第4話 5Cの器用貧乏

 足跡を追って、パンジャンドラムを追う。一人走っていったのか、一向に影すら見えてこない。


「本当にこっちに来たッスかね。結構歩いてると思うッスけど…………」

「つべこべ言わず歩……け? てか、その羽で飛べるんじゃないのか、お前」

「そういやそうッスね……」

「何で歩いてんだよお前。え、馬鹿なの?」

「バカとはなんッスか。これでも、由緒正しきレンフィールド家の者ッスよ。そろそろ、本当にキレるッスからね」

「分かった分かった、ロリ吸血鬼とっと歩け」

「用が済んだら、絶対に痛い目に合わせてやるッスよ」


 やれるものなら、やってもらいたいものだな。その際は、正当防衛でボコボコにしてやる。相手はモンスターだし、やり過ぎても問題ない。それに対して、レンフィールドは俺を殺すことが出来ない。だからこそ、むしろ望むところだ。

 そんな軽口を叩いていると、いきなりレンフィールドが真剣な表情へと変わり――――


「ルドラさん。このオーラ近くに居そうッスよ」

「そうだな……」


 最初に来た際に、感じたのと同じような身も毛も弥立つ凍えるような寒さ……。


「よし、前に行けレンフィールド。別に怖いわけじゃない、お前なら居場所を探知できるかと思っただけだ」

「最初の方に、オーラがどうのこうのって言ってませんでした? ルドラさんも、別に居場所くらい分かるんじゃ……」

「言ってない」

「そんな、即答しなくても……。まあ、そういう事にしておきますッスよ」


 レンフィールドが前に行き歩き始めたその時、突然前方からけたたましい轟音共に木々が倒れ始めた。

 

「まさか、始まったのか……。急ぐぞ!」

「ええ!? 突然? 何私より先に走ってるんッスか! 居場所分かるんじゃないッスか!」


 もし、パンジャンが死んだり一人で倒してしまったら全くもって意味がない。

 前にレンフィールド発動したのと同じ、魔法陣を展開し、走る。それに続き、レンフィールドも赤色の魔法陣を展開する。


「頼むから、もってくれよ。パンジャン!」


 俺が恩を売る為に!




***




「なんてこった……」


 俺達がたどり着いたのだが、服が汚れ身体がボロボロになって横たわるパンジャンドラムの姿がそこには居た。


「どうなってんだよ、勝てるのかこんな奴に」


 そんな状態なパンジャンドラムに対して、氷の獣は傷一つ付いていない。

 そして、魔法の跡なのかパンジャンの周りには所々穴が空いていた。


「というかこいつ……。フェンリルじゃないか?」

「そういや、そんな名前が付いてましたッスね」


 フェンリル……。水属性をもつ上位魔獣。

 獣といえども、知能と魔力があれば魔法を扱う個体もいる。とはいえ、基本的には一種類の属性魔法しか使えないのだ。つまり、こいつも水系の氷魔法を使うことが出来るのだろうが……。

 この、爆発跡を見るとそれ以外の魔法も使えそうだ。変異個体なのか?


「ふぅ……」


 呼吸を整え、改めてフェンリルに向き直る。

 こちらを警戒しているようだが、自分から動く様子もない。

 

「よし、行けレンフィールド! ここは任せた」

「ちょっ!?」


 俺は、すぐさま後退した。

 いやだって……、あれに勝てなさそうですもの。強いと言われている兵器少女の、パンジャンが手も足も出ずに勝てなかったんだからな。

 ここは同じ人外の吸血鬼である、レンフィールドに任せるとしよう。

 もし、こいつも負けるようならすぐに逃げ……応援を呼ぶために少し遠くから見守らせてもらおう。


「ルドラさん! 私だけでやれって事ッスか!?」

「俺はお前の事を信じている。お前なら必ず奴を打ち倒せるとな」

「ま、まあ私は高貴なレンフィールド家ッスから。ハッハッハ、私の力を見せてやるッスよ!」

 

 これだから、バカは扱いやすい。内心ほくそ笑みながら、傍観する。

 レンフィールドは仁王立ちし、先程から展開していた右手の魔法陣を前に出し、照準を合わせる。


「これが、レンフィールド家に伝わる魔法ッスよ! 『アルスフレイマ』」


 魔法陣から、炎の球体が出現し一斉にフェンリルへと襲いかかる。

 しかし、それを華麗な身のこなしによって全て避けるフェンリル。

 炎の玉が木に当たり消滅すると同時に、今度はこちらの番と言わんばかりに、氷の塊を出現させレンフィールドへと攻撃する。


「くっ!」


 最初は意外にも避けれていたが……、木につまずき転んでしまった。そこをすかさず、氷の塊で攻撃する。


「私はこれでも吸血鬼なんッスよ!」


 背中の羽を羽ばたかせ、空を飛ぶ――――と思われたのだが、少し浮いただけで終わりそのまま氷の塊が直撃してしまった。


「ぐへぇっ!」


 その勢いのままに、俺の隣まで吹き飛ばされてきた。


「あいつ、結構やるようですね」

「なにが、『あいつ、結構やるようですね』だよ。『吸血鬼なんッスよ』とか言って全く空を飛べなかったじゃないか。馬鹿なの?」

「うるさい! 私は頑張ったッス。むしろ、ルドラさんが次は頑張ってくださいッスよ」


 ちっ、面倒くさそうだ。だが、このまま逃げたとしても、追いかけられたり後ろから氷を飛ばしてくる可能性が高い……。そうなれば、俺が逃げ切れる保証はない。

 それならいっそ、奴を倒しに行った方が良さそうだな。


「面白い、くっくっく」

「どうしたんッスか、ルドラさん。血迷ったッスか?」

「いいや、ただ。久しぶりに俺の本気を見せることになると思ってな」


 腰にぶら下げておいたステッキを手に持ち、フェンリルへと向ける。

 さて、正直な話俺はこいつをこの場で倒そうとは微塵も思っていない。あくまでも今はパンジャンが目覚めるまで時間稼ぎに徹してやる。

 今一人で逃げるよりも、起き上がったパンジャンにもヘイトを向けてもらった方が逃げ切れる可能性が高い。


「一発で決めてやるからよ」


 もちろん、これもハッタリだ。そんな事したら、色々とめんどくさい事になりそうだし……。

 俺は、展開していた魔法陣を赤青黄緑黒の五色へと変色させる。

 それを見ていた、レンフィールドが目をぱちくりさせ驚く。


「え、それって……? まさか、ルドラさん。伝説あれッスか!?」


 まあ無理もない。そう、俺はこの世で伝説と呼ばれている……!


「5Cの器用貧乏!!」

「やめろ! それで、俺を呼ぶんじゃねえ、そのダサい二つ名を!」


 というのも、魔法はどんな人間でもはたまたま獣でも魔法を使うことができる。だが、それには基本的に適性が必要で、火の適性が無ければ炎の魔法を使う事は出来ない。

 とはいえ、適性がいくつもある人間は少ない。基本的には一人に対して一個であり、国で最強と呼ばれる賢者ですら三つしかない。

 それに対し、俺はこの世でもレア中のレアな五つ全ての魔法に適性がある。それだけ聞くと最強のようにも思えるが、世の中はそんなにあまくない。

 例えば炎の魔法を使う際に、水の適性があると自動的に水の適性がそれを邪魔しようしてしまう。一言で言えば、一つの魔法を使おうとすると他の魔法が自動的に発動しそうになり、暴発してしてしまう。それを制御するために特訓が必要なのだ。

 それは、適性の数が多くなるほど、その分特訓も増えるため五色全て使えると、特訓の量が尋常じゃなくなってしまい、器用貧乏のように、弱い魔法しか使えなくなってしまうのだ。


「存在は知っていたッスけど、本当にそんな者がいるとは……。びっくりッスね。でも、どうやってそんなので戦う気ッスか?」

「まあ、見ていろ。伊達に5C魔法使いなんてやってねーよ」


 俺は、魔法陣五つ展開しそれら全てを氷の獣へと向ける。


「さて、やってやるか獣野郎! 『フレイム・ラウド』」


 五つの球のうち内、赤い色をした魔法陣から火の玉が出現しヒョロヒョロと飛んでいく。


「ふううぐうう!」


 火の玉は、氷の獣が吐いた息によって消し去られてしまった。


「く、相性がいい魔法でもこのざまか……」

「それ、私がやったッスよ。ルドラさんよりも、強い魔法で! 確かに、当たりはしませんでしたが」


 こいつは一体何を言ってるんだ。当たらなかったから、弱くても試したのに。バカか……? まあその分操りやすくて助かるが。


「まだまだ! 俺には他にも魔法がある。『ウォーター・ラウド』」


 今度は青い魔法陣から、水の玉が出現したが。すぐさまそれと同時に凍ってしまい、地面へと墜落した。


「まだまだ! 『ウインド・ラウド』」


 緑の魔法陣から発生したそよ風は、氷の獣にぶつかると体に付いた泥などを払い、そのまま消えて行った。


「レンフィールド、お前の言う通りだな。あいつは結構やるな」

「ルドラさん。もう、黙っててもらってもいいッスか?」


 そうこうしていると、ようやけ気を失っていたパンジャンが目を覚ます。


「……あれ? 私は今まで一体……、気を失っていたんですか」

「遅いぞ、さっさと立ち上がれ」


 パンジャンは、怪我をした場所を抑えながら立ち上がる。

 改めて見ると、ボロボロの状態なパンジャンがちゃんと走れるかどうか。すぐにやられたら、それこそ意味もない。


「おい、パンジャン。兵器モードとかいう奴になれるんだよな?」

「はい、言ってましたが。それがどうかしたんですか?」

「それで、その状態では空を飛んだり足が速くなったりするのか?」

「足が速く……? いえ、別に足が速くなるわけじゃありませんが、移動速度は今よりも早くなります。…………一応」


 それなら、ロリ吸血鬼を抱えて逃げれるか……? 


「今の、ボロボロな状態でもいけるのか?」

「行けますが……。本当にやるんですか」

「もちろんだ。それを使って、さっさと逃げろ。俺はレンフィールドを抱えて逃げる」


 ここで、レンフィールドがもっと足が速く、なおかつ空でも飛べたら楽なのにな……。まあ、ないことを願っても意味ないか。


「でも、逃げ切れるんですか?」

「なわけねえだろ? 途中でレンフィールドを投げておとりにするんだよ。幼女だし、軽いだろ」

「それを、本人がいる前で堂々とするッスか!? やらないッスよね!? 無言で見続けるのやめるッスよ!」

「ルドラさん。あなた、本当にクズですね」


 そういうパンジャンも、置いてくつもりだがな。

 俺はレンフィールドの言葉に耳を傾けず担いでやる。バタバタと暴れるが、見た目と同様に、力が無くほとんど俺を引き離せないでいる。


「お、重い」

「ルドラさん! あんた、本当に失礼ッスね」


 このロリ吸血鬼。なんで、こんなに重いんだ。筋トレに使うダンベルじゃあるまいし…………。


「よし、行くぞパンジャン!」

「はい、へーんしん」

「こら! 私は了承してないッスよ」


 よく分からんポーズをすると、パンジャンの体がいきなり光に包まれ、体がゆっくりと変形していき……、最終的に馬車の車輪のような姿になった。

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