出してませんよ! というか、あんなデカい煙出せるような『パンジャンドラム』を出した時点で私の燃料は枯渇しますよ! 戦う前から戦闘不能になっちゃいますよ」
パンジャンでもないとなると、いったい誰があんなことできるんだ。いや、待てよ。まだ、居るじゃないか。レンフィールドを討伐するためにわざわざ戻ってきたあいつが……。
「まさか、タスラナが……?」
なんか言ったか?」
いきなり、後ろから気配と共に白々しく表れた今回の犯人。被告人のタスラナだ。
「出たな、被告人」
「誰が被告人だ。そんなこといきなり言うから、君の評価が下がるんだぞ」
「お? なんだ、今からお前に痴漢されたって騒いでもいいんだぞ?」
「そうしたら、私も同じように君に痴漢されたって言うからな。皆はどちらを信用するだろうな」
皆がどちらを信用するかだって? そんなもの決まっているだろう。こんな、都市や他国によく行って中々戻ってこない奴よりも、この街を愛して殆ど離れない俺に決まっている。
「確かに、ルドラさんが負けますね。私だったら絶対に、この人の味方しますよ」
「ルドラさん。信用も何もないッスからね」
「俺のどこが、信用ないっていうんだ。信用と正義の塊だろ?」
「その自信はどこから来るんッスか」
全くこいつらは何もわかってないな……。
そんな軽口を叩いていると、タスラナがクスッとほほ笑んだ。
「どうしたタスラナ。いきなり笑って……。気持ち悪いぞ」
「頭勝ち割るぞ? いや……、なんか君にも仲間ができたんだなと思ってな」
仲間? こいつは何を言っているんだ。
「勘違いするな。こいつは仲間じゃない。俺の商売道具だ」
「この人何を言ってるんでしょうね、レンフィールドさん」
「早めに闇討ちをしたほうがいいかもしれないッス」
「ふふ、やっぱり面白い。君らは、えっとレンフィールドさんとパンジャンさんでいいのかな?」
「はいそうです。ちなみに名前を聞いてもよろしいですか?」
「そうか、まだ名乗ってなかったな。私の名前はタスラナ、ギルドファイラのトップにして勇者の末裔だ」
「勇者の末裔? ってことは、私を殺しに来た人ッスか⁉」
そういえば、脅すためにそんなことを言った気もするな。いつだったかは忘れたが……。
「え? 君があの賞金首の? そうは全く見えないな……。ルドラ、本当か?」
「ああ、正真正銘あの賞金首だ。殺したのは、こいつじゃなくてフェンリルだったんだよ」
「フェンリル? あんな場所に出ないはずだ。知らないのか? フェンリルっていうのは氷がないと生きられない。確かに、水を凍らせて接種すれば少しは生き延びるが、それだと魔力が枯渇しどちらにせよ生きられない。つまり、あんな場所に住み着くはずもない。それに、近くにそんな氷がある場所もないし確実に野良ではないな」
フェンリルって、氷がないと生きられないのか……。だとすると、どうしてあんな場所に……。野良じゃないとすると、やはり誰かが放ったてことか。一体何のために……。
「あれ? おいレンフィールド。お前、フェンリルのことをぬしとか言ってなかったか?」
「えっと……、私だって最近来たばっかりッスから。二日後くらいに見つけて、これがぬしなんだと思っただけッスから」
たまたまレンフィールドとフェンリルが来たタイミングが被ったってことか? そんな偶然あり得るのか。
「で、あの煙はなんなんだ?」
「あれが何か分かってないから困ってるんだよ。あそこに、そのフェンリルが居た証拠があるっていうのに」
「……そういうことか」
なんでこいつは妙に納得しているんだ? 俺が嘘でもついてるというのか。ちょっと、問い詰めてみるか。
「おい、そういうことって――」
「こらああああああああああああああ!」
俺の言葉を遮り、怒鳴り声が響いてきた。その声の主はギルドから出てきたギルド長だ。
「なんっすか、ギルド長。そんな、怖い顔で」
「何って、お前! あれはお前がやったんだろ」
「は? どういうことだ」
「とぼけたって無駄だぞ! 職員の奴にも、今調査に行ってももらっている偵察部隊の冒険者にも話は聞いた。証拠は挙がっている」
「だから、なんのことっすか。訳が分からないっすよ」
「はあ? お前が、金をとるために吸血鬼じゃなくフェンリルが居たってことにしたって話だよ」
「嘘じゃねえよ、本当にフェンリルは居たし吸血鬼は人を殺してなかった! それに、こいつが例の吸血鬼だ」
「こいつが? 何言ってんだ。こんな弱そうなやつなわけないだろ。嘘もたいがいにしろよ。森も燃やしやがって!」
森を燃やす? そんなことしてないぞ。本当にこいつは何を言って……。
「証拠を探させないために燃やすなんて本気でギルドをやめたいようだな」
「だから一旦落ち着けって。そんなことしてないって言ってんだろ!」
「いいや、間違いなくお前の魔力を感じるとの報告があった。あれは、間違いなくお前の魔法だ。五つの魔力が入り乱れてるなんてお前しかいないからな」
「ああ? いくら俺がのぞきや暴行や窃盗とか。軽い犯罪はやるにしても、あんなオオがかかりなガチの犯罪をやると思うか!」
「どさくさに紛れてに言ってるんですか、初耳なんですけど⁉」
だが、本当に俺はそんなことをしていない。何が起こっているんだ。
「あれじゃないッスか? ルドラさんの魔法が爆発したときに近くの木に引火しちゃったんじゃないですか」
………………………え?
「…………ソンナハケナイジャデスカ」
「ルドラさん。自首しましょう」
暴れようとしたところを、パンジャンとレンフィールドに取り押さえられる。
「やめろ! これは事故だ。おい、タスラナ。助けろよ――ってあいつどこ行った」
「もういい! 貴様は今日限りでギルド追放だ。二度と私の前に顔を見せるな」
「無実だああああああああああああああああああああああ!」
こうして、俺は無職になったのだった……。
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