第10話 変人を超えた変人ですか!?

 椅子へと座り、一息つく。部屋には見たこともないような謎の絵が大量に置かれており。金持ちの部屋という印象が強い。

 久々に来たが、前はもっと普通の部屋だった気もするが……。

 そんなことを考えているとパンジャンが目を見開き、話しかけてきた。

 

「ルドラさん。あの人おかしくないですか」


 一度落ち着つき、冷静になったせいで体がガタガタと震えながら泣きそうな目でこちらを見てくる。


「お前は、まだあいつのやばさを分かってないな。あいつは、俺が出会った中でもトップに入る変わり者だ」

「あのルドラさんが言うだけの事はありますね」


 あのルドラさん、という言葉は無視しておこう。


「あいつはな、ホモとロリコンを併発してるやばいやつなんだ。ただし、ショタは無理だし、成人した女も無理……」

「ええ……。どれだけ性癖ねじ曲がってるんですか……」

 

 パンジャンの目に光が入ってない……。本気であいつの事を嫌ってるじゃないか。第一印象がどれだけ重要か分かるな。

 初めて、俺が会った時はまともで清純な人間だったはずだったが、いつの間にか突然変異したかの如くこうなっていた。知り合いとして、止められなかったのは残念だ。


「話は変わりますけど、なんで砂糖水なんですか。別に水だけでいいんじゃないですか?」


 昨日も焦げた吸血鬼に水をかけたら、謎の力で復活したし今度もまた同じように生き返るはずだ。これは、果たして吸血鬼特有の能力なのかそれともレンフィールドだけの体質なのか……。だからこそ、水を持ってきてもらいたかったのだが。


「まあ、水でいいんだがな。ふと、いいことを思いついたんだ。重かったから、それの腹いせでベタベタにしてやろうと」

「やっぱ、クズですね……」


 この二日間で、俺は何度クズだのゲスだの言われなきゃならんのだ。俺は単純に嫌がらせをしてやろうってだけなのに。

 そんなことをしていると、ちょこちょこと砂糖水を持ってエルが中へと入ってきた。


「これで……、いいですか?」

「おう、ありがとよ」


 受け取ったその砂糖水を、すぐさまレンフィールドにかける。すると、焦げていた体がみるみるうちに回復していき、ボロボロになった服すらも修復していった。

 どういう原理なのか教えてほしい。もし、レンフィールド以外の吸血鬼にあったら聞いてみよう。


「…………は!? あれ、私寝てましたッスか」

「ああ、かなり寝てたぞ。というか、永眠するところだったな」


 そのまま、火にまみれて死ねばいいのに。


「今なんか、ひどいことを思わなかったッスか?」

「思ってない」


 なんで、こいつらはこういう時だけ察しがよくなるんだか。


「また私、燃えてたんッスか? ちゃんと見張りをしていて、朝日が出てそれからの記憶が一切ないんッスが」


 記憶とかそういう話じゃねえだろ。死にかけたのをその程度で済ませんな。


「それで、今どこに居るんッスか?」

「ああ、そういえば言ってなかったな。ここは、俺の知り合いの屋敷だ。ここで、お前らでも働ける仕事でも紹介しようと思ってな」

「なるほど、そういう事ッスか。でも、私はいいんッスか。吸血鬼なんて、家の中に入れたくないんじゃないッスか?」


 確かに、一般人だったらほとんどの確率で嫌がるだろう。ただし、あいつは一般人じゃない。まごうこと無き変態だ。つまり、何が言いたいかというと……、


「レンフィールド。自分の身は自分で守れよ?」

「知り合いなんッスよね!? え、私何されるんッスか!」


 まあ、なんだろ。強く生きてくれ、と心の中で思っておこう。俺には、それしかできない。


「何で二人とも目を合わせてくれないんッスか。不安になるッスが!」

「安心しろ。きっと、変なことにはならない。きっとな」

「むしろ、不安になることを言わないでくださいッス!」


 そんな軽口を叩いていると、再びエルが中へと入ってきた。


「失礼します。カルスタン様の着替えが終わりました」

「さっさと入れろ。こんな場所から、さっさと帰りたいからな」

「よく、今から働き場を教えてもらおうって相手にそんな事言えますね」

「しかも、なんで上から目線なんッスか。ルドラさんは何様のつもりッスか」

 

 こいつらの為に来てやったのに、なんでこんなにボロクソに言われてるんだか……。ぶん殴ろうかな、こいつら。


「ハッハッハ、盟友よ。そんな悲しいことを言うんじゃない。もっと、ゆっくりしていけ」


 扉を力いっぱいに開け、今度はしっかりと服を着たカルスタンの姿があった。


「おいおい、そんな嫌そうな顔をするな。盟友が服を着ろと言ったから来てやったんだぞ。全く」


 そういいながら、俺達と向かい合うように椅子へと座る。


「さて、本題に移る前に一つ聞いていいか?」


 いつにもなく真剣な眼差しである一点を見つめている。分かっている、こいつが何を聞きたいのか……。


「そこの、美少女の事なんだが」


 呼吸を荒げ、体を震わせながら満面の笑みを浮かべるカルスタン。一言で表すならすぐに補導されそうな、変態だ。


「えっ、私ッスか!? どどどっどおおどどどどどd、どういうことッスか!?」


 いままで、受けたことのないおぞましくも混とんとした欲望。性癖にまみれた、その欲に恐怖し人間では確実に出来ない程、体を震わせ涙目になるレンフィールド。

 一瞬にして、何かを察することができた。レンフィールドの本能がこいつはやばいと危険信号を出しているのだろう。


「ハアハア……。う、うん。すまない、すまない。取り乱してしまった。君は、吸血鬼ちゃんなんだな。名前はなんていうんだい?」

「えっと、アルタナ・レンフィールドっていうッスが……」


 レンフィールドは、片手に魔法陣を展開する。流石にここまで魔法を使うのはやめてほしい。

 

「いい名前だな……。君に運命を感じた、わたしの奴隷ならないかい?」

「いきなり何を言ってるんッスか!? なりませんッス、怖いッス怖い! 二人とも黙って見てないで助けてくださいッス」


 黙ってないと、今度は俺が狙われる気がするし……。まあ、関わりたくない。ここで、下手なことを言って標的が変わってもめんどくさい。まあでも、しゃあない。このままいったら中々本題に移れないからな。助けてやるとするか。 

 いやいやながらも、カルスタンに話しかける。


「カルスタン、落ち着けよ」

「ルドラさん……。助けてくれるッス――――」


 キラキラと救世主を見るような目を向けてきたレンフィールド。だが、俺はそんなこと一切関係なく、一言カルスタンに告げる。


「こいつは売り物だ。それ相応の金を貰わないとな」

「白金貨十枚でどうだ」

「よし、売った。交渉成立だ」


 ちなみに、白金貨は金貨の十倍だ。それだけの金があればある程度の期間遊んで暮らせるな。 

 思考が停止したレンフィールドは我に返ると、すぐさま声を上げた。


「ちょっとまってくださいッス! 私、売り物でもないッスから。何さりげなくお金を受けとってるんですか!」


 ちっ、そのまま売れてくれたら楽だったのに……。


「そうだったのか、盟友? わたしに嘘を付いたというのか?」


 このまま、カルスタンとの仲が悪くなってしまったらコネを一つ失うことになる。仕方ない、ここは弁明するとするか。


「なんだ、俺の冗談も通じないのか?」

「いや、そういう訳じゃない。忘れてくれ……、ただ別にわたしはレンフィールドちゃんじゃなくて盟友でもいいんだがな」


 何を言ってるいるんだこいつ。


「いやいや、考えてみてくれよ。普通、盟友を奴隷にしないだろうが」

「何を言っている。他の奴らなら、死んでもゴメンだ。だが、盟友なら買ってもいいだろう。同じく白金貨十枚でどうた」


 こいつは本当に何を言ってるんだ。今度は、こっちが思考停止しそうだぞ。少し顔を引きつかせると同時に、俺の二の腕をガッチリと両手で掴んできた。


「誰か! 頼むからこいつを止めてくれ、目がやばい。本気だ」

「ルドラさん。よく、私を売っておいて人に助けを求められるッスね」

「流石に引きますよ、ルドラさん。クズ過ぎませんか?」


 なんて、薄情な仲間を持ったんだ俺は……。心の底から、泣けてくる。


「もし逆の立場だったら、絶対に助けるっていうのに」

「数分前の事を思い出してくれます?」

「きっと、ルドラさんには記憶という回路がないんッスよ」


 ひでぇ事を言ってやがる。そろそろ殴っていいかな? 

 握りこぶしを作ったところで、カルスタンが笑い始める。


「ハッハッハ、君らは面白いな。盟友の仲間達よ。まあこの話はとりあえず置いておこうじゃないか」

「お前が始めたんだかな……。まあいいか、それじゃあ、本題に入ってもいいんだな?」

「ああ、もちろん」


 先ほどまでのふざけた態度とは打って変わり、顔に似合うキリッとした表情となった。


「まあ、単刀直入に言うと。仕事を探してるんだ、何かしら紹介してくれないか?」

「仕事か……。あの、盟友がか……。あまりイメージはないが、まあいいだろう。どんなものでも紹介してやるぞ。SMクラブの店員から、ホスト。更には、奴隷商の店員までな」


 キリっとした顔はいったい何だったんだ。



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