第8話 野宿ですよ!

「はぁ、森を燃やしたせいでこんなに木を集めるのが大変だったとは」


 ギルド職員達が、立ち入り禁止かつ消火活動をしており近づけなかったため、俺たちは仕方なくそこら辺に落ちている小枝を集めて火を付けた。

 しかも、見たところ火は森一面に広まっており、かなりの人数が動員されていた。まあ、今もまだ燃えているが森とは少し離れた場所で野宿するためその火を頼れないのだ。森の近くだと、他のフェンリルが出てくる可能性もあるしな。

 

「これからどうしようか、金を稼ぐ手段は最悪俺の知り合いを頼ればいいが。正直会いたくない。ひとまずはバイトを探すしかないと思うが」

「私、雇ってくれる場所あるッスかね?」

「吸血鬼だからな、日光の事もあるし隠しきれるとは思えない。それに、一切外に出ずに働ける仕事なんてのもな。お前が働けるとは思えないし」


 吸血鬼が街の中に入ることは出来るのだが、それはそれとして店で働けるかと言われればそれは微妙だ。

 逆に、吸血鬼がやっている店に来たいかと言われれば、快く来れる奴は居ないだろう。だからこそ、店の会計やウェイターなんてのは出来ない。


「レンフィールドさんは、待っててもらってもいいんじゃないですか? 私たちが働いて」

「それも却下だ。お前が働いたら何をしでかすか分からん」


 料理を運んでいる途中に転んで爆発するような気がするしな……。そうなれば、更に借金は増えるし生活が苦しくなる。

 むしろ、パンジャンが一人で残っていて欲しいくらいだ。


「結局のところ、俺一人で働くしかないんだな」

「すいませんッスね。一応明日、私も探してみるっすけど」

「わ、私も。爆発しても大丈夫な職場を……」

「ねえよ、んなもん」


 はっきりと告げてやると、パンジャンは顔をうつ向かせしょんぼりとする。

 いや、だってな。鉱山とかで、道を切り開くと気ならまだしも普通の暮らしで爆発させなければならない場面はない。まあ、うざい奴がいるなら別だがな。暗殺とかか?


「とはいえ、この三人分の食料を稼げるか?」


 まあ、稼いだお金はほとんど自分で使う予定だがな。こいつら適当にパンの耳とかを貰ってこればいい。


「私は、水さえもらえれば紅茶を作り出せますし。それで、大丈夫ですよ」

「そういや、パンジャンって兵器少女でしたッスね。色々とポンコツ過ぎて忘れてたッス」

「酷くないですか!? 私は、魔王でさえも震えて逃げ出す兵器少女ですよ! そもそも、この扱いがおかしいんですよ」

「お前がもし、本当に噂通りの兵器少女ならこんな扱いにはならねえよ。てか、そもそも野宿になってない」


 俺が魔法を使う事も無かったし、森が燃えることもなかった。つまり、一連の出来事はパンジャンが悪い。


「なぁ、無性ににパンジャンを殴りたくなってきたんだが。いいか?」

「なんでですか!? 理不尽ですよ!」

「理不尽ね……。そもそもこの世界は、理不尽に溢れてるだろ? 何をしてなくても怒られたり、俺みたいに良い行いばかりしてきたのに、何故かギルドを辞めさせられたり」

「いや、ギルドを辞めさせられたのはルドラさんが、悪いんじゃないッスか」


 なんか、レンフィールドが言っているが無視しておこう。


「ともかく、そんな理不尽が溢れている世の中だ。だからこそ、一々そんなのについて文句言っていたら、何事も始まらないぞ」

「あれ、ギルド長に文句言ったとか言ってませんでした?」

「つまり、そんな事で文句言わずに! 身体でもいいから稼いでこい珍兵器が!」

「はぁ!? 私が一番気にしてる事を言いましたね! 珍兵器を訂正してください!」

「ふっ」

「鼻で笑いましたね! いいですよ、やってやろうじゃないですか。その喧嘩買いますよ」


 お互いに、メンチを切り合い俺はステッキと短剣を取り出し、魔法陣を展開しパンジャンはその手に『パンジャンドラム』を出現させる。


「二人共、よくこんな状況で元気で居られるッスね。ただの体力の無駄遣いですし、やめてくださいッス」

「そうだな、こいつが謝ってくれたらな」

「そうですね、ルドラさんが謝ってくれたらですね」


 再びお互い向き合い、メンチを切る。


「もう好きにしたらどうッスか。私寝てもいいっすか? お腹も空きましたし、動きたくないんッスけど」


 レンフィールドはそう言い残して、土の上で横になる。何故すんなり、土の上で寝れるのだろうか。まあ森で住んでたらしいし、今更か。


「まあ、俺達も辞めるか」

「そうですね、レンフィールドさんが言うように不毛な争いですし」


 何やってんだろうな、俺たち。お腹がすき過ぎて、イラついてるのかな。


「さて、お前も早く寝ておけよ。明日も早いからな」

「そうですね。それじゃあお言葉に甘えて……」


 そう言い残し、横になったパンジャン。その目を瞑る顔を見て……、


「黙ってれば、かわいいんだけどな」

「厶、何か変なことを言いました?」

「さっさと寝ろ珍兵器」

「な!? 酷くないですか!」


 ほら、やっぱ喋らない方が絶対にいいと思うんだが……。


「ほら、さっさと寝ろ。お前は一日中寝れるんだから。なんで起きようとする」

「お風呂入りたいなと思っただけですよ」

「なんだ、そんな綺麗にしたいアピールしても、可愛くないぞ」

「別にそういうつもりじゃないですよ!」


 というか、パンジャンが風呂に入って大丈夫なのか? 熱湯のせいで爆発するとかないよな……。てか、こいつの裸ってどうなっているんだろうか。体中に歯車みたいになってるのかな、


「なあ、パンジャン。お前の体ってどうなってるんだ? 脱いでみてくれないか」

「え? いきなり何言ってるんですか!? 爆殺しますよ!?」


 顔を赤らめ、手に再び『パンジャンドラム』を出現させる。


「冗談だ。てか、俺は別にお前の体にエロ目的で興味がある訳じゃない。ただ単純に、見てみたいだけなんだ」

「それって、どういうことですか! てか、エロ目的じゃない言ってどういうことですか! 私、そんなに魅力がないですか!?」

「俺にも選ぶ権利くらいある」

「あんた、本当に失礼ですね!」


 どうすれば、今爆発魔の事を好きになれるんだか。俺はただ、兵器少女とやらの体がどうなってるか見たかっただけで、全くもってエロい気持ちはない。自意識過剰なんじゃないか、こいつ……。


「なんですか、その目。まだ、私の体を見たいんですか」

「黙れ自意識過剰、早く寝ろ」

「ルドラさんが話しかけて来たんですよね!? さすがに怒りますよ!」


 はぁ、めんどくさいな。まあいい、ほっとけばそのうち寝るだろ。

 

「にしてもこれからどうする」


 どちらにせよ、俺がこいつらの為に働くなんて虫唾が走る。それなら俺は、やっぱりこいつらを馬車馬のように働かせるしか他ならない。

 だからこそ、やはり知り合いを頼るしかないわけだ。


「仕方ないか」


 俺は夜空を遠目に見ながら、火の音ともに辺りの見張りをするのだった……。

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