第9話 一番の変人に会いに行きます!
「…………ん?」
目を覚ますと、透き通った青空が広がり太陽の日差しが降り注いでいた。起き上がって、あたりの様子を見る。身体がコンガリと燃えているところを見ると、ちゃんとレンフィールドは起きていたようだ。
もし寝てたら、太陽に気づかずに燃えないからな。
「レンフィールドといい、パンジャンといい……。身体はどうなってんだか」
「何か言いました?」
いつの間にか起きていたパンジャンが、至近距離でそんな事を言ってきた。
「だから、顔を近づけんな。吐き気を催すだろ」
「なんで、朝から罵倒されなきゃいけないんですか!? 私、顔には少し自信があったんですが」
「お前の顔は控えめに言って……。いや、やめておこう。これ以上、お前を傷つけるのも可哀想だしな」
「この二日間で、私どれだけボロクソに言われるんですか……」
本当の事を言っているし、俺は全く悪くない。それに、パンジャンがもっと有用ならこんな事にはならなかった。
「というか、昨日は私のことを喋らなければかわいいとか言ってましたよね! 言ってることが変わってるじゃないですか」
「さて、それじゃあしっかり眠気も覚めたし、さっさと行くとするか」
「今、逃げましたね」
逃げてなんかない。全く、これっぽっちも。
「それで行くって何処ですか?」
「お前……、昨日の今日でどうしてそんな反応になるんだ。バイトをするって話しただろ? で、一応お前らが働けそうな場所を探すんだよ」
「昨日、無理だって言っていたじゃないですか」
「だからこその、裏バイトだ。俺の友人……知り合いに、奴隷商人が居てだな。そいつにちょっとした仕事を紹介してもらうんだ」
「奴隷商人ですか? ま、まさか。私を売るつもりですか!?」
「レンフィールドはともかく、お前は売れないから安心しろ。そいつは、世界でも一、二を争う奴隷商人の家系でな。この辺でも、様々なコネがある。だから、裏へのコネを借りてお前らみたいなやつでも、働ける場所があると思ってな」
まあ、あいつなら働けなくても無理に働けるように職場に圧力をかけるが……、めんどくさい事になりそうだし言わないでおこう。
「でも、それなら昨日のうちに言ってくれたら良かったんじゃないですか?」
「いや……、俺はそいつの事を苦手なんだ。ちょっと、いやだいぶ変わっていてな」
「えっ、ルドラさんがそれを言うんですか?」
「あっ? まあいい、それで関わりたくなかったんだが……。まあ、どうせ世話になるのはパンジャンとレンフィールドだしまあいいかと思ってな」
もし、自分の用事だったと思うとゾッとする……。
「にしても、ルドラさんにそれを言われるとは……」
「お前は、俺に対して失礼過ぎないか? これでも俺は、お前を助けに来た恩人みたいなもんだぞ」
「そうですね。恩人は普通は助ける相手のことを置いて行こうとしたりしませんけどね」
そんなことしてない。俺は精神誠意をもって、こいつを助けようと全力を尽くした。ましてや、こいつを置いて行き自分は一人で逃げようとなんてしていない。
「それで、その人の場所に行くのはいいんですが。それって、何処なんですか?」
「何処かって、街のド真ん中にあるデカい屋敷だよ。まあ、最近ここに来たお前が知らないのも無理ないか」
この街に住んでいる者なら、誰が住んでいるかが分からなくともその屋敷を知らない者はいない。それほど目立ち、なおかつ有名な屋敷なのだ。
「そんな場所があるんですか。でも、奴隷商人の屋敷が街のど真ん中にあるってどうなんですか……。景観的にも、治安的にも」
「まあ、その点は大丈夫だ。ここは、屋敷があるだけで本部は別の場所にある。それに、あいつは別になりたくてなったわけじゃないらしい。親が、そのトップでならざるおえなかったってだけだ。そもそも、あそこが奴隷商人の屋敷だってことは普通の奴らは知らないからな」
ギルド長ですら知らないくらいだからな。それこそ、知っていたら街の人たちが黙ってないだろう。
「さてと」
俺は焦げたレンフィールドに歩み寄り、担ぎ上げる。
「う…………、っしょっと」
昨日もそうだが、幼女にくせになんでこんなに重いんだか。長時間やったら、肩こりそうだ。あとで、ダイエットしろとでも言っておこう。
「よし、それじゃあ行くぞ。頼むから、行く途中で転んだりして爆発しないでくれよ」
「ど、努力はします……。それよりも、ルドラさんこそチンピラに絡まれて問題を起こさないでくださいね」
「大丈夫だ、俺は今まで一度しかチンピラに絡まれたことがない。俺はそのチンピラを見つけた瞬間に殴りかかってたからな、自分が攻撃される前に。それから、全く持って絡まれなくなった。だが、それだけでは心配だからな、たまに今でも水の魔法をかけたり嫌がらせしてるさ」
「全く安心できないんですけど……。てか、そういうことしてるからギルドを追い出されたんじゃなかったんですか」
そんな他愛もな話をしたのち、俺達は再び街へと戻るのだった……。
***
「ここが、ルドラさんの友人の家ですか」
「毎回毎回、始めてきた場所だと『ここが……』って言うんだか。ボキャブラリーが貧弱かお前?」
「いや、別にそういうわけじゃないですが……。というか、よくそんな事を覚えてましたね」
流石に、毎度毎度同じ反応をされたら分かるだろ。毎度毎度気になってたんだ。
「まあいい、さっさと入るぞ。一刻も早く、俺はここからおさらばしたいんだ」
「だったら、さっさと入りましょうよ! 無駄口なんか叩かずに」
まあ、そうなんだがな。でも、下手に反応しても面倒だ。ここは、聞こえなかった振りでもしておこう。
屋敷の扉を、ノックする。すると、幼い女の子の声が聞こえてきた……。
「あ、あの。カルスタン様に何か用……、ですか?」
「ああ、俺はルドラというものだ。カルスタンとは知り合いだ。名前を言えば分かる」
「わ、分かりました……。少し、お待ちを……」
数分その場で待っていると、扉がきしむ音と共に開き、中から一人のメイド服を着た幼女が出てきた。
「それでは、お入りください……。ルドラ様……」
「だってよ、行くぞパンジャン」
「ほ、本当に入っていいんですかね? いざってなると、緊張してきました」
「いい、こいつに遠慮するな。後悔することになるぞ」
俺は初対面でとても後悔した。まあ、その理由はすぐにでも分かることになるだろう。
中に入ると、豪華な家具やらよく分からない絵がかざっており、たくさんのメイド。そして……、
「やあ、わが盟友よ! 久しぶりじゃないか、ささ取り合えずベットで私と寝るかい」
「さらりと鳥肌が立つ事を言うんじゃねえ。その、格好で言うとマジに思われるだろうが!」
水を滴らせ、裸のカルスタンがそこに居た。男の俺から見てもかっこいいとわかる容姿に、鍛え抜かれた肉体。頭のねじが20本程抜かれているのかと思う程、性癖などがねじ曲がっている。
「キャアアア! なんて格好をしているんですか」
そう叫ぶパンジャン。まあ、そりゃそうなるよな。こいつが他人だったら、ぶん殴ってるところだ。
「それで、今日は何用なんだい? 盟友」
「俺を、盟友扱いすんじゃねえ。ただの、知り合いだろうが。あと、さっさと服を着てこい。こいつが、ここを破壊する前にな」
パンジャンは、顔を手でかぶせてそのままうずくまる。今すぐに爆発しそうなほどに顔を赤くして。
この程度のことにここまでなるって、どれだけ男に免疫がないんだこいつ。
それを全く見てなかった
「どうせ、後で脱ぐんだし。着る必要ないだろ」
「何で脱ぐのかは聞かないでおこう。というか、風呂に入っている途中だったんじゃないか? ちゃんと、入り直して来いよ。俺たちはその後でいいからよ」
「そうか? わたしはこのままでもいいのだがな」
「おまえはいいかもしれんが俺たちは、まったくもってよくねえんだよ」
裸で話したい奴が、どこにいるっていうんだ。それができるのはこいつのような変人だけだ。俺は全くもって、変人ではない。
「ふむ、それならお言葉に甘えさせてもらおう。おい、エル。客室に案内してやってくれないか」
「分かりました……」
エルと呼ばれた、幼女は俺たちにぺこりとお辞儀をする。その動作は、洗練されているとは言い難く、練習中という印象が強くあった。
「なんだ、最近来たやつか? まあ、そんなことはどうでもいいか。それじゃあ、案内してくれるか?」
「はい……、もちろんです。それでは、こちらに」
俺たちは、エルに言われるがまま従い後ろを付いていく。
「うう……。さっきの裸で……」
「どうしたんだ。お前は本当に免疫がないな。まあ、いいんだがよ。爆発しないだろうな?」
「さすがにこの程度じゃ、爆発しませんよ。湯煙のおかげであれは見えませんでしたし」
「あれが見えたら、爆発するっていうのか……。お前、本当に危ないな」
少し、これから距離を置こう。物理的にも、精神的にも。
「着き……ました。それではここで待っていてください。数分後に来るはずです。私は、外におりますので何か用があったらお声をおかけください」
「ああ、なら砂糖水をくれないか?」
「わかりま……した。すぐに持ってきます」
そう言い残し、エルは外へと出て行った。
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