第五話

 二人は新幹線と在来線を乗り継いで夕方には、S県T町の洞窟どうくつの前にいた。日高ひだかは、感心した。

「ほお~。なかなか立派りっぱな、洞窟やないか!」


 鹿島かしまも、見入みいった。

「確かに歴史を感じさせる、洞窟だな……。ここなら徳川埋蔵金とくがわまいぞうきんがあっても、おかしくないかもな……」

「よっしゃ早速さっそく、入ろうや!」と日高は、準備していた懐中電灯かいちゅうでんとうらしながら、薄暗うすぐらい洞窟の中に入った。鹿島は、その後に続いた。


 十メートル程進むと、突き当りがあった。日高が懐中電灯で照らしながら、言った。

「なるほど、ここが突き当りか……。うん、何や、あれ?」


 鹿島も懐中電灯の明かりの先を見てみると突き当りには、高さ一メートル程の岩に、砂場すなばがあった。横は一メートル、奥行きも一メートル程だ。そして砂場の手前に幅十センチ、長さ三十センチ程の帆船はんせん模型もけいが、奥を向いて置かれていた。


 日高は、つぶやいた。

「砂場に、帆船の模型が置いとるなあ……」

「そうだな……」

「えーい、これが何やっちゅーねん!」


 鹿島が、なだめた。

「まあまあ。ちょっと、この付近ふきんを調べてみようぜ。何かヒントが、あるかも」

「ああ、そうやな……」


 二人は手分けをして、ヒントを探し始めた。日高は洞窟の左側の壁を、鹿島は右側を。少しすると、スマホのライトで壁を照らしていた鹿島が叫んだ。

「お? これじゃねーか? おい、日高、見てみろよ!」

「何や?」

「これを見てみろって!」


 鹿島のスマホのライトは、岩の壁の文字を照らし出していた。それには、こうきざまれていた。『手をれずに帆船を、奥に流すべし』


 日高は、呟いた。

「これが、ヒントやろか?」

「多分な……」


 そして日高は、頭を抱えた。

「この帆船の模型を、砂場の奥に流せっちゅーのかい?! この洞窟の奥で?! 風も無いのに?!」

「まあ、それが謎なんだろうな……」

「いやいやいや、無理やろ! 帆船やで! 風を送らなかったら、動かへんやろ!」


 しかし鹿島は冷静に、提案ていあんした。

「まあな……。でもちょっと、やってみようぜ」

「何をや?」

「風を送って、帆船を動かすんだよ」

「どうやってや?」


 鹿島は、かがんで顔の位置を帆船と同じ高さにした。そして思い切り、息を吹いた。

「ふううううー、ぶふううううー……。はあはあ、やっぱりダメか……」


 すると日高も、提案した。

「でも考え方は、間違っていないと思うで。とにかく帆船に風を、送るんや! 例えば、こうやって!」と、手であおいで風を送ろうとした。だが送れなかった。

「はあはあ、やっぱりダメか……。くそっ、こんなの、どないせーっちゅうねん!」


 鹿島は、考えた。

「うーん、やっぱりダメか……。やっぱり風を送らなきゃ、ならないんだよなあ……。よし、この洞窟に、うちわか何か風を送れそうな物がないか、探そうぜ!」

「そうやな、その方がよさそうやな……」と二人は、洞窟に中を探し出した。


 さっきと同じように、日高は左側、鹿島は右側を探し始めた。少しすると、日高が声を上げた。

「うわっ、何やこれ? おーい! 鹿島! ちょっとこれ、見てみー!」

「何だ? どうした?」

「これや!」と日高は、充電式掃除機じゅうでんしきそうじきを見せた。


「何だ、これ? どこにあった?」

「岩の砂場から、ちょっと離れた所や!」

「そうか……。なあ、日高。その掃除機、使えるか?」

「えーと……」と日高は、スイッチを押してみた。


 すると『ゴオオオオー』という、吸引音きゅういんおんがした。先端部せんたんぶでゴミを吸い取り、内部でゴミを集め、後部に排出口はいしゅつこうがあるタイプだ。


 日高は、目を輝かせた。

「お! これを帆船に向けたら、どうなるんやろ?!」と、掃除機の先端部を帆船に向けた。すると吸引された帆船は、少し手元に移動した。


 鹿島は思わず、ツッコんだ。

「おめー、帆船は奥に送らなきゃなんねえのに、手元に移動させてどうすんだよ!」

「あー、堪忍かんにんなー。でもこういうのって、やってみなけりゃ分らんやん」

「まあ、そうだけどな……」


 鹿島は、決意した。発想はっそうを生むためにのうを強制的に十秒間、休ませるのだ。目をつむり脳を強制的に休ませた後、今度は脳をフル回転させた。そして、ひらめいた。

「そうか、!」

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