第2話 対吸血鬼
「ところで、ルドラさんって何が出来るんですか?」
こいつは何を言ってるんだ。さっき言ったことを忘れるとは、鳥頭か?
「さっきも言っただろ? 魔法が使えるんだって」
「魔法と言っても、色々種類があるじゃないですか。命を預けあうことになるんですし、すこしくらいは教えてくれてもいいんじゃないですか?」
魔法というのは、適正さえあれば学んだり練習することにより、誰でも使えるようになる。とはいえ、その適性によってどんな魔法が使えるのかが変わってくるのだ。こいつはきっと、そのことを聞いているのだろう。
「まあ、それもそうだが。俺の魔法はこんなところで使えるもんじゃない。それに、こんな場所で教えたら誰かに聞かれてしまうかもしれないだろ?」
「はっ! まさか、あなたはそれほどに重要なポジションに!? 人は、見かけによらないものですね」
もしも、チンピラや他の冒険者に絡まれた際に自分の手の内がバレていると不利になる。だからこそ、何故か絡まれやすい俺は基本的に隠している。まあ、そういう理由だが変な勘違いしてるし、そっとしておこう。わざわざ、訂正するほどの事でもない。勝手に勘違いする方が悪いんだ。
「それで、今は何処に向かっているんですか?」
「なんだ、分からずに後ろから付いてきたのか? 今向かっているのは、教会だ。吸血鬼用の聖水とかを買うためにな」
「吸血鬼って、聖水が効くんですか? 知らなかったです」
「そんなことも知らないのか?」
まあ、こう言っているが実際のところは俺も知らん。そんな感じの話を聞いたことがあるようなないような……。というか、そもそも吸血鬼と戦ったことがないし。前に、ゾンビとかいうモンスターに聖水をかけたら苦しがったし同じような物だろう。
数分歩いた後、俺はこの街で唯一の教会へとたどり着く。
「おーい、すまねぇ。シスター居るか?」
「キャッ! なんですか、あなたは例の!」
「もうその反応に飽きたから、やめろ。いちいちめんどくさい」
まあ、このシスターに八つ当たりしたところで何も変わらないんだが。
「そ、それでなんの用ですか?」
「聖水を三本くれないか?」
「三本ですか? 一本に付き金貨一枚ですが、いいですか?」
「は? 金貨だと、そんなにあるわけねえだろ。銅貨と間違えてるんじゃないか?」
「この辺には聖水に効果があるモンスターが居ないんですよ……。なので、この教会には聖水を作れる人はいません。それにこれも、他の街のシスターに作ってもらった残りなんです……」
あれ、吸血鬼が出現するのにか? まさか、俺の考えが間違って……。いやいやそんなことはないはずだ。ここがマイナーな教会で、情報がないだけかもしれないしな。
「分かった、それなら水をくれ。ついでに砂糖も」
「わかりました。それくらいな銅貨四枚くらいで」
「四枚……、まあいいだろう。痛い出費だが、それくらいなら出そう」
銅貨二枚で、大体ご飯と味噌汁に肉がついたセット一食分だ。現在、ギルドをクビになりそうだし痛い出費だ。まあ、これから上手くいけばお金がたんまり入ってくるし、先行投資と思えばこれくらいなら払える。
ちなみに、銀貨は銅貨四枚分。つまり、さっき巻き上げた銀貨だけで、八食分だ。これを多いとみるかは人次第だが、現在の俺の懐事情は銀貨四枚と銅貨六枚。ちょっと、きつい。
「これでもう準備は終わったんですよね?」
「おう。それじゃあ、さっさと行くとするか。ふと思い出したが、久々に勇者の末裔が戻ってきているからな。まさかとは思うが、奴は吸血鬼を討伐するためなんじゃないか?」
もし、俺がギルド長だとしたらクエストの数が少くなくなってしまう吸血鬼の討伐は早めにやっておく。このままだと、職が無くなる冒険者が増え、下手すれば賊に走る事もあるからだ。
「まさか!? それなら、早くいかないとじゃないですか!」
「ああ、そうなんだが……」
とはいえ、タスラナが来るのも早すぎる。早く討伐したいと言っても、立ち入り禁止にしてすぐ、タスラナが帰って来るとも思えない。偶然なのか、考え過ぎなのか。
どちらにせよ、もしタスラナをわざわざ呼び出す程ということはかなりその吸血鬼は強敵ということになる。
まあ、そんな奴よりも俺の方が強いがな! ギルドの評価がおかしいだけで。
「なんか、変なことを考えてません?」
「いや、何でもない。ともかくさっさと森に行くぞ」
考えて時間を潰するくらいなら、動いた方がましだ。止まっていて、先を越されたらバカみたいだからな。
「待ってくださいよ!」
そう言って、後ろから走って付いてくるパンジャンに従わず、俺は足を動かし続けた……。
***
俺たちは街を出て一時間あまり歩き、連魔の森へとたどり着いた。
「ここが、その吸血鬼が出る森なんですか? 街から近すぎません?」
今は一般人が立ち入り禁止になってはいるが、いつもなら薬草などの採取のために訪れる人が多い。
だからこそ、早く吸血鬼を討伐しなければならなく、高額な懸賞金が付けられている。
「でも、近場なら近場で早く駆除しなければいけませんし。逆に言えば、しっかりと討伐すれば私もすぐに有名になりますね」
「まあ、そういう事なんだが。しっかり討伐ってどういう言葉だよ。討伐は討伐でいいだろ」
「気持ちの問題ですよ!」
俺たちは周りを警戒しつつ、少しずつ奥へ奥へと入っていく。森は更に茂みや木々が増えていき、数十分歩く頃にはほとんど日差しが入って来なくなった。
「確かにこの辺なら吸血鬼も居そうですね」
「ん? どういう意味だ」
「吸血鬼って日光を浴びると、灰になるっていうじゃないですか。だからここなら、日差しも入りませんし、過ごしやすそうだと思い……」
「あ……、ああそうだったな俺も同じ意見だ」
そうだったのか、知らなかった。危うく俺が吸血鬼についてあまり知らない事がばれるところだった。
「本当に、ルドラさんって。吸血鬼と戦った事あるんですか?」
思わずその言葉に、身体を震わせてしまった。やべぇ、誤魔化さないと……。
「ああああるに決まっているだろ! 何を言ってるんだ」
「あからさま過ぎて、本当に知らないのかふざけてるのかわからないんですが……」
「気にするな……」
黙ってどんどん行かないとな、ボロが出てしまう前に!
「そんなに急いだら、いざっていう時に体力がなくなりますよ?」
「大丈夫だ、俺は体の鍛え方がちがうからな。この程度で、バテねぇよ」
「え? さっきから息が上がってるのに何を言ってるんですか」
「これは、疲れてるわけじゃなくてただ病気で風邪をひいて」
「だったらなんで、こんな場所まで元気で歩いてるんですか」
「じっ実は喘息っていう病気で」
「喘息っていうのは綺麗な空気程よくなるはずなんですが……。ここは森ですし」
「本当は、肺に穴が開いていてだな……」
「肺が開いているのに、あんなに騒がしくして平然としているんですか。化け物かなんかですか?」
く、誤魔化されないか。
「まっまあ、色々あるんだよ」
「なんですかそ……れ」
そんな他愛もない話をしていると、ただでさえ静かな森が更にシンっと静まり返り、動物や虫が草木に当たる音すらも聞こえてこない……。
そして、奥の方から冷気のようなものが吹き、鳥肌が立つ。
「こ、これは……」
「吸血鬼が、出てきたんじゃないですかね……」
ここまでのオーラを出しているとは、これはかなり名のある吸血鬼だな。高貴とは聞いていたが、まさかここまでとは……。
今から逃げても、間に合うか? パンジャンが強いとは聞いているが、どれくらいかも分からないし、このオーラを感じるに吸血鬼に二人がかりでも勝てる気はしない。
だがもし、ここで逃げて実はパンジャンが物凄く強く、吸血鬼を瞬殺したら懸賞金は……。
「よし、パンジャンドラムお前は先に行け、俺は魔法の詠唱のために後ろから着いていく」
「分かりました、私もすぐに攻撃できるようしておきます」
俺は両手一つずつの魔法陣を展開し、パンジャンドラムも何やら右手に何かを持ったようだ。車輪のような……。
臨戦態勢が整い、少しずつ奥へと進んでいく。
「う、寒い」
進むにつれ、温度が下がっていく。まるで、人を寄せ付けない防壁のように……。
「なんでこんな寒いんだ。吸血鬼って、氷の魔法が得意なのか?」
「そんな話は聞いた事がないですが……。というか、得意かどうかも知らないって、本当に戦った事あるんですか?」
「あるって言ってんだろ! 黙って早く歩け」
「最初からどうも怪しいんですルドラさん。やっぱり、私を騙そうとしてますよね」
「そんな訳ないだろ、俺はただ金が欲しいだけだ。お前の事なんて、どうでもいい」
「その話じゃないですよ。ルドラさんが、色々な経験のある冒険者って話ですよ。本当は弱くて知識もなくてただ、私を利用しようとしてるだけなんじゃないかなと」
「はぁ? んなわけねぇだろ!」
「じゃあ、さっきからそのテンパリ具合はなんなんですか。どうして、吸血鬼の情報がほとんど曖昧なんですか、本当に戦ったことがあるなら、得意な魔法くらい分かると思いますよ? どうなんですか!」
「うるせぇ、本当に俺は経験がある冒険者だ! こんなとこで、喧嘩する気か」
「いいですよ、受けてたちます。あなたを倒したあとでも、吸血鬼くらいサクッと倒せますので」
「後悔するんじゃねぇぞ」
「そっちこそ」
『騒がしいッスよ! 今何時だと思っているんッスカ』
「「うるさい黙ってろ!」」
『ええ!?』
全く、こっちの状況をちゃんと見てからいってほしいものだ。俺達が喧嘩してくるのに、なんで話に割って来るんだ。常識を知らないのか、こいつ……。
あれ、立ち入り禁止のこんな場所に、一般人や冒険者がいるのか?
「パンジャン、下がれ!」
とっさに俺達は、後ろへと後退し会話に加わってきたそれに魔方陣を向ける。
よくよくみると、それは一対の黒いコウモリのような翼を広げ、赤い瞳に水色の髪をした幼女だった。
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