第7話 金ない、職ない、家もない

「これからどうするんだよぉ! 貯金なんて、ほとんどないのに無職だぞ」

「私だって、住処が燃えてなくなったッスよ!」

「私もルドラさんのせいで評価が下がったじゃないですか! どうしてくれるんですかぁ!」

「はぁ? ふざけんなよ! 俺だって、こうなるとは思ってし、クビになったんだぞ! お前らがもっと強ければ、こうならなかったんじゃないのかよ! それに、レンフィールドの魔法の可能性ないのかよ」

「私のせいにするんッスか! いいですよ、ここに居られなくなっても、あなただけは殺すッスよ!」

 

 いがみ合っているものの、これで何か変わる訳でもないか……。


「よそう、これ以上やっても無意味だ。それよりも、これからどうするかを考えていこう」

 

 食もない、職もない、貯金もない。下手すれば、このまま野垂れ死にの可能性もある。とりあえずは、どうやって今夜を過ごすかを考えなきゃいけないからな。


「でも、なんで捕まらなかったんですか?」

「俺を誰だと思っている? 何度も軽犯罪を犯し続けたのに、一度も牢屋に入らなかったルドラさんだぞ。色々とコネがあるんだよ」

「ルドラさん。本当に、あなたは何者なんですか」

「なんだろうな。まあ、コネとはいっても捕まらないだけで賠償金は払わなければいけないんだがな」


 コネで全部なかったことにできればいいんだが、今回は特に大犯罪過ぎてそれはできないのだ。


「それで、お前らはどれくらい金あるんだ?」

「そうッスね……。私の財産全て燃えてしまったッス」

「そうですよね、私も自分の名誉を上げるため以外にも、お金を稼ぐためにギルドに入りたかったですし」

「お前ら……」


 使えねぇなこいつら……。今更だが、関わらない方が良かったかもしれん。


「しゃあない、とりあえず金は俺の貯金今日の分は払ってやるから。絶対に二倍にして返せよ?」

「ルドラさんって、お金あるんですか?」

「こう見えても、俺は色々なクエストをこなしたいたおかげで、少しだけ貯まっている」


 色々クエストをこなしたお金は、ギャンブルやらなんやらとほとんど使い切ってしまった。勝手に手が動いてしまったのだら仕方がない。


「あれ? でも、ルドラって今回の森を燃やした件で、賠償されるんッスよね? てことはルドラさんの部屋のものとか、差し押さえされるんじゃなッスか」


 あれ、言われてみれば……。急に、体から血の気が引いてくのがわかる。


「行くぞお前ら! 俺の家へ」


 そう言い放ち、急いで足を動かした。



***



「ふざけんな! 頼む、頼むから辞めてくれぇ!」


 俺の家……、と言うよりもギルドの寮の俺の一室に様々な人が入っていく。


「やめろ、それを持ってかないでくれぇ!」


 俺は必死にその人らにしがみついて止めようと試みるも、その程度でやめてくれるはずもなくドンドン中の物が無くなっていく。


「ルドラさん、みっともないのでやめませんか?」

「そうッスよ、私達と一緒に野宿すればいいじゃないっすか」

「お前ら、俺がこうなって喜んでるだろ」

「「全然」」


 こいつら、目が笑っていやがる。心なしか笑っているようにも見えるし……。


「どうして俺がこんな目に合わなきゃ行けないんだ!」

「悪いことする人って、一周回って戻ってくるという話は本当だったんですね」

「私を裏切って二人で逃げようとしたのが、回って来たッスね」


 くそう、言い返せないのが悔しい。だが、最後はちゃんと助けたじゃないか。全く、何処が裏切りだっていうんだ。


「さて、とりあえず考えよう。これからどうやって過ごしていくか。いや、まずは昨日寝る手段か」

「そうっすね、 野宿は確定ですよね? 私は、火の魔法を使えるっすから、凍え死ぬってことは無いっすね」

「はい、私も『パンジャンドラム』を爆発させて火を起こせますよ!」

「お前は黙ってろ」

「酷くないですか!?」


 パンジャンドラムが爆発した、火を燃やすための木を消し飛ばすじゃないか。こいつ、やっぱりポンコツだよな。


「とはいえ、野宿するには街を出てそこらの野原でやるしかない訳だが。モンスターとか襲ってくるかが心配だな」

「なるほど、それを身を呈してルドラさんが守ってくれると」

「流石、ルドラさんッスね。私達の事をしっかりと考えてるんですねぇ」


 ニヤニヤとした目つきで、こちらを見てくる二人。ぶん殴っていいいかな?


「俺が、そんな事する訳ないだろうが。お前らどっちがやれよ! お前らのせいで、俺も寝る場所が無くなったんだからな」

「いやッスよ! わたしのほうこそルドラさんの魔法のせいで、家を失ったんッスから! ここは、パンジャンにやらせるべきッスよ!」

「任せてください、私が周りの敵からしっかりと守りますから」


 誇らしげに胸を叩く、パンジャン。やってくれるなら、うれしいのだが。民間人をモンスターと間違えて、爆発させたりしないだろうな……。

 もしくは、転けて誤爆とか。それで起こされたらたまったんもじゃないぞ。いや、下手をすると殺される可能性もある。

 

「なあ、レンフィールド。俺はまだ死にたくないんだ。頼むから、お前がやってくれよ」

「頭の中で何を考えたんっッスか」

「なんで、死ぬのか教えてくれますか? ルドラさん」


 そういう事は、顔だけでなく目も笑わせてから言って欲しいものだ。


「分かった、仕方ないな。レンフィールド、ここは交代交代で行こう。お前も死にたくないだろ?」

「分かりましたッスよ、その代わり私が先に起きるッスからね」

「えーっと、私は?」

「「ぐっすり寝てください」」


 口をとがらせ、空を蹴るパンジャン。下手に一人だけ起こしておく方が、身の危険を感じる。頼むから寝ててくれないかな。


「ふと思ったんすけど、ルドラさんの装備とかは差し押さえされなかったんすね」


 確かに、言われてみればなんで俺の装備は差し押さえされなかったんだ? もし、俺が取り立てなら確実に装備なども全て剥ぎ取っている。……いや、違うか。


「つまりこういうことだろ? クエストをこなしてお金を稼げってことだろ? それで残りの借金を返せてって事か」

「でも、クエスト受けられないじゃないですか。ギルドに入れさせてすらくれないんじゃないですか?」

「確かに、言われてみたらその通りだ。だとしたらなぜだ……」


 首をかしげていると、パンジャンがいきなりポンっと手を叩く。


「分かりました。つまり、ルドラさんが使った物は価値がなくなるってことですね!」

「よし、歯を食いしばれ」


 反射的に拳を打ち込もうとしたところを、レンフィールドに羽交いに絞めされた。


「レンフィールドさん、やめてくださいっす! パンジャンは転んだので爆発くらいッスから、殴っても爆発するっすよ!」

「ちっふざけんなよ、畜生! 分かったよ、やめるから離せ」

「これにこりたら、私の事を殴ろうとしないでくださいね!」


 なんだろう、すぐに再び殴りたくなったんだが。もう爆発覚悟で、殴っちゃうおうかな。


「さてと、あとは今日の食料をどうするべきか」

「最悪、私は血液でも足りるっすけど……。絶対に飲みたくないっすね」

「お前、本当に吸血鬼辞めてるよな……。日光といい……」

「え、日光っすか?」


 そう呟くと、空に輝く太陽を見るレンフィールド。すると、突然身体が発火し始めた。


「太陽ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「は? どうなってんだよお前!?」

「まさか、今まで気づいてなかったんじゃないですか? 森に日光を塞がれ、その環境が当たり前だったので」

「気づいてなかったら身体が燃えないって……。体の構造どうなってるんだよ」

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


 火が全身に燃え広がり、悶え苦しむレンフィールド。普通は焦らないと行けない場面なんだろうが、今の話のせいでこのままほっといてもいいんじゃないかと考えてしまっている。

 とはいえ、下手にほっておいてこの火が他に移ったら巻き添えくらって、借金増えるかもしれないし……。

 

「しゃあないな……」


 どうにかレンフィールドの体を蹴り、家の影へと入れる。

 火が更に増える事は無くなったが、消化された訳では無い。青の魔法陣を出現させ、そこから少量ではあるが、水を出現させる。


「ほら、さっさと起きろ馬鹿」

「もう少し一気に水を出してくれないッスかね」


 この野郎。もう一度、炎天下の中に放り込んでやろうかな。


「ふぅ……」


 少しずつ、水を掛けたおかげで消火出来た。こういう時に、全属性の魔法が使えてよかったと思う。


「ありがとうッス、ルドラさん」

「それで、なんでお前は燃え始めたんだ? パンジャンドラムの言うように、本当に忘れてたのか」

「そうっスね、久しぶりに外に出て私が太陽の光を浴びると燃えるってこと忘れてました」

「そういう問題か? 忘れてたら、燃えないのか?」

「体質かなんかですかね?」


 体質で、自分の弱点を克服出来るなら簡単すぎやしないか。それなら、今度ニンニクたっぷり入れた物を食わせてみてみよう。


「その現象を止めるためにも、傘を買いますか?」

「傘ってあれか……、あの貴族とかが日の下で意味もなく使ってる持ってるあれか?」

「はい、そうです。あれなら太陽の光も遮れますし」

「へー、そんなのがあるんッスか? 人間は、面白いものを作るッスね。別に私らみたいに、弱点とかじゃないッスのに」


 確かに、言われてみれば雨が降る際に、自身が濡れない為に使うのは理解出来るが、通常の時も使うのはどんな意味があるのだろうか。金持ちのやる事は、分からん。


「ルドラさんって、貴族にあったことでもあるんですか?」

「ああ、一応な。そりゃ誰でも見たことくらいあるだろ」

「へえ、そうなんですか。ルドラさんが貴族を見ている姿が想像できませんよ」

「俺をなんだと思ってるんだ」

「確かに、ルドラさんと貴族って真逆の存在ッスからね」


 本当に俺がどう思はれているのか、頭の中を開いて見てみたいものだ。


「さて、夜になる前にさっさと木を集めていくとするか。それこそ、暗くなったら魔力が枯渇したら一人起きてる意味もなくなるしな。とっさのことに反応できなくなる」

「分かりました。でも、木なんてどこにあるんですか」

「森にあるだろ? 確かに燃えているとしても、どこかしらに燃えてない木があるはずだ」


 あれだけ大きな森。こんな短時間に全部燃えるとは考えにくい。


「でも、放火の犯人を入れてくれませんか?」

「まあ、大丈夫だろ。何とかなるって!」

「行き当たりばったりですか……」

「まあ、パンジャン。最悪私たちはルドラさんを置いて逃げればいいッスよ」

「そうですね」


 こいつらの思い通りになると思うなよ。そうなったら、逆に利用してやる。

 そんなこんなで、俺たちは森へと向かったのだが……。


 

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