第1話 兵器少女パンジャンドラム
「なんで私はギルドに入れないんですか!」
「だから、規則だと何度言えば分かるんだ!」
少女が懇願しているが、兵士達はそれに了承しない。
にしてもギルドに入りたいのに、入れさせて貰えない? どういうことだ、俺みたいに何かやらかしたのか? まあいいそれなら同族のよしみだ、手助けしてやるか。
「おい、お前ら何をしてるんだ?」
「あ! 貴様は、少女を誘拐した挙句、俺はやっていない身体が勝手に動いたなどと訳の分からないことを言ったルドラじゃないか」
「そうだ、俺も思い出した。確か、人の家に勝手に入り込んでは、『俺は勇者だから問題ない』と言って堂々と逮捕されたルドラじゃないか!」
「おいこら、俺はそんな事してないぞ! 俺がやったのはカジノや民家で爆発しようとしただけだ!」
「それって、誇れないですよね!?」
全く、勝手に他の人の罪まで擦り付けないで欲しいものだ。俺はそんな、非人道的でクズみたいな事はやってない。
それになぜ庇ってやっているのに、こいつは突っかかって来るんだ。
「まあとりあえず、その話は置いておこう。それで、何でこいつがギルドに入れないんだ?」
渋られるかと思ったが、それについては案外素直に教えてくれた。
「ああ、その事か……。こいつは、兵器少女なんだ。そう言えば分かるか?」
「兵器少女……だと? まさかこいつがあの、兵器少女だとはな。それなら仕方ないか。うんうん」
あの伝説の……、あれか。まさか、こんなところで見ることになるとは……。
「お前……、絶対分かってないだろ」
「なぜ分かった!?」
まさか、俺の嘘が見破られるとは……。この兵士、中々やるな。
呆れた様子で、片方の兵士が口を開く。
「まあいい、説明してやるよ。兵器少女ってのは、昔あった戦争時に大国で造られた兵器の事だ」
昔あった戦争とやらについて知らないという事は、言わないでおこう。話がややこしくなりそうだ。
「一人一人が、規格外の力を持つため。国が兵器少女を所有してはいけないという、制限が同盟国同士にある。だからこそ、ギルドに入られるとそれに違反したと思われ、他国との関係が悪くなるからギルドに入ることは出来ないんだ。分かったか?」
細かい事は分からんが、取り敢えず色々あって、こいつがギルドに入れないってことは分かった。
「でも、そんなにやばい兵器ならむしろどっかの国に雇ってもらったりした方がいいんじゃないか?」
「昔、兵器少女を雇った国もあったらしいが。兵器少女が命令に全く従わなくなり、挙句の果てに、その国は裏切られて壊滅させられたのだ」
どんな化け物だよ……。
「それで、お前はなんでギルドに入りたいんだ?」
「お前お前って、ちゃんと名前で言ってくださいよ。私の名前はパンジャンドラムと言います」
口を膨らませ、上目遣いでそんな事を言ってくる。
「パンジャンドラム? 長ぇな、略してパンジャンって呼ぶぞ。じゃあ、俺の名前は……」
「あ、大丈夫です。ルドラさんですよね? もう、さすがに覚えましたよ」
そういやさっきのくだりで、兵士達が俺の名前を言っていたな。
変な風に覚えられている気がするので、後でしっかりと訂正しておこう。
「それで、なんで私がギルドに入りたいかでしたっけ? えっとですね、私は有名になりたいんですよ。なので、ギルドに入って活躍すれば有名になれると思って」
「有名になりたいのか……」
さっさの兵士の説明によるとこいつは、兵器少女って奴で国同士が警戒し合う程に強いんだよな? 上手く利用すれば、金儲けできるんじゃないか?
「なるほど、そゆことか。分かった、それなら俺がギルドに入らずに、お前が有名になる方法を教えてやるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
これなら上手く行きそうだ。頭も悪そうだし、利用出来る。
「じゃあ、ちょっと付いて来い」
「はい!」
大きな声で返事を、ちょこちょこと俺の後ろを歩いてくるパンジャン。
「ほら見ろ、ああいう感じで少女を誘拐していくんだろうよ」
「ああ、間違いないな。これは他の兵士に報告した方がいいかもな」
さらにその後ろで、兵士二人組が何かをほざいているが、気にしないでおこう。
***
俺たちは場所を移し、近くの喫茶店へと入った。中には、ほとんど人は居らずスカスカだった。入っただけで店員から渋い顔をされたのは、何故だろう……。
椅子に座り、早速本題に触れる。
「さて、有名になりたいって話だったな」
「はい、そうです。どうすれば、有名になれますか?」
「やめろ、顔を近付けるな」
机に身体を乗り越してきたパンジャンを落ち着かせる。そんな、急がなくても時間はあるというのに……。
「まあ、慌てるな。俺にいい考えがあるんだ。それを実行すれば、お前の名声は簡単に上がることだろう!」
人差し指を上に指し、キリッとした表情を作りパンジャンを見る。
ふっ、決まったな。実際にパンジャンが、キラキラとした目でこちらを見ている。
「いいか。まず、金を稼ぐんだ。そしてそれを情報屋に渡して、お前の情報を広めてもらうんだ。どうだ?」
「えっと、それってどういうことですか?」
「お前が、英雄だとか最強だとかを広めればそれだけ名声は上がるだろ?」
ふっふっふ、どうだ俺の完璧な作戦は。こうすれば、下手に動かず簡単に名声を上げることが出来る。
だが、そんな俺に対して困惑した表情をするパンジャン。
「えっと、そういうのはやめたいんですが。あくまでも、自分の力で有名になりたいんですよ」
わざわざ、自分の力でか。めんどくさいが……。まあ、それくらいなら簡単にできそうだな。
「有名になりたいんだな。よし、今度こそ分かった。爆薬を持って王様でも暗殺してこい。そうすれば、一躍時の人となれるぞ?」
「それって、悪い意味ですよね!?」
「駄目か? それなら、いきなり周りの人達を襲いかかるのも……」
「だから、そういう犯罪はやめてくださいよ! 他にもっとまともなやつはないんですか?」
他にねぇ、えっと……、うーん。
「思い……付かない……」
「本当に言ってるんですか!?」
「いや、だってよ。そんな、簡単に出来てなおかつ合法のものなんてなぁ。そんな甘い事言ってんじゃねえよ!」
「何逆ギレしてるんですか! というか、私は別に楽して有名になりたいなんて言ってないですからね! ただ、自分の力で名声を上げたいと言ってるだけですから!」
あれ、そうだったか? まあそんな事は今はどうでもいいとして……。
「まあ、一旦この話は置いておこう。そもそも、お前ってどんなことが出来るんだ? 有名になるなら、お前の長所を活かした物がいいと思うんだが」
利用するなら利用するで、どういうことが出来るか知っておきたいしな。
そんな裏があるとは知らず、素直に話す。
「なるほど、確かに一理ありますね。えっとですね、まず私は兵器少女なので、その名の通り兵器にフォルムチェンジする事と、兵器を創造することが出来ます」
「それを使えば、1つの国を簡単に落とせるって言うわけか……。よし、隣の国をやってこい。そうすれば、お前は有名になれるぞ」
「私をテロリストにする気ですか!? やりませんからね! 絶対にやりませんから」
にしても、それくらいの力があるなら別に、ギルドとかに入らず魔王とか一人で倒しに行けばそれだけで有名になると思うんだがな……。まあ、いいか。下手に言うと、俺に何のメリットも生み出さないまま一人で行きそうだし。
「あの、そろそろふざけずにやってもらわないと私行きますからね?」
「まあまて……、そう慌てるな。一つまともな物を思い出した。近くの森に吸血鬼が出現したらしい。そいつを俺たちが倒せば、この町で有名になれるはずだ。そんな感じで、悪さをしている奴を無名のまま倒して活躍するのはどうだろうか」
「それ、いいじゃないですか。最初からそういう話を言ってくださいよ! それじゃあ、早速行ってきます」
「まあ、ちょっと待て。そんなに焦るな相手は高位の吸血鬼なんだ。お前だけで勝てる可能性は低い。だからこそ、俺と一緒にパーティを組もうじゃないか。俺は、魔法が使えるのと、今までの経験がある。どうだ?」
そう投げかけるも、唇を少し噛みジト目を向けてくる。
「なんだその目」
「いえ、ルドラさんが少し信用できなくて」
「うーん、分かったよ。本音を言うとな、高貴な吸血鬼は光物を集めるって聞いたことがあるんだ。だから、倒した際にそれを貰いたくてな」
「なるほど、だから私に声を掛けたという事ですね。強い力を持つ私に」
騙しやすそうという本音は黙っておこう。
「まあ、そういうことだ。それで、いいか?」
「そうですね。あまり、私はお金が必要ではありませんしそれくらいなら。情報もくれましたし」
「よし、それなら決まりだな」
運ばれてきた水を飲み干し、パンジャンに向き直す。
「なあ、お前って兵器とかいうのを改造したのか? それとも、人間を改造したのか?」
「すいません、それは言えません。というよりも、記憶が無いんですよね。気づいた時には博士の前に居たんですよね」
「なるほど……。じゃあ、食事とかはどうなんだ?」
「私は普通の人とは違い、ご飯食べないんですよね。その代わり紅茶で動きます」
「紅茶? ごめんちょっと何言ってるか分からない。貴族とかが飲んでるあれか」
「はい、そうです」
確か、1杯飲むだけで銅貨一枚くらいしたはずだ。いや、そんな事よりどうして紅茶で動くんだ? 製作者の趣味かなんかか…………。
「それって、結構コスパ悪くないか?」
やっべ、混乱して変な事を聞いた。いやまあ、それも考えてたんだが。
「あ、それに関しては大丈夫です。私はそれを回避するために水を紅茶に変える機能を持っています」
「水を紅茶に変える能力? どうやってやるんだ」
「なら、早速見せましょう」
パンジャンは、運ばれてきた水を飲み込む。すると、いきなり口から吐き出す。それは、先程とは違い茶色の液体になっていた。
「はい、これが紅茶です。どうぞ」
「絶対飲まないからな」
「なんでですか? 美味しいですよ」
美味しいとか、そういう問題ではないだろ。口から出てきた物を飲むとか、衛生的にというか、なんか身体が拒否してしまう。
そんな、俺の考えを知らずパンジャンはその紅茶を飲み干す。
「ふぅ、やっぱり紅茶はキメないとですよね」
「そんな薬物みたいに言われても困るんだが」
「この紅茶を飲むとですね、運気とか上がりますよ?」
「要らんって、怪しいし」
この紅茶……飲んだら、中毒症状とか現れないだろうな。
「酷いこと言いますね……。普通の紅茶ですのに」
そう言って、鼻歌と共に紅茶を飲むパンジャン。
なんだろう、エセ貴族に見えてきた……。
「その紅茶を作る機能いるのか?」
「要りますよ。ないと、紅茶なんて高くて買えませんし動けなくなりますよ」
「だからなんで、紅茶で動くんだよ。普通に食べ物とかでいいじゃねえか。てか、紅茶にどんなエネルギーがあるんだよ。お前の動力源になるとか」
兵器ってものがどんなものか分からないが、ともかくこんな人サイズの物を動かせるエネルギーがあるとは思えな…………、いや待てよ。
「貴族達が必要以上に紅茶を飲み続けるのって、その膨大なエネルギーを摂取して強くなるため!? 紅茶とは一体、どんな薬物なんだ……」
「一体何を言ってるんですか!?」
紅茶、闇が深いな……。
「よし、それじゃあ早速行く準備するか」
「は、はい。分かりました」
運ばれてきた水を飲み干し、俺達は店を後にした。
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